竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
上 下
35 / 77

35

しおりを挟む

士龍が心配になって、奴らがたまり場にしている空き教室へ行き、ドアから中を覗き込むと、村澤さんの声が聞こえた。
「そんなら、仕方ねえな…………あのガキ、士龍に傷つけたらぶち殺すケドな」
 まるで、嫁に出す父親のようなことを言うんだななどと思いながら、オレはドアから教室へと入って、その場で宣言した。
「ぜってえ……傷つけない、命にかけて大事にするから、一緒にいさせてくれ」
が、次の瞬間、腹に鈍痛が走りオレの体は吹っ飛んで床に叩きつけられた。
いきなりモノも言わずにオレの体を吹っ飛ばしたのは、やっぱり村澤さんだった。
 ホントに娘を嫁にやる頑固おやじそのものじゃねえか。
「ッ、てえ…………」
 ふらっふらになって体を起こして、村澤さんを睨み返す。
 村澤さんくらいなら、タイマンでやれば倒せるかもしれないなとは思ったが、喧嘩をしにきたわけではない。
「ショーちゃん…………をい、ちょっと待って」
 士龍が立ち上がろうとするのを、栗原さんが押さえ込んでいる。このへんの連携もさすがだなって思って羨ましくなる。
「悪ィ、とりあえずムカッとしてたんで、ケジメの一発くらい入れさせろや」
 村澤さんはハハハと豪快に笑って、これでしまいだとオレに言うので、オレは腹を擦って頷いた。腹の中にためておかれる方が、後で問題になるだろう。
「たけお、自分のトコには話してきたんか?」
「ああ。別に、士龍に張り合ってたのはオレだけだし、解散とかじゃなきゃ、スルーしてくれるらしい」
 手招きされて士龍の傍へと近づくと、二年の上田多一がオレの胸倉を掴んでくる。
「富田、テメェ、士龍サンが抜けてンのをいいことに、何コマしてんだよ」
 まあ、コマしたのはそうだが、上田に文句を言われる筋合いはねえな。
 つーか、抜けてるって、手下に思われてるんだな。やっぱり。
 普段なら捻り潰せる相手だが、士龍の目の前ではそんなことはできない。
「多一君、俺は抜けてるかもだが、嫌なら殴るぞ。まあ、それに、虎王のちんこきもちーし」
 とんでもない士龍の言い草にオレは思わず目を白黒させた。
ああ、そうだった。こいつはそういう奴だ。照れ隠しとかではなく、本気でオレをちんこだけ気に入っているのかもしれない。
「……士龍サン、そんなにきもちいいの好きなら俺だって、士龍サン抱けますから!」
「俺もだ、こんな赤髪野郎のちんこより、俺のほうがイイですよ。士龍サン、考え直してください」
「全員で、士龍サンのこと気持ちよくさせれますよ」
木崎まで加わって抱けるなどと必死なアピールが始まり、オレは思わず全員を睨みつけた。
渡すつもりなんかサラサラないが、士龍が試してみたいなどと言いだしたら、オレには止めるだけの自信はない。
 目の前でガハハハっと大声で笑う声が響いて、村澤さんが士龍の背中を叩いてその様子を見て面白がっている。
「士龍、超モテモテ!うわー、マジでうらやましくねえ」
「ショーへー、茶々いれねえの。こないだは、シローの恋バナ応援するって言ったし」
「バカ、あれは、小悪魔ロリータのぼいんぼいんちゃんだと想定してたんだよ」
 栗原さんがいいかげんにしろよと言って、村澤さんを諫めるのを横目で見て、士龍の肩をぐっと掴んで視線を合わせた。 
 そうだ。村澤さんたちが話しているように、士龍には好きなオンナがいたはずだ。それなのにオレを選んでくれたんだ。
「まだ、ちんこだけかもしれねーけど、でもオレはホンキだから。お願いだから……他のは……試さないでく、れ」
 必死に言い募ろうとすると、士龍は大きな掌でオレの口を塞いだ。
「悪りぃ。俺は一本しかいらねーし、コイツのを気にいってっから。オマエらのちんこもきっとイイモンだと思うけどよ。恋心とかは、そんだけじゃねーからさ。分かってくれ」
 士龍の言葉に一番驚いたのはオレだった。
 ちんこが気に入ったとしか、昨日は聞いていないのに恋心はそれだけじゃないって言ったのだ。
「なんで、富田なんですか?」
 木崎はまだ納得がいかないようにオレを睨みつけて、士龍を問い詰める。
オレは士龍のやり方に異を唱えて出て行った奴で、木崎はずっと士龍の傍で、彼を信奉して過ごしてきたのだ。
「ンなの、知るか。分かって恋愛なんかできんだろ、とりあえずそういうことだから」
 士龍は勢いよく立ち上がると、オレの腕を引いてそのまま教室をでようとする。
それ以上説明するのが面倒だと顔に書いてあるが、そもそも隠したくないから説明すると言ったのは士龍自身である。
 こんな中途半端では、納得などしないだろう。
「ちゃんと話すっったのはオマエだろ?中途半端すんなよ」
「だってよ、すぐ納得してくれると思ったし、ナオヤすら味方してくんねーしよ」
子供のようにぷうと頬を膨らませて唇を尖らす姿は、ホントに可愛らしくて仕方がなくて、わかったと言いたくなる。
士龍は、直ぐに仲間が承知すると考えていたんだろう。
「俺らは、士龍サンの味方ッスヨ。ただただこの赤髪が気に食わないだけです」
「ウチを抜けたクセにどのツラ下げて、士龍サンと付き合うとか!」
幹部たちがオレを誹謗するのを、士龍は、なんとなく悔しそうな顔で唇をキュッと噛んで、眉を寄せて聞いている。
「悪ィ、俺がコイツんこと可愛いって思ってンだ。もちろんオマエらんことも大事だけど…………さ。ホンキなんだ」
オレはそんな風に言ってくれると考えていなかったので、思わず目を見張って隣の長身を見上げた。
「そりゃさあ、毎回さ絡んでくるのウゼーなァって最初は思ってたケドよ」
「……士龍サン、騙されてっかもしれねーすよ。コイツはテッペンとるのにウチと争わなけりゃラクなはずだし」
木崎はオレを指差して、必死に詰め寄る。
「俺は元々、テッペンなんか欲しくないよ」
面倒そうな顔で、首を竦めてみせる。
「士龍がテッペンとるなら、オレははいらねえし」
「……だーから、俺はそんなめんどくせーのはいらねェ。大体、コイツら面倒みるんで充分なんだよ」
オレの言葉にムッとして、士龍はぎりっと睨み下ろす。その表情にゾクゾクしてしまうのは、性癖的にヤバいなと思う。
「……わかりました。士龍サン。富田、士龍サンになんかあったら、俺らは全てをかけてオマエを潰しにいくからな……」
木崎は、俺に念を押すように言うと、空き教室を出て行く。
他の奴らも、それに習って士龍に軽く頭を下げて出て行く。
「熱いなあ、二年生」
「ショーへ、オマエは先に富田を殴ってるからね。アイツらのこと言えないからね」
栗原さんと村澤さんは、ぐだぐた言いながらも士龍の背中を叩く。
村澤さんは士龍になにか耳打ちして、士龍は顔を真っ赤にして村澤さんの背中を叩き返す。
やっぱりこの人たちの関係は、羨ましい。
「虎王、お許し出たしー、帰るぞ」
のんびりとした士龍の言葉と腕をくいとひかれ、我に返ったオレは、士龍の背中を追うように教室を出た。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

