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不倶戴天
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しおりを挟む冬休みが明けてまだ十日ってところだが、正月ボケがまだまだあと二、三ヶ月くらい抜ける気がしない。
ずっとお正月が続いて、もち食い放題とかだったら人生楽しいだろうな。
ついでに学校でもちつき大会とかすればいいのになあ。
無駄に体力あまってる奴らがいっぱいいるわけだし。
エネルギーの有効活用は必要だよね。
落書きだらけで汚くなった門をくぐって、のろのろと校舎へと向かう。
校舎へ向かうまでの所々に生徒が集まっていて元々良いともいえない空気だが、一層不穏に澱んでいる。
俺の通う東高校は、ヤンキーばかり集まる市内でも有名なバカ高校だ。
レベルで言えば、アルファベットの読み書きをやり直すようなもので、流石の俺も引くレベルだった。
正月気分をなんとか振り払って、漸く学校に出てきたのに、学校全体の空気がピリピリ張り詰めていて、俺まですっかり憂鬱な気分になってくる。
何かあったんだろうなとは思うが、ややこしいことになるのでかかわりたくない。
態々聞く気にもなれない。
冬休みを取り過ぎたので、このまま帰るという最善策も却下である。
まさか始業式から自宅で待ち伏せされて、乱闘事件になるとは思わなかったのだ。
なんとか正当防衛が認められて、なんとか一週間で停学は解除になった。
「おはようございます。士龍さん……」
昇降口で名前を呼んで頭を軽く下げているのは、同じクラスの木崎直哉である。今年の春に俺が留年したので年下の直哉とクラスメイトになったのだ。
直哉の表情からは絶対に面倒なことなんだろうなと思うが、友情は大事にするんだぞと、いつもじいちゃんが言っているから無碍にもできない。
のろのろと振り返ると、直哉の顔を眼下に見下ろす。
「ナニヨ?ナオヤ。いつも以上に、空気悪いよね」
靴箱からくたくたで汚くなった上履きを取り出すと指先をつっかけて、教室に向かおうと廊下へ出る。
「金崎たちが、北高のハセガワに潰されちまったンす。富田とかが報復するって騒いでンすけど……」
「ああ、そういうことか。……ハセガワなあ、前から言ってるけど、アイツには絶対にかかわるな。こっちから手ぇ出さなきゃ、無害だろ」
ハセガワという男はこの辺一帯で最強と呼ばれる男で、化け物のように強いと恐れられている。
金崎はこの学校の別の派閥の頭である。現在五つの派閥に別れているが、そのうちの一つが他校の男に潰されたのだ。校内が色めきたつのも無理もない。
しかしハセガワが自分から争いごとを吹っかける性質ではないことを、良く知っている。以前から自分の仲間には、彼に絶対手を出すなとお触れを出しているのだ。
「士龍さんも知ってるでしょ、小倉さんがハセガワ潰してきたら来年東高のトップにするって触れ回ったの」
小倉は三年で、今年のこの学校のトップであるのだが、世襲制でもないので、前のトップが次のトップを決めることなどそもそもない。
「ああね。それで、絡みにいくやつが後を絶たないんだとしたら、ハセガワにとっちゃイイ迷惑じゃないか。勿論、俺は行かない。オマエらも行くなよ。ちゃあんとみんなに口をうめぼしにして言っておいてね」
「うめ、ぼし……って」
直哉は途方に暮れた表情をしたが、そのまま俺の後ろをついてくる。
それと、俺は個人的な理由からもハセガワを相手にしたくはなかった。
がらりと引き戸を開いて教室に入ると、数がまばらにしかいない。
大体授業なんてきちんと受けている生徒の方が少ないのでこの状態は、日常である。単位もあったようなものではないので、月の半分出席していればなんとかなる。
それでも停学回数が七回の俺は、出席日数が足りずに留年するハメになったのだ。
七回は東高での過去最高回数だと先生にももうやめてねと必死な顔をされたのだけど。
幼稚園並みの授業内容なので、成績は余裕で学年一位をたたきだしているせいか、留年は一回で済んでいる。
面倒だと思っても、頼まれるとついつい手を貸したくなってしまう。
そういう要領は悪い方だと思う。
停学を病弱とケガでと母親には誤魔化してきたのだが、それにも限度がある。医者をしている父親から母親には階段から落ちたとか事故にあったとか説明してもらっている。
父と母は離婚していて一緒には暮らしていないが、俺に負い目をもっているのか、父は母への嘘に関して加担してくれている。
それも二回目はないだろうから、そろそろ地味に将来でも考えないといけないかもしれない。
将来に不安とかは特にはない。やろうと思えば、俺は何でもできてしまう。
本当にチートな人生だ。
自分の席の椅子を引いて腰を下ろすと、ガタッと音と視界が翳って視線をあげた。
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