竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
上 下
76 / 169
塞翁之馬

76

しおりを挟む
「弟なのか?」
「とーちゃんが一緒だったんだ、だから別れたんだけど」
 トール君はあんまり似てないなあと言いながら、俺と虎王を見比べている。
「とーちゃんから、もう何も奪えないと思って、別れるって言ったんだけど……。とーちゃんにとってオマエが、大事な人だから。でもとーちゃんは、金を出そうとしなかったから、俺がたけおを助けて自分のものにするって決めた」
 酷い言い方になってしまったが、どう言えばちゃんと自分の気持ちが伝わるのかよく分からない。
 ちゃんと気持ちを伝えて、それで許してもらえないのであればそれは仕方がない。
「別れるって言ったのは謝る。でも、オマエが殺されちまうって、そんな状況になって、俺はやっと、オマエがいねえとダメなんだって気がついた」
 頭を下げると、しばらく虎王が言葉を出すのをためらっている空気を感じた。
 絶対に許さないと言われたら仕方がない。
 それだけのことを俺はした。
 自己中心的な考えしかなかった。
「オレの気持ちは、そうそう変わんねえよ。捕まったのも、何とか気持ちを変えてほしくて、士龍を探しに行ったら……ゲーセンで取引きを見ちまったからだし」
 虎王にぐっと強く抱き寄せられて、やっと取り戻せたことを実感する。
 抱きしめている指先が小刻みに震えているのが分かる。
 ずっと複雑な気持ちのままで、居させてしまっていた。
 それどころじゃなかったのもあるが、なるだけ考えないようにしていたのもある。
「なんか良かったな。初々しいシーンを見せ付けられちゃんた。身体冷えてるだろ。ホットココアでも飲みなよ」
 化粧を落としてさっぱりとした日高がカップをテーブルへと並べる。
 二人がいることをすっかり忘れて抱き合ってしまっていて、恥ずかしさにかっと身体が熱くなり、ココアも要らないほどだった。
 あ、忘れてたと言えば、父には報告はしていなかった。
「とーちゃんに電話しとかないとな。……心配はしていたからな」
 これで虎王はオレのものだって宣言したいし、虎王の母親も安心させないといけねーし。
「…………あの人は……心配なんかしてねえだろ」
「大事なものは間違えてはいるけど、心配はしていたよ。それに、たけおのかーちゃんすっげえ泣いてたから」
 少し眉を寄せた虎王に、確かにオレも虎王が欲しかったから、助けなかったとか言ってしまったなと、少し反省する。
 いい言い方がわからなかったしな。
 どうして、もう一度と取り戻したいと思った理由とかには、嘘を混ぜるのはできなかった。
 俺は手にしたスマホをいじり、アドレス帳から父親の名をタップした。
 あまり会わないし、いつもは何度もコールするのに、さすがにすぐに出た。
『士龍、…………どうなった?』
 少しだけ焦っている声に心配していることはすぐにわかる。
「もしもし……たけおは、助け出した。だから、大丈夫」
『本当に、か』
「ああ…………だから、たけおは、俺にくれ」
 しばしの間だけ押し黙った後、父は唸るように好きにしろと返してきた。
「たけおは無傷だけど、俺がケガしてるから、後で病院にいくよ。銃創だから、他の病院には行けない」
『銃創だって。一体、どんな具合だ』
「心配してくれるの?ありがと。足を撃たれたけど、貫通したから大丈夫。」
『お前も私の息子だ、当たり前だろう。…………神経に問題あると大変だ、早めに病院にくるんだ』
「わかった。たけおに代わるから……」
 俺は嫌がる虎王に携帯を押し付けた。
 心配は一応しているようだったし、ちゃんと声を聴かせてやりたいと思ったからだ。

