俺たちの××

怜悧(サトシ)

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三学期編

喪われたモノ →side T

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飯を作れないので、夕飯は誠士に電話で頼んで買ってきてもらうことにした。

もう、康史を部屋に運んできてからは5時間経つ。
だけど、康史はまったく起きる気配がない。
生きていることが分かって安心したが、こんなに目を覚まさないのは心配だ。
病院に連れていくのが、いいのだろうか。

輪姦されたとか、状況を医者に報告とかしたら警察沙汰になる。
そうしたら報復をした俺もただじゃすまなくなるのもあるが、ヤバそうならそんなことも言ってられない。
外傷はないけど、もう少しして目を覚まさなければ、病院に担ぎこもうと思う。

俺でも、初めてヤられた時は、体力消耗しまくりだったしな。
康史は俺ほど体力はねえし、あの数にひどい目にあわされたりしたのだ、当然かもしれない。
何人にマワされたのかしらねえけど、かなりHP減ってるだろうしな。
まあ、あそこに居たやつ全員なんてことはねえだろうけど。

それにしても、あいつら全員康史の裸をみたり触ったりとか許せねえな。

そんな記憶なんか失くすくらいに、もっと奴らをひどくぶち叩いておけばよかったかもしれない。


どうしたら良いかとか、よく分からないまま俺はベッドサイドに凭れて、手持ち無沙汰にスマホで誠士に状況を報告していた。

「…………トール……?……どうしたんだ……アタマ血まみれ……だよ」

力のない掠れた声が近くでして、俺は慌てて康史の方に目を向けた。
夢心地のような表情で、目を覚ました康史は俺の顔をみるなり目を見開いてびっくりした声をあげる。

どうしたって、いわれた俺がかなりびっくりなのだが。

アタマ血まみれ?

康史の身体を綺麗にはしたが、自分は頭にヘルメットの破片が刺さったままだったのを思い出した。

「ああ…………そうだった。ちっとバイクで扉突っ込んだときに、メット割れてアタマ切っちまった」

どう切り出そうかと悩みつつも、すぐに返答を返して、大丈夫なのかさぐるように康史を見返す。
人の心配なんかより、康史自身のほうが大丈夫なのかが気になった。

「え、トール?どこで扉なんか突っ込んだんだよ。おい、なにしてんだよ、大丈夫か?」
心配そうな顔で覗き込む彼は、いつもの康史だった。
強姦されたことは、もうなんとも思ってないのだろうか。
なんだかいらん心配だったかと、ほっとして、俺は康史の頭に手を置いた。

「俺の心配はいいからヨ、ヤスこそ体…………は、大丈夫か?…………やつらはぶっ潰したからさ、オマエはなんも気にするんじゃねえぞ」
直接的なことを言って、蒸し返さないように少し遠まわしに告げ、安心させようとした。
自分だったら許せないなと思っていたが、実際、康史を目の前にしてみると、そんなことはなく、一番傷ついているのは康史なのだと思い、慰めたいキモチでいっぱいだった。

康史は不思議そうな表情で、俺を見ると首を少し傾げ不審がるような口調で、
「…………ヤツラって?今日の喧嘩の相手?」
俺の告げる内容が、まったくわからないといった表情をして、少し不安そうな表情を浮かべる。

「そうそう、喧嘩相手だけど……。って…………ヤス、覚えてねえか?……別行動してて、オマエ、襲われたんだけど……」
なんだか、状況が全然わかっちゃないようだ。
起きたばかりで混乱してるのか。
まあ、思い出したくもねえだろうしな。

「ん……?ちょっとなんか、……記憶あやふやになってるかもしんない。なんか、わかんない」

ショックが大きすぎたのか。
そりゃそうだろう。
後ろの経験無いのにいきなりマワされたんだ、記憶があやふやになってもしかたねえよな。
それが普通の反応だろう。

「まあ、明後日は試験だからな、明日の予備校はどうする?……ちぃと体きついかもしんねえけど、俺、できる限りサポートすっし、明日は予備校までバイク乗せてくぞ」
たとえ嫌がっても、これからは予備校まで着いて行こうと思っている。

あんな思いはもうしたくない。

「試験?」
眉間に皺をつくり、俺の言葉に更にわけがわからないといった表情を浮かべている。

あ。
思ったより重症なんだろうか。
もしかして、アレか?
もしかして、あの有名な記憶喪失か?

「なあ、ヤス?俺が誰だかわかってる?」

すると、康史は馬鹿じゃないかといった風情の視線を俺に返してくる。
「何言ってるんだよ?オマエは、トールに決まってるだろ?名前も呼んだし。とりあえず、オマエ、その頭はさすがに痛そうだから手当てするから」

俺が、誰かはわかっているようだ。
たしかに起き抜けに名前呼ばれたな。

康史はよっこらせとベッドから体を起こして、少し眉を寄せて辛そうな表情をした。
やはり体が痛いのだろう。
しかし気を取り直したように立ち上がって、救急箱をとりにいった。

今は、ショックで色々と混乱してるんだろうな。
それくらいのことは、俺にもわかる。

そんなことより、動ける、のか。

俺は心配になって康史の後ろをついていった。
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