猛獣のツカイカタ

怜悧(サトシ)
BL
■内容:調教師(オネエ)×ヤクザ 更迭を言い渡された久住組若頭工藤甲斐は、組長に刃を向け破門となりかける。 組長の右腕佐倉は、工藤の躾をすることを条件に彼を預かり、知り合いの調教師へと預けることにした。 監禁/調教/ヤクザ受/スカトロ/SM/玩具/公開/輪姦/ ◇工藤 甲斐  (くどう かい) 年齢:25歳  身長:183cm 指定暴力団久住組 (元)若頭 久住組前組長 四代目 工藤 武志(むさし)の長男 硬い髪質の黒髪、少し角張った輪郭と鼻から頬にかけて刃傷 がある。研ぎ澄まされた目つきは獰猛。 恫喝、はったり、度胸は生まれついてのヤクザ者の風格。 ◇串崎 一真  (くしざき かずま) 年齢:28歳 身長:178cm UnderBordeauxというボンテージ専門店の店主。 裏の顔として調教師、人身売買にも手を染めている。 緩いウェーブのかかった黒髪、鼻筋が高く彫りの深い美青年 口調はオネエだが、女装などはしておらず、大抵がスーツ姿。 ◇佐倉 虎信  (さくら とらのぶ) 年齢:40歳 身長:188cm 指定暴力団久住組 若頭 工藤が子供の頃からの教育係、兼補佐。 久住組の懐刀と呼ばれるほどの武闘派だが頭も切れる。 工藤が更迭された後は、跡目にと見込まれている。 表紙は藤岡るとさん作