 俺は日高が出してくれたココアを飲む。
 暖かいし甘いしミルクの味もして美味しい。
 虎王はスマホを片手にイヤそうな顔で返事をしている。
「シロはさ、この赤毛のドコがいいの?あんまり可愛くはないな」
 興味津々でトール君は、ここぞとばかりに俺に尋ねる。
「ちんこかな。エッチがうまい」
 本音で答えると、トール君はなんとなくだが納得したような顔をする。
「シロも、トールも最低な答えを平気でするよね」
 日高が笑いながら横から茶々をいれる。
「え、最低かな?そこは、大事なとこじゃね?」
「まー、トールは俺の顔が好きらしいけど。まあ、トールの場合は昔からそれは知ってたけどね」
「シロ、顔とか体がイイとかいうのは最低らしいぞ」
 電話を終えた虎王は俺にスマホを返して、隣の俺の髪を軽く撫でる。
「まあ、普通に最低だけど。……そう仕向けたし仕方ないっす。でも、士龍に気にいってもらえるのはすごく嬉しい」
 耳元で言われて、俺は照れてどうしようとか思う。
 虎王は、こういうことにかなり照れとかないのか、平然としている。
 二人も当てられたとばかりの表情をした。
「さてと、俺らはこれからデートいくから、冷蔵庫のもん、好きに食って?寝室も使っていいぜ。俺ら朝まで帰らねえから。帰ってきたら送るし」
 トール君は笑顔を浮かべて、日高の肩をぽんと叩く。
 そういえば夜はデートって言ってたな。
「あー、これから夜景とか?」
「駅前のSMホテル。ヤスの合格祝いにつれてく約束してたからよ。馬とかなんか檻とかなんかスゲエのあるらしいぞ。なんか面白そうだぞ」
 うわ、そんなとこできっとイロイロされちゃうのに、笑顔で語っちゃうトール君はかなり配線がおかし過ぎるだろう。
「まあ、部屋にあるものは好きに使っていいからな」
 そう言い置いて、着替えた二人は仲良く肩を並べて出ていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

平凡でツンデレな俺がイケメンで絶倫巨根のドS年下に堕ちたりにゃんか絶対しにゃい…♡

うめときんどう
BL
わたしの性癖全て詰め込んでます…♡ ツンデレだけど友達もそこそこいる平凡男子高校生! 顔も可愛いし女の子に間違われたことも多々… 自分は可愛い可愛い言われるがかっこいいと言われたいので言われる度キレている。 ツンデレだけど中身は優しく男女共々に好かれやすい性格…のはずなのに何故か彼女がいた事がない童貞 と 高校デビューして早々ハーレム生活を送っている高校1年生 中学生のころ何人もの女子に告白しまくられその度に付き合っているが1ヶ月も続いたことがないらしい… だが高校に入ってから誰とも付き合ってないとか…? 束縛が激しくて性癖がエグい絶倫巨根!! の 2人のお話です♡ 小説は初めて書くのでおかしい所が沢山あると思いますが、良ければ見てってください( .. ) 私の性癖が沢山詰まっているのでストーリーになっているかは微妙なのですが、喘ぎ♡アヘアヘ♡イキイキ♡の小説をお楽しみください/////

平凡な365日

葉津緒
BL
平凡脇役(中身非凡)の王道回顧録 1年間、王道連中を遠くから眺め続けた脇役(通行人A)の回想。 全寮制学園/脇役/平凡/中身非凡・毒舌 start→2010

男の俺が痴漢されてイッちゃうなんて…!

藤咲レン
BL
【毎日朝7:00に更新します】 高校1年生のミナトが、サッカー部の練習帰りの電車の中で痴漢をされてしまう。これまで恋愛を一度もしたことのないミナトは、理性と快楽の間で頭が混乱し、次第に正体不明の手の持ち主に操られはじめ、快楽が頭を支配してゆく。 2人が大人になってからのストーリー編も連載中です。 ■登場人物 矢野ミナト ・身長170cm ・ノンケ(ストレート) ・年齢=彼女いない歴(童貞) ・色白だけど細マッチョ ・明るい性格 佐藤タカシ ・身長180cm ・初体験済(女性) ・サッカーレベル超うまい ・色黒でガッシリ体型 ・ミナトのことが気になり、自分がゲイかどうか悩んでいる ・責任感の強い性格、真面目

エロ垢バレた俺が幼馴染に性処理してもらってるって、マ?

じゅん
BL
「紘汰の性処理は俺がする。」 SNSの裏アカウント“エロアカ”が幼馴染の壮馬に見つかってしまった紘汰。絶交を覚悟した紘汰に、壮馬の提案は斜め上過ぎて――?【R18】 【登場人物】 □榎本紘汰 えのもと こうた 高2  茶髪童顔。小学生の頃に悪戯されて男に興味がわいた。 ■應本壮馬 おうもと そうま 高2  紘汰の幼馴染。黒髪。紘汰のことが好き。 □赤間悠翔 あかま ゆうと 高2  紘汰のクラスメイト。赤髪。同年代に対してコミュ障(紘汰は除く) ■内匠楓馬 たくみ ふうま 高1  紘汰の後輩。黒髪。 ※2024年9月より大幅に加筆修正して、最初から投稿し直しています。 ※ストーリーはエロ多めと、多少のギャグで進んでいきます。重めな描写はあまり無い予定で、基本的に主人公たちはハッピーエンドを目指します。 ※作者未経験のため、お手柔らかに読んでいただけると幸いです。 ※その他お知らせは「近況ボード」に掲載していく予定です。

処理中です...