竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
上 下
133 / 169
番外編:予備校にいこう

7

しおりを挟む
虎王の顔が怖かったせいで、少し2人は怯えちまったみたいだった。
まあ、同中だったらしいし仕方ない反応かもしれない。
でも、数学と英語の復習がたっぷりできた。英語は苦手なんで、アツヤが得意だったのがスゲー助かった。
ドイツ語と同じゲルマン語だといわれても、まったく違うし。
基本的に語学は苦手分野だ。


「もう暗くなっちゃったな。ここらへんは危ないから送っていくよ」
夜は悪い奴がたくさんでるし、俺の家の近所は繁華街にも近いのでかなり物騒である。
「え、女子供じゃないし、大丈夫だって!」
アツヤは、手を横に振って大丈夫だと言うけど、二人ともヒョロヒョロしてるし心配だ。
「ダメダメ、危ないんだってば。駅前まで送らせてくれ。今日やった定理が載ってる司のオススメの参考書も欲しいし」
腰をあげて、ポケットに財布を突っ込む。
さてと、夕飯はどうするかな。
部屋を出るとリビングで、さすがに待ち飽きたような格好でテレビを見ている虎王を見つける。
なんだか、それでも部屋を出るとすぐにいるのが嬉しい。
「駅前まで2人を送ってくんよ。鍋にシチューあるからあっためといて。あと、なんかほしいもんある?」
「あー、なるだけ早く帰ってきてくれ」
ちらと俺を見返すと、立ち上がって台所の鍋に火をつけるのが見える。

先に家を出ていた2人は俺を振り返ると、ゆっくり歩き出す。
「あっという間だったね。皆で勉強会するとすっごいはかどる」
司は自然に俺とアツヤの間に入り、少しびっくりしたような口調で呟く。
「司は、どこの大学狙ってんの?」
「K大の理学部が第1志望かな。まあ、Aクラスならだいたい国立かKかWかMかそのへんだよ。眞壁くんは、赤本はみんな国立医大だったね」
「ん。1年留年してるから、あんまりオカネかからないようにしなきゃとか。あと6年は働かないわけだし」
「え!?おぼっちゃまくんの癖にか?」
アツヤはからかうようにつんつんと俺の胸もとをつつく。
「お金持ちはじいちゃんだし。まあ、色々あるんだよ。いまから勉強するってのも、俺のワガママだしさ」
「急に勉強しようとか、なんかきっかけあったの?」
俺の話に不思議そうな顔を司はすると、メガネの奥を何故か心配そうに光らせる。
「人間のヤル気はリビドーしかないでしょ。何かしようって時は大体において性慾だよね」
俺の言葉に、かなりあっけにとられた2人は顔を見合わせる。
「別に医者にならなくても、シローなら女の子は選り取りみどりだろ。イケメンでリア充すぎるのに、何をこれ以上リビドーするのよ」
アツヤは、俺の顔を指さす。
確かに、まあ、中学校に入ってから女の子に困ることはなかったな。
「いや、やっぱり好きな子とは、ずっと一緒にいたいじゃん。仕事中でも、ナース姿とか眺めてたいじゃん」
「まさかのナースフェチ。いや、ひとの趣味は様々だけど」
「眞壁くんの彼女はナースなの?」
「いや、まだ、高校生だけど。いずれはそうなる予定」
虎王の白衣とか想像するだけで、下半身が、たまらなくなる。
とりあえずその夢のために、今は公式を頭に詰め込まないとな。
「なんか、シロー可愛いな。そういうリビドーでもすげえ頑張ってる感じ、いいな」
アツヤはにっこりと笑い俺の背中をたたく。


「そこのオニーチャンたち、塾帰りかなァ。ここの近道、通行料がいるんだよねー」
突然に暗がりから出てくる奴らに2人は硬直する。
よく見えないけど、見慣れたウチの制服を着ている。
2人はびびってキョロキョロと周囲を見回すと、逃げ道を必死に探すが、既に背後からも何人か出てきて経路をふさがれている。

やっぱり、こーいうの出るんだよな。
囲まれてる人数は5人だけだ。
片付けるのはすぐ出来そうだけど、喧嘩するのはめんどくさいなあ。
うちの子じゃないと思うから、色々話をつけないとだし。

「…………オマエらどこの子?いま、俺楽しんでるのわかるだろ。邪魔しないでくれるかな」
よっこらせと手を伸ばして、斜めから俺を見上げてくる男の襟首を掴み寄せて顔を見下ろす。
金崎のとこか、ウッチーのとこか、どっちかのヤツらだろうけど。
俺の顔をマジマジと見上げて、そいつはヒッと息を飲んで後ずさろうと首を振るが離してあげない。

「眞壁サン。ちょ、…………え、なんでこんなとこに!!」
「げ、士龍サンじゃないすか。そんなオシャレな普段着とかきてたらわからんでしょ!」
「俺、オシャレだもん。それに、俺が何着ようと勝手じゃない?」
むっとして言い返すと、身体を引き抜いて捕まえていた男が逃げ出す。
それに釣られて残りの4人も、人違いでしたーとかいいながら蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げ出した。

よし、邪魔モノは居なくなった。

「居なくなった。大丈夫」
2人に声をかけると、ほっとしたような微妙な顔をして俺をみやる。

「もしかしなくても、シローって強いの?」
「いや、うーん、普通。俺3年生で先輩だからね。先輩は権力があるんだよ!」
さっきは誤魔化したけど傷害事件関係で停学になりまくったなんて言ったら、やっぱり嫌われちゃうなと思い、俺は絶妙にごまかした。

金崎かウッチーに探りをいれてこのへんでのカツアゲ活動をやめさせないとな。
俺の縄張り宣言でもしておくかな。
とりあえず。

色々とごまかしまくりながら、駅前まで無事に送って家路を急いだ。

しおりを挟む

処理中です...