竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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ハセガワに敵わないことくらい頭じゃ分かっていたが、眞壁に上から言われた気がして腹立って仕方がなかった。
去年は下にいたかもしれないが、今は対等な立場なはずだ。
ヤル気のない様子でいかにも面倒臭いけど話の相手してやろうっていう態度が鼻についた。
いつでも余裕綽々で、何よりそれが似合ってしまうし、タレ目のイケメンなのも、全部腹がたって仕方がない。
「タケちゃん、報復いくなら、俺たちもついていくぜ」
教室を飛び出して、オレたちのたまり場である体育倉庫に行くと、派閥のメンバーは教室の一件を耳にしたのか全員集まっていた。
幼馴染みの元宮はオレの様子を見て、落ち着かせるように肩を叩いてくる。
「金崎のヤツのケツ拭くのに、オマエらに危険な目ェあわすのもなァって……それも正論なンだけどさ」
「ナニヨ、士龍サンに感化されちゃった?」
 元宮とは小学生の頃からの親友だ。眞壁の派閥にも一緒に入って、抜けて派閥を作る話をした時も、一番に賛成して一緒にいてくれた。
「バカ言えよ」
「士龍サンが一人でそういう喧嘩するの、俺たちイヤだったから抜けたんだろ?だから、オマエにもして欲しくない」
「別に感化なんかされてねえって……」
元宮の言葉になんだかちょっとイラッとして、手にしていた鉄パイプをギュッと握り直した。
眞壁は仲間を必要以上に大事にして、まったく必要としてなかった。何のための派閥なのか、オレにはわからなくなっていた。
「報復に行っても、潰されると思うンだ。それはわかってンだけど、このまま何もせずじゃあよ、悔しいだろォ」
「まぁ……東高の武闘派としちゃあ黙ってらんねえよな」
オレの心を読んだのか、元宮は言いたいことを先回りしてくれる。
「金崎が卑怯な手ェ使ったってのがなぁ……。そら、ダチを輪姦されたらなあ……今回はウチに非がありまくる」
相棒を性的なはけ口になんかされたなんて聞いたら、それは憤慨して潰そうとするのは普通だ。ハセガワには非などまるでない。
「タケちゃん。それな、今回は金崎が全面的に悪ィからな。有名な話だぜ、ハセガワと相棒がデキてるって」
「まさか、日高はすげえオンナったらしで有名だろ」
「北高じゃ有名な話だ。本人ら隠してねえみたいだしな」
金崎もその噂を聞いて利用しようと考えたのだろう。結局、地雷踏んで吹っ飛んだってわけだな。
恋人マワされたら、そら、命張っても相手潰すだろうな。
そうでなきゃ漢じゃねえ。
眞壁の言う通り、自分の派閥のことをちゃんと考えたら、ここで突っ込むのは危険なことは分かってる。
「タケちゃんは、なんでそんなに報復してえの?」
「何にもしねえなら、東がナメられンだろ」
「ハセガワにナメられても今更じゃねえか。何も手ェださないがいいと思うぞ、士龍サンが言うようにさ。北高とは元々縄張り争いもねえし、ハセガワだけじゃねえか……」
北高で喧嘩をするような奴はハセガワしかいないし、縄張り争いさえない。ハセガワだって、こっちが絡みにいかなければ、何をしてくるわけでもない。普通の進学校に通っているというのに、迷惑な話だろう。
元宮はオレの真意を探ろうとじっと見返してくる。
元宮もこの喧嘩に、勝機がないと思っているだろうことは分かるが、オレの意志を尊重しようとしてくれているのだろう。
「ミヤ、オマエらはついてくんな。その面目ってヤツくれーなら、オレ独りでなんとかすっから」
 自分はされたくない癖に、自分がその立場になると単独行動をしてしまいたいと思ってしまう。
「ちょっと待てよ、マジでどこいくんだ。タケちゃん!俺らはついていくって」
元宮の制止を振り切ってオレは鉄パイプ片手に、駆け出した。

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