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しおりを挟む士龍が三年の教室がある新校舎へ行きたいというので、オレはあまり来たことがない新校舎へ入る。
三年の校舎にはオレたちはあまり近づかない。
こっちから見れば先輩しかいないので、こんなところに来るのは本気で遠慮したい。
新校舎へ入った途端に、肌を刺すようなピリピリとした空気が流れてくるので体が強張る。
士龍は、オレの気持ちまでは全く気にもしないのか、まったりいつもと変わらない様子で廊下を歩いている。
士龍にとっては去年までの同級生たちのいる校舎である。
こっちがビビっている意味など理解しないだろう。
それに校内では士龍が一番強いと言われているのだし、彼が緊張する理由もない。当然といえば当然だ。
「あれえ。士龍ちゃんじゃないの。キャハ、コッチくるなんてめずらしいねえ。足引き摺って、なんかしたの?もーしかしてえ、怪我しちゃってたりする?」
廊下で気軽に声を掛けてきたのは、小倉派の幹部の峰さんである。
小倉さんの右腕で狂犬と言われているくらいヤバイ人なので、あまり関わりたくない。
小倉さんの為ならば殺人だって犯しそうだという専らの噂である。
士龍は峰さんの言葉に臆した様子もなく、怪我していることを隠す気もないのか、にっこりと余裕そうな表情で笑った。
「あ、ミネちん。ああ、足か、こないだ、テッポウでうたれた」
「キャハハッ、マジかよ!テッポウって、相変わらず刺激的だあね、士龍ちゃんは。でーもそんなこと言ってて大丈夫なの?あんまり油断してると、足だけに、足元すくわれちゃうよ」
「あしもと、すくう?足がダメでも腕は大丈夫だよ」
峰さんの言葉を半分も理解していないような士龍の言い草に、両脚を叩いて笑い、オレの方をを気にするようにちらちらと見る。
「なあに、誰かと思えば富田じゃない。士龍ちゃんと一緒にいるとか、いつの間に仲良し?」
「ああ、こいつは、俺の彼ぴっぴー」
士龍はニヤニヤと笑うと、見せつけるようにオレの頬にちゅっと唇を押し付けたので、ビックリして腰をぐっと引き寄せてしまう。
「ブッワッ、キャハハ、なにそれ!マジかよ?とうとう、ついに士龍ちゃん、男に走ったかよ、すげえ笑えるっ」
ギャハハと笑い、オレの背中をバンバン叩いてくるが、目の中が全く笑ってねえのは気のせいではないだろう。
どこか昏く狙うような獰猛な何かがいるようで、背筋が凍る。
「うわ、士龍、今日はこっちにきたんか?きて早々、なあに爆弾発言してやがるんだよ」
目の前に現れた村澤さんが、まるで庇うかのように峰さんと士龍の間に入り込む。
「あ、ショーちゃん。ちっと怪我したから、それ報告しよっかかなってさ」
のんびりした調子で士龍は村澤さんにピースサインしてみせる。
村澤さんは吊りあがり気味の目で、オレをグイッと睨みつけた。
「報告は、ナオヤからきてるし。つかな、富田、オマエさあ、なに、士龍に怪我させてんだよ」
グイッと胸倉を掴まれて睨み降ろされる。
頑固親父の逆鱗に触れてしまったようだ。
「すいません、村澤さん」
流石に士龍の右腕と呼ばれているだけあって眼力は強い。木崎なんかとは比較にならない。
「ちょいちょい、ショーちゃん、いぢめたらダメダメ。離して離して、今回のは俺が悪いの。前に話したように、俺が怪我した時は、コイツのこと振って別れてたわけだし」
村澤さんの手を軽くとって、士龍はオレの胸倉から離させる。
「士龍…………そうだけどさ。まあ、でもよ、コイツはオマエを傷つけないって約束した」
「前に話したケド、先に傷つけたのは俺だよ」
「怪我してまで助けにいくほど、こいつのドコがいいんだって」
「ズバリ、カラダだけどね」
ほんわか笑顔で言い募る士龍に、オレは気恥ずかしくなりいたたまれない。
まあ、村澤さんにとって、抜けたヤツはいつまでも敵認定されても仕方ないしな。
「ショーちゃん、ギャラリー集まられても困るから、あっち行こう
ぜ。みんないんだろ?」
士龍は視線を空き教室に向けて、松葉杖代わりにオレに体を預けて、ゆっくり歩き出す。
「なんだよ、シローちゃん。結婚会見しにきたんだって?」
教室から、ニヤニヤしながら出てきた背の高いツーブロの男は、今の東高のトップである小倉遥佳(はるよし)である。
三白眼で目つきは悪い男で、何を考えているか分からないが、見ている限りろくでもない性格をしているのが分かる。
「あ、ハルちゃんじゃん。久々だねえ。まあ、俺の彼氏を自慢にきたのよ」
気さくな口調で爆弾発言をかます士龍の口をいっそ塞ぎたい。
「ついに男に走ったって?……へえ、そんなに具合いいの?このコ、一度使わせてよ?」
無造作にオレのケツを触ってくるので、思わず睨みあげると、士龍はやんわり小倉さんの腕をオレから引き剥がす。
「そっちじゃない、たけおは、イイちんこしてる。でもハルちゃんには貸してあげないけどね」
「ブッハ、マジで!?シローちゃん、もう処女ぢゃないのね」
「残念ながら、俺の処女は、たけおに捧げたのよ」
なんとも不毛な会話で、口調は穏やかなのに、なんだかピリピリとあたりの空間に緊張感が走る。
今のトップである小倉さんは、さながら不戦勝のようなものだから、士龍にはコンプレックスがあるのは明白である。
「悪食すぎねえか?オマエ、富田派の富田だっけ?こいつを落としたのは、打算のためか?」
小倉さんが威嚇するように、明らかに敵意を孕んだ目でオレを見据えてくる。
「…………そんなんじゃねえですよ。この人がどんなオンナより、可愛くてエロくて、たまらねぇからすよ」
「へえ、シローちゃん、俺にもヤらせてよ」
「ヤダ。俺は一棒主義よ。それに、ハルちゃんは、彼女いるっしょ。浮気はよくねえよ」
じゃあねと、手を振りオレの背中を軽く叩いて、教室へと促した。
睨みつける小倉さんの目は剣呑で、ざわつく気持ちだけがたまらなく不安になった。
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