33 / 169
意志薄弱
33
しおりを挟む
頭の中で考える言葉はドイツ語なので、日本語変換機能が働いてないくらい朦朧としてると、つい口からそのまま飛び出してしまう。
富田君がドイツ語を知らなくてよかった。
将兵たちには告白しろと背中を押されたが、その勇気は俺にはまだない。
信じられないくらい弱気だ。
富田君は、いつものように甲斐甲斐しく身体を拭いたり綺麗にしてくれる。嫌いだとは言われても、すごく優しいから勘違いする。嫌いなら、ヤるだけヤッて帰ればいい。
最初からそうだ。
「…………眞壁はドイツ人なのか?」
「日本人。…………名前だって、日本のだろ」
ガキの頃は日本人を主張しすぎて、逆にイジメられたっけ。
イジメは逆上したらヒートアップするものだが、ガキの時は分からなかったな。
「目ん玉緑だし、コンタクトじゃねえから」
執拗に目を舐めていたのは、コンタクトじゃないのかを確認してたのか。
「四分の三は日本人。残りだけドイツ。目ん玉とかは先祖返りらしいよ……」
「ふうん。そか。まあ、オレも一緒だからなあ。オレはまったくドイツ語しゃべれねえけどさ」
一緒?
どういう意味だろうか。
「富田君もドイツ人……の血が、入ってるの?」
「ああ…………会ったことねえけど、ばあさんがドイツ人らしい。でもよ、ドイツ語しゃべれんのすげえな」
なんだか妙に親近感が湧いて、俺は嬉しくなる。
だけど、富田君は俺のようには、見た目にはソッチの要素はあまりないのでイジメには遭わなかったのだろう。
「十歳くらいまで、ドイツに住んでたから。俺、日本語、少しおかしいだろ?」
ずっと、それでイジメられた。身長も低かったし、華奢だったのでイジメの標的になりやすかった。
金髪は地毛ではあるが、日本人らしくしたくてわざと更に脱色をしている。
「そんなにおかしかねぇけど、ヤンキーにしちゃあ、丁寧だよな」
少し考えこみながら、富田君は素直に答えてくれる。
「そうか?俺の日本語、ハセガワとか日高に教わったから、ヤンキーっぽいかと思ってた。小学生の時の、ホントに大事な友達なんだ」
「ふうん……。小学生の時じゃ、ヤンキーじゃねえだろ」
ごろりと俺の横へと富田君は転がって寝そべった。富田君の鼻梁が少し高いのは、遺伝もあるのかもしれない。
それでも、初めて知った共通点が嬉しく感じる。
「…………なあ、アンタのこと……抱いて寝ていいか」
富田君はおもむろにそう呟くと、返事も聞かずに俺を引き寄せて抱きしめた。
セックスではなくただ抱きしめられるのは、意識するとなんだか心がざわついて仕方がない。
「………………せめえ、ぞ。俺、床に寝ようか」
身長が伸びた時にセミダブルにしたが、大の男二人が寝るには少し狭い。
セックスなら身体だけなのだと割り切れるのに、なんで抱いて眠るとか言い出すのかとか、都合の良いほうに考えて期待してしまうのが恐かった。
「アンタを抱いて寝たい」
「わかった…………ベッドから俺を落とすなよ」
再び繰り返された言葉に、俺は反論する言葉も見つけられないまま頷いた。
恋愛は好きになってしまった方が負けなんだと、恋愛論では良く聞く話だ。
だからなのか、強く言われると逆らうこともできないのだ。
「で、さ。眞壁、イッヒ、なんとか、デッヒ?て、さっきの言葉の意味なんだよ?」
セックスで誤魔化したつもりだったが、どうやら富田君は誤魔化されてはくれないようだ。
告白なんかできない、したくはない。
俺は勝てない勝負には出ない主義だ。嫌っている相手に、好きだなんて言いたくはない。
「…………くるしい、って意味だよ」
富田君がドイツ語を知らなくてよかった。
将兵たちには告白しろと背中を押されたが、その勇気は俺にはまだない。
信じられないくらい弱気だ。
富田君は、いつものように甲斐甲斐しく身体を拭いたり綺麗にしてくれる。嫌いだとは言われても、すごく優しいから勘違いする。嫌いなら、ヤるだけヤッて帰ればいい。
最初からそうだ。
「…………眞壁はドイツ人なのか?」
「日本人。…………名前だって、日本のだろ」
ガキの頃は日本人を主張しすぎて、逆にイジメられたっけ。
イジメは逆上したらヒートアップするものだが、ガキの時は分からなかったな。
「目ん玉緑だし、コンタクトじゃねえから」
執拗に目を舐めていたのは、コンタクトじゃないのかを確認してたのか。
「四分の三は日本人。残りだけドイツ。目ん玉とかは先祖返りらしいよ……」
「ふうん。そか。まあ、オレも一緒だからなあ。オレはまったくドイツ語しゃべれねえけどさ」
一緒?
どういう意味だろうか。
「富田君もドイツ人……の血が、入ってるの?」
「ああ…………会ったことねえけど、ばあさんがドイツ人らしい。でもよ、ドイツ語しゃべれんのすげえな」
なんだか妙に親近感が湧いて、俺は嬉しくなる。
だけど、富田君は俺のようには、見た目にはソッチの要素はあまりないのでイジメには遭わなかったのだろう。
「十歳くらいまで、ドイツに住んでたから。俺、日本語、少しおかしいだろ?」
ずっと、それでイジメられた。身長も低かったし、華奢だったのでイジメの標的になりやすかった。
金髪は地毛ではあるが、日本人らしくしたくてわざと更に脱色をしている。
「そんなにおかしかねぇけど、ヤンキーにしちゃあ、丁寧だよな」
少し考えこみながら、富田君は素直に答えてくれる。
「そうか?俺の日本語、ハセガワとか日高に教わったから、ヤンキーっぽいかと思ってた。小学生の時の、ホントに大事な友達なんだ」
「ふうん……。小学生の時じゃ、ヤンキーじゃねえだろ」
ごろりと俺の横へと富田君は転がって寝そべった。富田君の鼻梁が少し高いのは、遺伝もあるのかもしれない。
それでも、初めて知った共通点が嬉しく感じる。
「…………なあ、アンタのこと……抱いて寝ていいか」
富田君はおもむろにそう呟くと、返事も聞かずに俺を引き寄せて抱きしめた。
セックスではなくただ抱きしめられるのは、意識するとなんだか心がざわついて仕方がない。
「………………せめえ、ぞ。俺、床に寝ようか」
身長が伸びた時にセミダブルにしたが、大の男二人が寝るには少し狭い。
セックスなら身体だけなのだと割り切れるのに、なんで抱いて眠るとか言い出すのかとか、都合の良いほうに考えて期待してしまうのが恐かった。
「アンタを抱いて寝たい」
「わかった…………ベッドから俺を落とすなよ」
再び繰り返された言葉に、俺は反論する言葉も見つけられないまま頷いた。
恋愛は好きになってしまった方が負けなんだと、恋愛論では良く聞く話だ。
だからなのか、強く言われると逆らうこともできないのだ。
「で、さ。眞壁、イッヒ、なんとか、デッヒ?て、さっきの言葉の意味なんだよ?」
セックスで誤魔化したつもりだったが、どうやら富田君は誤魔化されてはくれないようだ。
告白なんかできない、したくはない。
俺は勝てない勝負には出ない主義だ。嫌っている相手に、好きだなんて言いたくはない。
「…………くるしい、って意味だよ」
0
お気に入りに追加
145
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる