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しおりを挟む士龍が心配になって、奴らがたまり場にしている空き教室へ行き、ドアから中を覗き込むと、村澤さんの声が聞こえた。
「そんなら、仕方ねえな…………あのガキ、士龍に傷つけたらぶち殺すケドな」
まるで、嫁に出す父親のようなことを言うんだななどと思いながら、オレはドアから教室へと入って、その場で宣言した。
「ぜってえ……傷つけない、命にかけて大事にするから、一緒にいさせてくれ」
が、次の瞬間、腹に鈍痛が走りオレの体は吹っ飛んで床に叩きつけられた。
いきなりモノも言わずにオレの体を吹っ飛ばしたのは、やっぱり村澤さんだった。
ホントに娘を嫁にやる頑固おやじそのものじゃねえか。
「ッ、てえ…………」
ふらっふらになって体を起こして、村澤さんを睨み返す。
村澤さんくらいなら、タイマンでやれば倒せるかもしれないなとは思ったが、喧嘩をしにきたわけではない。
「ショーちゃん…………をい、ちょっと待って」
士龍が立ち上がろうとするのを、栗原さんが押さえ込んでいる。このへんの連携もさすがだなって思って羨ましくなる。
「悪ィ、とりあえずムカッとしてたんで、ケジメの一発くらい入れさせろや」
村澤さんはハハハと豪快に笑って、これでしまいだとオレに言うので、オレは腹を擦って頷いた。腹の中にためておかれる方が、後で問題になるだろう。
「たけお、自分のトコには話してきたんか?」
「ああ。別に、士龍に張り合ってたのはオレだけだし、解散とかじゃなきゃ、スルーしてくれるらしい」
手招きされて士龍の傍へと近づくと、二年の上田多一がオレの胸倉を掴んでくる。
「富田、テメェ、士龍サンが抜けてンのをいいことに、何コマしてんだよ」
まあ、コマしたのはそうだが、上田に文句を言われる筋合いはねえな。
つーか、抜けてるって、手下に思われてるんだな。やっぱり。
普段なら捻り潰せる相手だが、士龍の目の前ではそんなことはできない。
「多一君、俺は抜けてるかもだが、嫌なら殴るぞ。まあ、それに、虎王のちんこきもちーし」
とんでもない士龍の言い草にオレは思わず目を白黒させた。
ああ、そうだった。こいつはそういう奴だ。照れ隠しとかではなく、本気でオレをちんこだけ気に入っているのかもしれない。
「……士龍サン、そんなにきもちいいの好きなら俺だって、士龍サン抱けますから!」
「俺もだ、こんな赤髪野郎のちんこより、俺のほうがイイですよ。士龍サン、考え直してください」
「全員で、士龍サンのこと気持ちよくさせれますよ」
木崎まで加わって抱けるなどと必死なアピールが始まり、オレは思わず全員を睨みつけた。
渡すつもりなんかサラサラないが、士龍が試してみたいなどと言いだしたら、オレには止めるだけの自信はない。
目の前でガハハハっと大声で笑う声が響いて、村澤さんが士龍の背中を叩いてその様子を見て面白がっている。
「士龍、超モテモテ!うわー、マジでうらやましくねえ」
「ショーへー、茶々いれねえの。こないだは、シローの恋バナ応援するって言ったし」
「バカ、あれは、小悪魔ロリータのぼいんぼいんちゃんだと想定してたんだよ」
栗原さんがいいかげんにしろよと言って、村澤さんを諫めるのを横目で見て、士龍の肩をぐっと掴んで視線を合わせた。
そうだ。村澤さんたちが話しているように、士龍には好きなオンナがいたはずだ。それなのにオレを選んでくれたんだ。
「まだ、ちんこだけかもしれねーけど、でもオレはホンキだから。お願いだから……他のは……試さないでく、れ」
必死に言い募ろうとすると、士龍は大きな掌でオレの口を塞いだ。
「悪りぃ。俺は一本しかいらねーし、コイツのを気にいってっから。オマエらのちんこもきっとイイモンだと思うけどよ。恋心とかは、そんだけじゃねーからさ。分かってくれ」
士龍の言葉に一番驚いたのはオレだった。
ちんこが気に入ったとしか、昨日は聞いていないのに恋心はそれだけじゃないって言ったのだ。
「なんで、富田なんですか?」
木崎はまだ納得がいかないようにオレを睨みつけて、士龍を問い詰める。
オレは士龍のやり方に異を唱えて出て行った奴で、木崎はずっと士龍の傍で、彼を信奉して過ごしてきたのだ。
「ンなの、知るか。分かって恋愛なんかできんだろ、とりあえずそういうことだから」
士龍は勢いよく立ち上がると、オレの腕を引いてそのまま教室をでようとする。
それ以上説明するのが面倒だと顔に書いてあるが、そもそも隠したくないから説明すると言ったのは士龍自身である。
こんな中途半端では、納得などしないだろう。
「ちゃんと話すっったのはオマエだろ?中途半端すんなよ」
「だってよ、すぐ納得してくれると思ったし、ナオヤすら味方してくんねーしよ」
子供のようにぷうと頬を膨らませて唇を尖らす姿は、ホントに可愛らしくて仕方がなくて、わかったと言いたくなる。
士龍は、直ぐに仲間が承知すると考えていたんだろう。
「俺らは、士龍サンの味方ッスヨ。ただただこの赤髪が気に食わないだけです」
「ウチを抜けたクセにどのツラ下げて、士龍サンと付き合うとか!」
幹部たちがオレを誹謗するのを、士龍は、なんとなく悔しそうな顔で唇をキュッと噛んで、眉を寄せて聞いている。
「悪ィ、俺がコイツんこと可愛いって思ってンだ。もちろんオマエらんことも大事だけど…………さ。ホンキなんだ」
オレはそんな風に言ってくれると考えていなかったので、思わず目を見張って隣の長身を見上げた。
「そりゃさあ、毎回さ絡んでくるのウゼーなァって最初は思ってたケドよ」
「……士龍サン、騙されてっかもしれねーすよ。コイツはテッペンとるのにウチと争わなけりゃラクなはずだし」
木崎はオレを指差して、必死に詰め寄る。
「俺は元々、テッペンなんか欲しくないよ」
面倒そうな顔で、首を竦めてみせる。
「士龍がテッペンとるなら、オレははいらねえし」
「……だーから、俺はそんなめんどくせーのはいらねェ。大体、コイツら面倒みるんで充分なんだよ」
オレの言葉にムッとして、士龍はぎりっと睨み下ろす。その表情にゾクゾクしてしまうのは、性癖的にヤバいなと思う。
「……わかりました。士龍サン。富田、士龍サンになんかあったら、俺らは全てをかけてオマエを潰しにいくからな……」
木崎は、俺に念を押すように言うと、空き教室を出て行く。
他の奴らも、それに習って士龍に軽く頭を下げて出て行く。
「熱いなあ、二年生」
「ショーへ、オマエは先に富田を殴ってるからね。アイツらのこと言えないからね」
栗原さんと村澤さんは、ぐだぐた言いながらも士龍の背中を叩く。
村澤さんは士龍になにか耳打ちして、士龍は顔を真っ赤にして村澤さんの背中を叩き返す。
やっぱりこの人たちの関係は、羨ましい。
「虎王、お許し出たしー、帰るぞ」
のんびりとした士龍の言葉と腕をくいとひかれ、我に返ったオレは、士龍の背中を追うように教室を出た。
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