俺たちの××

怜悧(サトシ)

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社会人編 season2

第1話→sideY

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コレクションのショーが終わり、楽屋に戻るとスーツの日本人の男が俺を訪ねてきているとマネージャーの七海さんに言われた。

ここは日本からほど遠いイタリアである。
オレは日本ではそれほど有名ではないが、海外を中心にファッションモデルの仕事をしている。
オレたちみたいな仕事をしている関係者ならともかく、わざわざイタリアまでくるような日本人の来客は珍しいし、事務所から許可を得られているのが、まず、かなり不思議だった。
マスコミへの露出は、あまりしないようにしてもらっているし、海外の日本人を使いたいという依頼ばかりを厳選して受けてもらっている。

オレは頭の中でいぶかしみながら、ゆっくりと来客用の部屋に向かった。

ドアを開けて待合室へと入ると、知らないスーツの中年の男が、まるでオレを値踏みするような視線を向けている。
彼はあまり感情を表にださない表情で、軽くどうもと頭をさげられてなぜだかカチンとくる。
自慢じゃないが、オレは大学生の時にいまの事務所にスカウトされてからモデルになって以来、それだけで稼ぎを得られるくらいには容姿には恵まれている。
それは別にオレの努力でもないので、親や先祖には大いに感謝している。

オレも顔には出ないほうだが、元々あまりガマンしないタイプである。
親にも周りにも散々甘やかされて育ってるし、それなりのヤンチャはしてきた、と、思う。

だから、無遠慮に顔を見られて値踏みされるのは、正直いって腹がたってしまうし、何ガンつけてんだ、このやろうとも思う。

だが、オレも日本人だし、モデルである。それなりに愛想笑いは得意科目である。

「初めまして、日高です。遠路はるばる、日本からこんなところまでどのようなご用件でしょうか」

慇懃無礼な態度を見せて軽く頭をさげると、目の前のスーツと眼鏡の男はオレの態度に少し驚いた表情を浮かべた。しばらくして、彼は胸ポケットから名刺入れを取り出して、名刺を差し出す。

軽く頭をさげて受け取ると、渡されたなんの変哲もない名刺を眺める。

弁護士、か。

この世の中目立つ行動をすると、必ず訴訟ごとにぶつかる。ある意味、オレはうまくやってきた方なのだが。
昔話だが高校時代はヤンチャしてたこともあるので
そのへんをほじくり返されたら困るとこではある。
「何か僕を訴えるとか、そういうお話なら……まず事務所を通してお話していただきたい」
「私は、鞍馬弁護士事務所の鞍馬です。貴方を訴えるという話ではありません。ごくプライベートの問題ですので、事務所にお話する前にご本人様に確認が必要ですので、こちらまで参りました。日高さん…………三浦若菜さんをご存知ないでしょうか」
丁寧だが、問いかける口調はじっと俺の様子を細かく探り伺っている。
何かあればネタにするぞというような、かなり鋭い視線である。

三浦若菜…………。

記憶力はそれほどはないが、昔、遊んだ女性の名前だったかと思う。
「それは、………………体の関係があった、なかったの話ですか?」
少しだけ警戒しながら、オレは鞍馬の本意と言葉をさぐる。
「貴方のことは、色々と調べさせて貰いました。複数の女性と中学生のころから関係をもってましたね。三浦若菜さんは、その中の1人ですよね」
手渡された写真の女性は、俺の記憶よりすこし歳を重ねていたようで、少し顔に疲れたような表情があった。
「確かにそういう記憶はありますよ。僕と彼女の仲をマスコミかなにかに、お話するとでも?幸い、あまり一般的には、僕は名前が知れていませんよ」
それは10年以上昔の話だし、写真を見て思い出したが記憶の片隅で何度かそういう関係にはなっていた。
三浦さんは綺麗な大人の女性で、市の図書館で出会った。
色々なことを教えてくれた、綺麗で頭のまわる才女だった。
オレも好意をもっていたし、そういうことになったのも、彼女に誘われたからではあるが、今更バラしてどうこうするなどという、愚かな考えは抱かない人だったと思う。

「そんなことを言ったら彼女が犯罪者になりますからね。13歳の子供に手を出すなんて、あまりにも立派な犯罪者です。むしろ、貴方が訴えますか?」
弁護士は、かなり変なことを聞いてくる。
訴えるわけなどない。訴えて俺に得になることは何も無い。
「僕に、どうしろと?訴える気なんかありませんよ。僕の意思はちゃんとありましたし、訴えても淫行罪くらいでは、すでに時効ですよね」
「貴方は頭のイイ人のようですね。まあ、訴えても、彼女はもう鬼籍の人です」
彼女は死んだ……のか。
時は経っていたが、何度か身体を重ねた相手が既に死んでいるというのは、驚きとともに、ショックではあった。

「私が貴方と交渉したいのは、貴方との子供。一望(カズミ)君についてです。三浦さんは既に御両親も亡くしていて、一望君は天涯孤独の身の上になりました。唯一、貴方という父親がいるだけです。詳しいお話はまた日本でいたましょう」

子供、だと?!

俺は目を見開いて、鞍馬の顔を凝視した。

その様子を鞍馬はほくそ笑むような表情で眺めて、
「勿論貴方は子供でしたから、その時の責任はありません。寧ろ被害者です。でも、貴方ももう大人なのですから、自分のしたことには責任とることを考えるべきだとは、思いますよ」

鞍馬はそう言うと少し大きめの封筒を手渡し、呆然としいる俺を置いて、部屋を立ち去った。
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