俺たちの××

怜悧(サトシ)

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二学期編

団欒 →side Y

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「そろそろ夕飯だし、ヤッちゃんも食べていかない?」

東流の迫力美人なおふくろさんに誘われたら、まあ普通には断れるはずもない。
しかも、カムアウトしたにもかかわらず、すごく友好的でさえある。
まあ、東流でさえ適当だといっていた両親だしな。
東流の配線がずれまくってるのも、この破天荒な両親のせいだろう。

「まあ、オレも夕飯も用意してこなかったんで、よばれます」

「料理、トールできないでしょ。いつも遊びにいってた時はヤッちゃんが用意してくれるの?」

リビングに通されて、昔からのなじみの自分の席に腰を下ろす。
中学までは、ほとんど毎日のように入り浸っていた。

「一人分作るの、も二人分作るのも一緒ですから」
「ヤスのメシはスゲーうまいよ。弁当も作ってくれてっし」

東流は俺の横に座って、オヤジさんに殴られたところが痛むのか頬と腹部を掌でさすっている。
こないだヤクザ殴られたのも同じような場所だし、多分同じとこに入ったのもあってノックアウトしたのだろうけど。
まあ、怪我してばかりのようだ。

「アンタも作れるようになりなさい」

おふくろさんに渇を入れられて、ヤル気のなさそうな返事をする東流には、多分飯を作る気持ちはないだろう。
目の前にオヤジさんが腰をおろしてオレの顔をじいいっと見つめる。
「ヤスシは相変わらず鈴波すずなちゃんにそっくりだよな、ホント……」
「コイツったらね、高校の時はスズナのストーカーだったのよ」
おばさんは、食卓にハンバーグやらにくじゃがやらを皿にてんこ盛りにして並べていく。
まあ、5人の食い盛りがいたらこれくらい普通なのだろう。

それにしても、オヤジさんが、母さんのストーカーだったとは初耳だ。

「む、昔の話だろ。蒸し返すんじゃねぇよ」
「それを追い払ってたのがわたしだけどね。滅茶苦茶しつこかったのよ、リーゼントで金髪でどっからどーみても田舎のヤンキーのくせして」
ビール瓶を3本もってくるとコップに注ぎながら、オヤジさんの頭を小突く。
「オマエだって、けっばい金髪のロンスカのスケバンだったじゃねえか」
「わたしはスズナの親衛隊だったの。…………あんな美人他にいなかったもの」
知らない過去が、二人の口からいっぱいでてくる。
オレの母親と東流のおふくろさんが家がとなりで、幼馴染なのは知ってたけれど、そんな四角関係があったとは。
寝耳に水である。

ちなみにこの家は、東流のおふくろさんの実家である。

「追い払ったりしているうちに、恋が芽生えたとかですね」

腐れ縁とかもあるだろうし。いがみ合っているうちにだんだん好きになるとかあるかもしれない。
「いや……孝治に鈴波ちゃんが惚れてくっくいて、まあ………残り物同士が慰めあってできたっていうかなァ」
「残り物って失礼なやつね。孝治のことはわたしは好きじゃなかったし。わたしは、鈴波一筋だったのよ。まったく、ビールつけないわよ」
ぷいっとコップをさげるおふくろさんに、オヤジさんはゴメンゴメンと謝りたおしている。

夫婦漫才のような夫婦である。
東流と同じで、この両親も俺の顔に弱いのだろう。
遺伝子的に、そういうことなのか。

「ヤスシは、トールのどこがよかったんだ」

不思議そうな表情で実の息子を眺めるオヤジさんは、俺が見返すとちょっと照れた表情をする。
本当にこの顔に弱いらしい。

「小学生の頃からずっと片思いしてました。ずっと、俺のことを守ってくれてた、俺のヒーローなんです。トールは」
「そんなに前からか……まあ、ヤスシみたいな美人ならな。そりゃあ、やっぱり断れねえもんな、トール」

ニヤニヤとするオヤジさんに不機嫌そうに出されたコップに入っているビールをトールは飲み干す。
つか、未成年でしょ。
まったくモラルねえよ、ここの家は。
知ってるけど、本当。

「ヤスだからいーんだよ」
面倒そうに、ぼそっと呟くトールが愛しい。
なんだこの可愛い生き物は。
「アニキはいつも短絡的だよな。大丈夫?後で後悔すんじゃねえの」
西覇は鼻先で笑って生意気そうな唇をひんまげる。
おとなしそうなナリはしてるけど、結局この家で育っているので、性格は見た目通りではない。
顔はおふくろさんに似ていてキツメな美人タイプではある。
かけているメガネは多分、伊達だろう。

「後悔しねえよ」

迷いなく答えるトールに、にやっと口元だけで笑うと、挑発するような表情を浮かべる。

「ふうん。そんなにいいの?セックスもいいんだ?」
「……何言ってンだ、テメェ」
「大事なことでしょ」
「………っ」
かーっと真っ赤になった東流からは怒りのオーラがあふれ出る。
こりゃあ、ぷっちん切れる前だな。
西覇も余計なことをいいやがって。
オヤジさんがいるのでここじゃ手をださねえだろうけど、オレは東流の腕を引いて動きを止めた。

「……メシ時の話じゃねえぞ、セーハ。トールも、キモチイイからヤらせてんだろ。トールもなあ、男がそれくらいで恥ずかしがるな」

とことん配線のずれたオヤジさんである。
恥ずかしがるなって……うーん。
普通に恥ずかしいだろう、そりゃ、家族の前でセックスキモチイイなんて思ってもいえねえぞ。まあ、俺は恥ずかしがって欲しいのだけど。
「ああ………そうだな……。キモチいい……」
って、肯定するんか!?
そりゃ、オレも巻き添えで恥ずかしいし、照れるぞ。バカ。
家族全員配線がアレすぎる。

オレはここにいると、突っ込みどころが多くて、本当に必死になっちまう。

「まったく、下世話ねえ。うちのバカどもは。ヤっちゃんも、ビール飲む?」

まったく気にしていないおふくろさんもどうかとも思うが、てか、高校生にビールすすめんな。

「いや………オレは未成年です………」
「トールもセーハも飲んでるし、いいじゃないの。四捨五入したら20歳よ」

そりゃ雑な計算過ぎるだろ。
その計算だと15歳から飲ませてるのか、このうちは。

「バイクで来たので。……飲酒運転はさすがに」
「あら、バイクじゃあね。トール乗せて帰ってあげて。お酒弱いのに結構いっちゃってるみたい」

「勿論です」

オレはハンバーグに手をつけながら、酒のせいか照れてるのか顔を真っ赤にしたままの東流を横目に夕飯を食べ始めた。
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