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番外編:旅行に行こう
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しおりを挟む「なあ、たけお!3月に沖縄いこう」
唐突に言い出した士龍を、虎王は少し呆れた表情を浮かべて見返す。
「学校どーすんだよ」
士龍が虎王に告げた日程だと、まだ春休みには入ってはいない。春休みは、3月最終週だけである。
「あー、とーちゃん、インフルエンザの診断書書いてもらえないかなあ」
「アホか.....。ンなの、書いてくんねえよ。」
「トール君たちに、卒業旅行に一緒にいこうって言われてさ、申し込んじゃった」
「って、申し込み済かよ。つか、アンタはまだ卒業なんてできねえだろ。また来年も卒業しねえつもりか」
虎王はテーブルの上に半身を投げだして、上目づかいでねだる表情をする士龍を眺めて、でこを指で弾く。
「3年生になったら、喧嘩しねえから。怪我しないし」
そっちがしないと決めても、きっと周りはほっとかないだろうなと思いながらも、期待した表情を浮かべる士龍を見やりため息を漏らす。
なんだかんだ虎王は1つ上の恋人には、かなり甘いのである。
「そんなに行きてえのかよ」
面倒臭がりな士龍が率先して行きたがることに、不思議に思いながら、虎王は士龍の脱色したパサパサに傷んだ金髪にそっと触れる。
「沖縄の白い砂浜で、エッチしたらすごくロマンティックじゃねえ?」
「え.....ロマンティックか?砂でざりざりしそうだぞ。それにアンタにロマンティックは似合わない」
「夢みたっていいじゃないか。現実を見せるなんて酷いなあ。でも、いーの、俺はたけおと旅行してみたいだけだから」
顔を近づけて行きたいと告げられると、別のことを想像したのか、僅かに肌を赤らめる。
「わかった、行くから。だけど、士龍。アンタも怪我したばかりなんだから、無理はするなよ」
「たけお、嬉しい。ボートとか買っていい?あとカッコイイ水着も!!」
満面の笑みを浮かべて、計画表を取り出してわくわくと書き込み始める年上の彼氏を眺めて、虎王は自然に自分の頬も緩んでしまうのに、末期だなと呟いた。
飛行機から降りて空港に着くと、着ていた上着を脱いで空高くあがった太陽を士龍は見上げた。
夏のように暑いって程ではなかったが、それでも初夏のようである。
「空気が綺麗な気がする」
「やっぱし、飛行機ってのはすげえな」
飛行機に載るのが初めてだった東流は、自分と康史の分の荷物を抱えながら道も確認せずにずんすん進んでいく。
「トール、待って!反対だから!!」
ぐいと康史がその腕を引いて連れ戻すのをながめて、連れの男達を士龍は見回した。
中学の時同じだったサッカー部のヒーローや、このあ紹介してもらった、空手部のエースもいる。
スペック高いから、周りから見て目立つよなあ。
自分らのダチを連れてっても、悪目立ちはするのだけど。すごくコミュ力高い友達みたいでよかったけど。
「でも、弟さんと仲良しなんだね。一緒に旅行くるなんて」
サッカー部のヒーローだった東山輝矢は興味深そうに虎王を眺めて問いかける。
「弟とか思ってないんだ。恋人だから」
「そ、そうなんだ。まあ、よくあることかもだね、東流たちもそうだし」
少しびっくりした顔をするが、東山はすぐに笑顔を返すので、士龍は素直に頷いた。
「弟って、知らなかったしね。イケメンでしょ」
可愛いんだよ、と続ける士龍に東山はうんと頷いて、そのままサッカーの話や高校の話をしながら、飯を食べに行こうとモノレールに乗り込む彼らに着いていった。
「すっげー綺麗な海、砂浜!!もー、やばいね!!」
ホテルに帰るとすぐにビーチに飛び出し、士龍は買ってきたビニールボートを膨らまし始める。
「泳がねえの?」
「俺はカナヅチだ」
威張るように胸を張る士龍に、虎王は軽く吐息をつく。
「意外なんだけど」
スポーツタオルを掛けてサングラスをしてきた虎王を士龍は横目で見やり、一気にボートを膨らませた。
「ドイツの学校では水泳なかったしな。日本のはあったけど、水泳サボった」
「なんで?」
「色白だったし、女の子みたいだって、イジメられたからだ、まあ、いーだろ。黒歴史」
せっかく膨らましたんだし、引いて沖に連れてけよと、告げる。
「Hey Boys!」
アメリカ海軍の服装をした若い男が、士龍に何やら話かける。ひとしきり英語で何かを会話していたが、軽く手を振って去っていく。
「何か言われたのか?」
「あー、海になんか渦があるから気をつけろってさ」
「へえ、アンタあんなに英語喋れるんだな」
「まあ、ドイツ語と英語は喋れるよ。日本語は、まだあんまし、なんだだけどね」
「日本語が一番下手なのかよ」
「あのね、日本語は難しいんだよ!ほんとに!」
二人で言い合いしていると、ホテルの方から水着に着替えた東流と康史がゆっくり歩きながら出てきた。
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