俺たちの××

怜悧(サトシ)
BL
美形ドS×最強不良 幼馴染み ヤンキー受 男前受 ※R18 地元じゃ敵なしの幼馴染みコンビ。 ある日、最強と呼ばれている俺が普通に部屋でAV鑑賞をしていたら、殴られ、信頼していた相棒に監禁されるハメになったが……。 18R 高校生、不良受、拘束、監禁、鬼畜、SM、モブレあり ※は18R (注)はスカトロジーあり♡ 表紙は藤岡さんより♡ ■長谷川 東流(17歳) 182cm 78kg 脱色しすぎで灰色の髪の毛、硬めのツンツンヘア、切れ長のキツイツリ目。 喧嘩は強すぎて敵う相手はなし。進学校の北高に通ってはいるが、万年赤点。思考回路は単純、天然。 子供の頃から美少年だった康史を守るうちにいつの間にか地元の喧嘩王と呼ばれ、北高の鬼のハセガワと周囲では恐れられている。(アダ名はあまり呼ばれてないが鬼平) ■日高康史(18歳) 175cm 69kg 東流の相棒。赤茶色の天然パーマ、タレ目に泣きボクロ。かなりの美形で、東流が一緒にいないときはよくモデル事務所などにスカウトなどされるほど。 小さいころから一途に東流を思ってきたが、ついに爆発。 SM拘束物フェチ。 周りからはイケメン王子と呼ばれているが、脳内変態のため、いろいろかなり残念王子。 ■野口誠士(18歳) 185cm 74kg 2人の親友。 角刈りで黒髪。無骨そうだが、基本軽い。 空手の国体選手。スポーツマンだがいろいろ寛容。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

教育実習でも関係ない?!─どんな行為でも大歓迎!自由すぎる学園の日常─

鈴香
BL
〈あらすじ〉 舞台はとある田舎の高等学校。 私立花宮学園。 教育実習生としてそこを訪れた鮎喰愛汰と新島裕兎。 二人が朝礼に出向くとそこでは想像していなかったことが行われていて── 二人は校内の淫らな規則に身を委ねることになり 何もかもが変わってゆく。

朝焼けは雨

怜悧(サトシ)
BL
※18R 元ヤン受(クズ)受け 高校時代は校内トップのヤンキーとして派閥を仕切っていた小倉だったが、卒業後就職先も一週間で暴力事件を起こしてクビになる。 実家も追い出されていく当てもなく、右腕だった幼馴染の峰のところへ転がり込んだが、そんな生活も長く続くこともなかった・・・・ 表紙 藤岡ると 小倉遥佳[おぐらはるよし](19歳) 8月19日生まれ 180cm 69kg 黒髪、オールバック。目つきは悪く三白眼。耳には大きく開けたピアス穴。いかにもな元ヤン悪そうな顔つきで、印刷会社に就職するも1週間で上司に暴行をくわえて懲戒免職。 基本的に我慢がきかない性格。 客引きとか単発の仕事を続けるも、長続きしない。幼馴染の峰の部屋に居候していたが失踪。 峰 頼人[みねらいと](18歳) 1月12日生まれ 176cm 68kg 爽やかな栗色の髪。糸目。一見元ヤンには見えないような笑顔をはりつかせている。中古車取り扱いの営業マン。調子のいいことを並べる口先3寸がお得意。 小倉とは幼馴染。小倉のためなら汚れごとも率先して対応する。凶暴わんこ気質。

堕ちる犬

四ノ瀬 了
BL
非合法組織に潜入捜査をしていた若手警察官である主人公が、組織に正体を暴かれ人権を無視した厳しい制裁を受ける話。 ※凌辱、輪姦、監禁、スカ、モブ、嘔吐、暴力、拷問、流血、猟奇、洗脳、羞恥、卑罵語、緊縛、獣姦、野外、人体改造、刺青、NTR、フェチズムなどの要素を含みます。ほぼ全話R18描写有り。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

処理中です...