22 / 27
22
しおりを挟む
鬱蒼と茂る森を抜けると馬が脚をとられる程の湿地帯が続いている。湿度があまりに高いのか、靄がかかっていて一寸先すら臨めず、昼前だというのに闇の中を走るのに等しい。
「馬が大分疲れてきているな。蹄を手入れしないとこの先がおもいやられるぞ」
歩くのと変わらない速度になってしまった馬の足取りに、辟易した様で彼はフードの奥から苛立ちを含んだ声を漏らした。
「っても、休むとこなんかねえし.....」
前を走らせていた男は振り返り、我慢がきかない相手に唇を尖らせて馬を停める。
「急いてる時はそんなもんかもしれねえけど、あ、ルイツ、あ、れは、灯りじゃねぇか」
靄の中にほんのりと橙色の影がゆらゆらと揺らめいては、消えそうに影に隠れる。
ほんのりと暖かなスープの匂いも僅かだが鼻を掠める。
露営などをしている旅団があるかもしれない。悪くて盗賊などのならず者の集団だろうが、そうであっても問題はないと彼は考えると、背中に背負った体躯に合わない大剣を引き抜く。
そしておもむろに馬の鼻先を灯りの方に向ける。
「ちょっと待てよ、ガイザック!こんなの罠かもしれねえだろ」
焦ったルイツは男を止めようと名前を呼ぶが、彼は止めて人の言う事を聞くようなタイプではない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ!」
フードを外して美しいといえる顔を晒し、煌めくような金の髪をはらりと舞わせると、口元を引き上げ着いてこいとばかりに馬の腹を蹴り灯りに向かって突進した。
重い足取りの馬を少し走らせて、先を行く男の背中を負いながら揺らめく灯りの源まで辿り着くと、もやに薄暗い林の中に隠れるように高床式の民家が集っている。
水草が生い茂る沼地の中に土を盛った細い道が作られ、中に入れるようになっている。
「こんなところに、村があるとはな」
村と行ってもせいぜい十件程の建物しかないが、集落には十分といえる。
「日も当たらない場所だし、大した作物も採れないだろうし、どうやって暮らしてるのか」
嫌な予感しかせずに、ルイツは馬を降りて集落へと入って行こうとするガイザックの腕を思わず掴む。
「生物は住んでるし、まったく食いぶちがねえわけじゃないだろ。俺らもまったく金がないわけでもねえし、一晩の宿くらいはとらせてもらえるだろう」
楽天的な解釈をして、まだ昼だというのに薄暗い村の中にずかずかと入っていく。
ルイツはこのガイザックという男と数ヶ月間一緒に旅をしてきてはいるが、追われている身であるにもかかわらず無警戒すぎる行動が理解できずにいた。
大陸一の剣の使い手と呼ばれた英雄だった彼の自信からくるものなのか、単に雑なのか。多分後者なのだろうと、最近気づいてきた。
「村にしては静かすぎるし、ちょっと待ってって」
止める前に目の前の家の梯子を上がってドアをたたく。
「すいません、旅の者なんですが」
フードを被り直してガイザックは扉が開かれると、出てきた男に笑顔を見せて宿をとらせて欲しいと交渉し始めた。
「この界隈は湿地帯で年中靄でね、よく旅人が迷い込んでくるんだ。生憎、村の治安の掟で教会にしか旅人は泊められないんだけど、教会に連れていこうか」
こういうことはよくあるのだと、男は愛想よく言うと部屋からランタンを持ってガイザックと一緒に梯子を降りてくる。
「俺らもこんなところに、村があるなんて思わなかったから」
男に軽く頭をさげて、ルイツは大丈夫だっただろと言うガイザックに肩を降ろして、道の奥へと歩いていく。
「何も無い村だけどね。この靄と聖母像が山賊たちから守ってくれているんだ」
「聖母像?」
問い返したガイザックに、男は教会には災いから村を守る聖母像が祀られているのだと語った。
「馬が大分疲れてきているな。蹄を手入れしないとこの先がおもいやられるぞ」
歩くのと変わらない速度になってしまった馬の足取りに、辟易した様で彼はフードの奥から苛立ちを含んだ声を漏らした。
「っても、休むとこなんかねえし.....」
前を走らせていた男は振り返り、我慢がきかない相手に唇を尖らせて馬を停める。
「急いてる時はそんなもんかもしれねえけど、あ、ルイツ、あ、れは、灯りじゃねぇか」
靄の中にほんのりと橙色の影がゆらゆらと揺らめいては、消えそうに影に隠れる。
ほんのりと暖かなスープの匂いも僅かだが鼻を掠める。
露営などをしている旅団があるかもしれない。悪くて盗賊などのならず者の集団だろうが、そうであっても問題はないと彼は考えると、背中に背負った体躯に合わない大剣を引き抜く。
そしておもむろに馬の鼻先を灯りの方に向ける。
「ちょっと待てよ、ガイザック!こんなの罠かもしれねえだろ」
焦ったルイツは男を止めようと名前を呼ぶが、彼は止めて人の言う事を聞くようなタイプではない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ!」
フードを外して美しいといえる顔を晒し、煌めくような金の髪をはらりと舞わせると、口元を引き上げ着いてこいとばかりに馬の腹を蹴り灯りに向かって突進した。
重い足取りの馬を少し走らせて、先を行く男の背中を負いながら揺らめく灯りの源まで辿り着くと、もやに薄暗い林の中に隠れるように高床式の民家が集っている。
水草が生い茂る沼地の中に土を盛った細い道が作られ、中に入れるようになっている。
「こんなところに、村があるとはな」
村と行ってもせいぜい十件程の建物しかないが、集落には十分といえる。
「日も当たらない場所だし、大した作物も採れないだろうし、どうやって暮らしてるのか」
嫌な予感しかせずに、ルイツは馬を降りて集落へと入って行こうとするガイザックの腕を思わず掴む。
「生物は住んでるし、まったく食いぶちがねえわけじゃないだろ。俺らもまったく金がないわけでもねえし、一晩の宿くらいはとらせてもらえるだろう」
楽天的な解釈をして、まだ昼だというのに薄暗い村の中にずかずかと入っていく。
ルイツはこのガイザックという男と数ヶ月間一緒に旅をしてきてはいるが、追われている身であるにもかかわらず無警戒すぎる行動が理解できずにいた。
大陸一の剣の使い手と呼ばれた英雄だった彼の自信からくるものなのか、単に雑なのか。多分後者なのだろうと、最近気づいてきた。
「村にしては静かすぎるし、ちょっと待ってって」
止める前に目の前の家の梯子を上がってドアをたたく。
「すいません、旅の者なんですが」
フードを被り直してガイザックは扉が開かれると、出てきた男に笑顔を見せて宿をとらせて欲しいと交渉し始めた。
「この界隈は湿地帯で年中靄でね、よく旅人が迷い込んでくるんだ。生憎、村の治安の掟で教会にしか旅人は泊められないんだけど、教会に連れていこうか」
こういうことはよくあるのだと、男は愛想よく言うと部屋からランタンを持ってガイザックと一緒に梯子を降りてくる。
「俺らもこんなところに、村があるなんて思わなかったから」
男に軽く頭をさげて、ルイツは大丈夫だっただろと言うガイザックに肩を降ろして、道の奥へと歩いていく。
「何も無い村だけどね。この靄と聖母像が山賊たちから守ってくれているんだ」
「聖母像?」
問い返したガイザックに、男は教会には災いから村を守る聖母像が祀られているのだと語った。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる