master

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
上 下
17 / 27

17

しおりを挟む
「おっとご主人様ぁ、ちょっと血ィ流しすぎ。オレの今日の分のゴチソウとっといてくれよ」 

その場にそぐわない、のんびりとした人を食った独特のからかうような声が響くと同時、突風のような黒い影が現れる。
カランカランと乾いた音をたて、ルイツに宛てられていた騎士の剣が折れて舗装された石畳に転がる。

ルイツの肩に腕を置くと、ガイザックはこめかみから流れる血液を舌先で舐めあげ、 
「オマエねぇ、宿で大人しく待ってろよ。大体オマエは狙われてるんだと何度言えば分かる?」 
低い声で少し怒っているような表情を浮かべて、ガイザックはルイツを睨むも、目の前に立つ騎士を眺め肩を聳やかせる。 

「手前等の剣じゃオレには適わないぜ。今なら特別キャンペーンで見逃してやってもいい」 

「若造が何を言う。……その王殺しを引き渡せ」 
引く様子が無いのを見て取れば、仕方がないとばかりに手にしている剣を構えなおす。 
「ならば、地獄への手土産に見せてやろうか。オマエたちの命を絶つ剣技を」 
「笑止」 
騎士たちが剣を構えた瞬間、赤い血しぶきがあがりどさどさっと石畳に倒れこむ。 
騎士たちも何が起こったのかわからぬまま、次々にバタバタと絶命し倒れこむ。 

ガイザックの剣には、血はついてはいなかった。 

その太刀筋の速さに剣先に血がつく前に、すべて切り伏せたのだ。 
何でもないように、その剣を腰にさげると血まみれのルイツを眺め、ほっと息を吐き出す。 

「オマエの血の匂いがしたから、慌てて飛んできちまった。ホントに間に合って良かった、さて逃げるぜ」 
ガイザックはルイツの目を見て、やや疲れた表情を浮かべてぐいっと腕をつかむと駆け出した。
良く見るとガイザックの腕は鬱血したような痕があり、擦過傷で血がにじんでいる。 
「おい、アンタどこで怪我したんだ?」 
「ちょっとタチの悪いヤツら相手にしちまって、拘束されて輪姦されてたから、助けにくるの遅くなった」 
気まずそうな表情を浮かべて掴んだ腕を凝視する相手に何でもないとばかりに笑い浮かべる。 
「拘束って……どうやって抜け出してきたんだ?」 
「オレを誰だと思ってンの?そんな鎖くらいは、ちょっと力入れたら砕けるっての」 

心配するだけ損したってわけだな。 
ルイツは化け物を見るような表情を浮かべて、隣を走るガイザックを眺めて深く吐息をついた。 
多分常識で考えてはいけない人なのだろう。 
でもこの男が無理しているのはわかるから。近いうちに答えをだすべきだ。 

ルイツは決心したようにこぶしを強く握った。
 
もうすぐ宿に着く。着いたら俺はやらなくちゃなんない。 
もう、無理はさせられない。 

「おい、アンタ……ガイザック。俺、アンタを抱こうと思う」 

掴んでいた腕を、ガイザックはふいに離して、剣呑な表情でルイツを睨みつけた。 

「オレは……死んでも嫌だ」 

死ねない体の持ち主は、ルイツの目を見かえして意志の強い表情を浮かべて断言する。 
「決めたんだ、オマエとはやんねえって。最初からそういう約束だ。守れない約束など、オレは、絶対にしない」 
ガイザックの頑なな言葉に、ルイツは目を瞠って首を横に振った。 

意識を保っているのがやっとといった感じなのに、揺るがない心の強さは半端ない。 
国の英雄、勇者、救世主。そんな肩書きを背負って生きてきて、苦しんでいたとしてもそのへきりんも見せない。 

ルイツはガイザックの腕を掴み返して、宿の扉を開き部屋へと向かう。 
壊れてしまってからじゃ遅いのだ。 

「聞いてるのか?」 
「聞いている。俺はまだ弱ぇ。まだ、アンタが必要なんだ。アンタのプライドを守るために心中するのは真っ平だ。アンタが嫌でも、俺はアンタを犯す。アンタは俺を傷つけられない。だから抵抗もできないんだろ?」

 ガイザックは立ち止まり、部屋の扉に視線を投げて、困ったような顔でルイツを見返した。 

「……オマエ……、ハッ、ガキのクセに優しすぎだ。でも、もっと腹減るまでその切り札はとっといてくれ。今は大丈夫。次ハラ減ったらいうからよ」 
今までに見せたことのないような、気弱な表情にルイツは握った腕をそっと離した。 
「それによ、最高の食事ってもんは、死ぬほどハラ減ってからのほうがうめえしな」 
天井を仰いでいつもの能天気な調子でガイザックはのたまい、ゆっくりと部屋の扉をあけて中へと入っていった。 

……全部呪いのせいにしちまえば楽になれるだろうに。 

この気持ちは、多分……同情だけじゃない。 
ルイツは深くため息をついて、ガイザックの後を追うように部屋へ入っていった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

炎の国の王の花

明樹
BL
愛する人に裏切られた俺は、2人の思い出の海に身を投げた……筈だった。死んだと思った俺が目を覚ますと、目の前に赤い髪の男がいて……。 初めて書く異世界ものです。 ちらりとでも見て頂けたら嬉しいです。 よろしくどうぞー! R-18のページに✼印をつけます。 苦手な方はご注意ください。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

上の階のおにいちゃん

らーゆ
BL
マンションの上階に住むおにいちゃんにエッチなことをされたショタがあんあん♡言ってるだけ

処理中です...