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第一話 Killer Likes Candy
Edge of Seventeen 5
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大通りから外れた路地裏は人目につきにくい。
ドームの遮光壁が降りかけている夕暮れ時には、ビルの谷間の影は暗く、屋外だというのに、滞留し続けた空気で澱みきっている路地裏は冥府に続く細道なのかもしれない。
連日の事件の影響で、一般人は可能な限り外出を控えているというのに、人目を寄せ付けない路地裏には蠢く影が四つあった。
足掻くほどに翳(かげ)った太陽でも、少女――ノーラの白髪は光を掴んで存在を主張している。
か弱い羊そのものの、涙滲む幼さ残る目には恐怖の色がありありと見て取れる。こんな危険地帯に踏み込む勇気などノーラにあるはずもない、彼女がここにいるのは本人の意思ではなく、周りを囲んでいる人間の男三人によるものだ。
男達がノーラに絡んだ理由は至極単純であり、それ故に醜悪だ。頭に生えた角が気入らないと、それだけの理由。彼等にしてみれば獣人も混血も人から外れた化物で一括り、人間に似た紛いものでしかない。
気弱なノーラに抗う術はなく、半ば拉致される形で路地裏まで連れてこられたのだ。何度も小突かれ、執拗に浴びせられる言われなき罵声に竦み上がり、震えることしか出来ない。足は固まり立っていることさえおぼつかず、恐怖が彼女の小さな胸を押しつぶそうとしていた。恐慌吹き荒れる心では男達の罵声など一割も解えせず、顔を伏せて、叩きつける罵詈雑言の嵐が過ぎ去るのを待つばかり。
必死に黙するノーラに向けて、一人が拳を振り上げる。鈍い打音が響と少女の悲鳴が路地に響いた。
「ひぃっ…………、やめ……、て…………ッ!」
「あぁ? 聞こえねえなァ!」
懇願など意に介さず、男は再びノーラを殴りつけ、取り巻き達は嬲られる半獣人の少女を嘲笑う。動物の鳴き声に誰が注意を払おうか。害獣駆除とどっこいで必要なコトなのだ、必然を立てて彼女を殴ることは正義であり、全ての人間がそうすべきだと疑わない。
口元を血で染め、這いつくばったノーラは震えた声で「なんで?」と問う。褐色の頬を涙で濡らして慈悲を乞う。
男達の影が蠢き――虫でも扱うように――ノーラの髪を掴み挙げた。
「バケモンが口利いてんじゃねえよ」
「……もう、やめ、てくださ……わたし、なにも…………」
「してるさ。お前等がいること自体が間違いなんだ、獣人が俺たち人間の街で何様だ? 悪臭振りまきやがって、さっさと死ね」
髪を掴まれたまま殴りつけられたノーラの視界が衝撃で白く飛ぶ。逃げないと大変なことになる、分かっているのに逃げられない。髪を引っ張られて彼女は壁に叩きつけられた。
男達が薄ら笑いを浮かべながらノーラを囲む。下卑た笑みは獲物を追い込む狼のようで、少女の怯えきった瞳は子羊のそれを思わせる。
「あぁ……、だめ、やめて…………」
消え入る声で呟くノーラ。震える吐息に慄然とした硬さ、乞い願う声の僅かな変化に、彼女の視線の先に気付いていたのなら男達の未来は違ったかもしれない。
目を離せば惨たらしい仕打ちが待っているというのに、ノーラは男達を見ていなかった。彼女の視線は宵闇に沈んだ路地へと向けられている。ノーラは何度も、何度も訴えた「やめて」と――。縋るように、乞うように。
「ワケわかんねこと言ってンじゃねェッ!」
「やめてェェェ!」
男が拳を振りかざし、ノーラが悲鳴を上げた。
黒い風が吹き抜ける。
――ごとり、
首が、一つ落ちた。
ドームの遮光壁が降りかけている夕暮れ時には、ビルの谷間の影は暗く、屋外だというのに、滞留し続けた空気で澱みきっている路地裏は冥府に続く細道なのかもしれない。
連日の事件の影響で、一般人は可能な限り外出を控えているというのに、人目を寄せ付けない路地裏には蠢く影が四つあった。
足掻くほどに翳(かげ)った太陽でも、少女――ノーラの白髪は光を掴んで存在を主張している。
か弱い羊そのものの、涙滲む幼さ残る目には恐怖の色がありありと見て取れる。こんな危険地帯に踏み込む勇気などノーラにあるはずもない、彼女がここにいるのは本人の意思ではなく、周りを囲んでいる人間の男三人によるものだ。
男達がノーラに絡んだ理由は至極単純であり、それ故に醜悪だ。頭に生えた角が気入らないと、それだけの理由。彼等にしてみれば獣人も混血も人から外れた化物で一括り、人間に似た紛いものでしかない。
気弱なノーラに抗う術はなく、半ば拉致される形で路地裏まで連れてこられたのだ。何度も小突かれ、執拗に浴びせられる言われなき罵声に竦み上がり、震えることしか出来ない。足は固まり立っていることさえおぼつかず、恐怖が彼女の小さな胸を押しつぶそうとしていた。恐慌吹き荒れる心では男達の罵声など一割も解えせず、顔を伏せて、叩きつける罵詈雑言の嵐が過ぎ去るのを待つばかり。
必死に黙するノーラに向けて、一人が拳を振り上げる。鈍い打音が響と少女の悲鳴が路地に響いた。
「ひぃっ…………、やめ……、て…………ッ!」
「あぁ? 聞こえねえなァ!」
懇願など意に介さず、男は再びノーラを殴りつけ、取り巻き達は嬲られる半獣人の少女を嘲笑う。動物の鳴き声に誰が注意を払おうか。害獣駆除とどっこいで必要なコトなのだ、必然を立てて彼女を殴ることは正義であり、全ての人間がそうすべきだと疑わない。
口元を血で染め、這いつくばったノーラは震えた声で「なんで?」と問う。褐色の頬を涙で濡らして慈悲を乞う。
男達の影が蠢き――虫でも扱うように――ノーラの髪を掴み挙げた。
「バケモンが口利いてんじゃねえよ」
「……もう、やめ、てくださ……わたし、なにも…………」
「してるさ。お前等がいること自体が間違いなんだ、獣人が俺たち人間の街で何様だ? 悪臭振りまきやがって、さっさと死ね」
髪を掴まれたまま殴りつけられたノーラの視界が衝撃で白く飛ぶ。逃げないと大変なことになる、分かっているのに逃げられない。髪を引っ張られて彼女は壁に叩きつけられた。
男達が薄ら笑いを浮かべながらノーラを囲む。下卑た笑みは獲物を追い込む狼のようで、少女の怯えきった瞳は子羊のそれを思わせる。
「あぁ……、だめ、やめて…………」
消え入る声で呟くノーラ。震える吐息に慄然とした硬さ、乞い願う声の僅かな変化に、彼女の視線の先に気付いていたのなら男達の未来は違ったかもしれない。
目を離せば惨たらしい仕打ちが待っているというのに、ノーラは男達を見ていなかった。彼女の視線は宵闇に沈んだ路地へと向けられている。ノーラは何度も、何度も訴えた「やめて」と――。縋るように、乞うように。
「ワケわかんねこと言ってンじゃねェッ!」
「やめてェェェ!」
男が拳を振りかざし、ノーラが悲鳴を上げた。
黒い風が吹き抜ける。
――ごとり、
首が、一つ落ちた。
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