朝焼けは雨

怜悧(サトシ)

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第55話→sideH

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目を開けるとぼんやり天井が見えて、俺は少し落胆した。俺はまだ狂ってない。
狂って何もかも分からなくなりたいのに。
綺麗に拭かれた体と、顔に触れると軽く湿布が貼ってある。隣に抱きつくようにライの顔が見え、目元が赤く腫れているのを見て、俺は溜息を吐き出した。

こいつ、また泣きやがった。

もう、ダメだな。
我慢ができない。

俺は辛いのも惨めなのも、本当に嫌いだ。
ライの体を除けてベッドから降りると、ハンガーに掛けてあるライのズボンのポケットから、財布を抜き取る。
ライは大事なものは全部財布にしまう癖がある。
財布のカード入れから、俺は目的のモノを引っ張り出した。
水上から貰った名刺である。
財布の札入れから、3000円と小銭を引き抜くとすぐに元に戻し、脱ぎ捨てられた昨日着ていた服を羽織る。
ここに居たら、多分ライをずっと傷つけることになるし、俺も我慢できない。
いっそ狂えたらよかった。壊れられたら、良かった。
それでも。

「助けてくれなきゃ、よかった.........なんて、嘘だ」

それでも、心のどこかで見つけて欲しいと願ったから、ミネハルカだなんて偽名を出したくらいの深層心理だ。
感謝もしている。
悪いのはいつだって、すべて俺だ。
好きだと言ってくれたのに、全部を裏切る。

ライの頬を軽く撫でて、俺は腫れた瞼に唇を落とす。

大事な幼馴染みで、いつでも後ろをついてくる、忠実な犬。
オマエには幸せになってほしい。
だから、もう、探さないでくれ。

顔をあげると、俺はマンションを出て鍵を閉め、ドアポストに鍵を突っ込んだ。
カランと響く金属音が戻れないというピリオドのように耳に残った。

そして、俺は、名刺にかかれた住所へと向かった。



「君は来ると思っていたよ、ハルカ」
水上の名刺にあるビルに行き、受付で水上の名前を出すとすぐに受付まで出迎えにきた。
こいつの思惑通りというのは気に入らなかったが、他に行く場所を思いつかなかった。

「.....アンタは金払いが良さそうだったからな」

思ってもない言葉が出るが、水上は気にした様子はなく、俺の腫れた頬に触れる。
「ひどい怪我してる。飼い主にやられたのかい?」
「.....アイツは飼い主じゃねえ」
「素直じゃないからお仕置きされたのかな。首にも酷い痕があるね。君の飼い主はDVが好きな子だったのかな?酷いね」
水上は目ざとく首にある鬱血の痕に指を這わせる。
「.......ッ」
お仕置き、とかじゃない。
ライのこれは愛情表現で、DVとかじゃない。だから、俺が傷つく度に泣きやがる。
泣くアイツなんて見たくない。だから出てきたというのに、アイツな悪口を言われると頭にくる。
「.....性癖だ。別に暴力されたわけじゃない」
あれは、暴力じゃない。力じゃ、俺はライには負けないし、好きにさせてやったのは俺の意思だ。

「まあ、少し汚くなっちゃったけどいいよ。おいで、買ってあげる。欲しいものはある?」
「.....住むとこ」

自分の住むとこすらどうにもならない。
とりあえず、生きる術を探さないと。
あー、何のために生きるかすらわからねえけど、のたれ死んだ方がいいのかもだけど。

「飼ってあげた方がいいのかな?」
水上は手を伸ばして俺の頭を撫でる。
それでも、いいだろう。
水上は俺の腰を抱いて、エレベーターに乗ると5階のボタンを押す。
「今日はパーティはないのだけど、人が集まっているからね。手始めに接待してもらおうかな」
「オマエの誕生会、みたいな?」
ふと連れてかれた誕生会のことを思い出す。
あの時も最悪だった。
輪姦はなかったが、似たようなものだった。
「あそこまで人はいないけどね。僕の倶楽部の会員のイベントだよ。日曜日は毎週やっているんだ、ハルカは、どうされたい?」

「そうだな.....ぶっ壊してくれ」

ああ、そうだ。
生きていきたいとか、そんなんじゃなかった。

俺は何もかも分からなくなりたいんだ。
水上は少し目を見開いて俺を見返して、手を伸ばして頭を下げさせて胸元へと引き寄せる。

「そんなに、辛いことがあったのか.....ハルカ.....」
囁きに俺は何故か安堵して、頷いた。


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