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53.レスターの行方(メレディス視点)
しおりを挟む仕事を終えて屋敷に戻ると、ゼストが今までに無い慌てた様子で私を出迎えた。
「は? レスターがいない? どういうことだ?」
「マイスト殿といつものように勉強をされて、その後はメイドたちとお茶をしながらお話をされておりました。部屋に戻ると言われてから行方が分かりません」
「マイストのところへ行ったということはないのか?」
「来ていないそうです」
「では王城か? 誰かに呼び出されたのかもしれない。探しに行ってくる」
「分かりました。私共も屋敷の敷地内をもう一度探してみます」
こんな夜にレスターを呼び出すなど、私の最愛の婚約者だと知ってそんなことをする奴はどこのどいつだ?
貴族派閥のやつか?
いや、夜の呼び出しなどレスターも断るだろう。となると陛下か王太子か王妃辺りか?
まずは私の執務室に行ったがいなかった。陛下や王太子、王妃様にも確認したが呼び出していないし今日は見ていないと言われた。
私としては王太子が怪しいと思っていたが、違うと言われた。
どこかに隠しているということはないだろうな?
「レスターを攫ったか?」
私は王太子を壁際まで追い込み威圧を放った。
「そんなことするわけないだろう」
「度々レスターを呼び出していたのは何だ? 私が気付いていないとでも思っていたのか?
まさかレスターに恋慕などしたのではないだろうな? レスターに手を出すなど許さんぞ」
「私は本当に知らない。
呼び出したのは、相談に乗ってもらっただけだ」
「相談? レスターからそんな話は聞いていないぞ。ますます怪しいな」
「ふぅ、仕方ない。言うから落ち着け。
私は閨事の相談をしたのだ。妃が2人もいるのになかなか子ができないことを咎められて、それで身近にいて歳が近く秘密を守れる者としてレスターを選んだ。
レスターは私の悩みを聞いてくれて、魔法陣をくれた。呼び出したのは、その魔法陣の調整のためだ」
「そうか。今は第一夫人も第二夫人も妊娠中だと聞いているが、そうだったのか」
レスターが私に話さなかったのも、王太子に言われたからか。
「レスターに他言無用を約束させたのは私だが、疚しいことはない。
別に抱きたいとかそういうわけではないが彼の頬に触れそうになった時、僕はメレディス様以外とはできないとハッキリ言われたよ。
レスターのおかげで今は妃達とも良好な関係を築けている」
「そうか。疑って申し訳なかった。
しかし、レスターの頬に触れそうになったんだな」
「そうだが、本当に何もない。
レスターがあなた以外受け付けないのは知っているだろ」
「次は無いぞ」
「分かっている」
そうだったのか……
王太子ではないとなるとレスターはどこへ行ったんだ?
城の門番にも聞いてみたが、今日は見ていないと言われた。
行き違いかもしれないと、私はとりあえず屋敷に戻ることにした。
「王城にはいなかった」
「屋敷も隈なく探しましたが見つかりませんでした。申し訳ございません。
外へ出られた可能性が出てまいりまして、正門は通っていないようですが、使用人が使う裏口からレスター様らしき人物が外へ出るのを見た者がおりました。
しかし、遠目だったのと、ローブのフードを被っていたそうで、レスター様だと確証は持てないとのことです」
私はレスターの部屋へ向かった。
途中で見かけた、レスターの着替えをよく手伝っているヤコポも連れていく。
「レスターのローブで無くなっているものはないか?」
「衣装を全て把握しているわけではありませんが、ネイビーのローブがありません。
以前、メレディス様の目の色みたいに深い青だから気に入っていると仰っていたので、そのローブは覚えていたのですが、それがありません」
「ではやはり屋敷の外へ出たことは間違いなさそうだな」
どこへ行ったんだ? レスター
「ゼスト、奴を呼べ」
「すぐに」
私はいつかのレスターの家族の件を調べる時に使った諜報活動が得意な影を呼び、レスターの行方を探らせた。
レスターの部屋に何か残されていないかと探してみる。
すると、ベリッシモ家の当主となったステファノから届いた手紙が置かれていた。
領主邸が完成したと、元気がないようで心配だと、領地に羽を伸ばしに来ないか? という内容の手紙が何通かあった。
転送の魔法陣はそのまま置いていったようだ。
まさかベリッシモ家の領地に?
それならなぜ私に黙って行くんだ? 私がダメなどと言うわけがないのに。
レスターは最近、よく私に甘えていた気がする。本当は何かあったのか?
いつからだ? ……二週間ほど前か?
使用人を全員招集し、二週間ほど前から今日までのレスターとの会話を話させた。
「二週間前ですか、話した内容は花が綺麗に咲いているとか、花の名前や飛んできた鳥の話ですね」
「そうか」
「その日のハーブティーの話やハーブの効能、お出ししたお菓子の話はしましたが、その程度です。あとは旦那様の惚気話なら聞きましたよ」
「そうか」
「そう言えば、エイミー様のことを聞かれました。仲が良かったのかと。それで仲は良かったとお伝えしました」
「そうか。懐かしいな」
「えぇ、そうですね」
居なくなったことに関係ありそうな話は出てこなかった。
エイミーは関係ないだろう。だとしたら、やはり領地に向かったのか?
朝まで待っても帰宅せず、マイストも呼び、レスターとの会話を聞き出した。
「幸せすぎて怖くなることはあるかと聞かれました。しかし、その時は2人なら大丈夫な気がしてきましたと笑顔を見せておられましたよ」
「マリッジブルーというやつか?」
「分かりません。それ以外は、魔法陣の話やメレディス様の話でしたね」
「私の話?」
「えぇ。メレディス様がこんな時にこう言ったのが凄かったとか、こんな会話をしたとか、格好いいとか、まぁ惚気というやつですな」
「そうか。故郷の話はしていたか?」
「私は聞いていませんね」
「そうか。呼び出してすまなかった。もしレスターが訪ねていったり、見かけたりしたら教えてくれ」
「分かりました」
結婚に不安を感じていたのか?
しかし幸せすぎて怖いと言われても、私にどうにかできることがあったんだろうか?
抱きしめて愛を囁くだけではダメだったのか?
優しく抱いたのも気に入らなかったのか?
レスター、どこだ?
まさか本当にベリッシモ領に行ったのか?
ただ領主邸の完成を祝いに行っただけかもしれない。仕事を休みたいと言いづらかっただけかもしれない。
私に何も言わずに居なくなったのは気になるところだが、無事ならいいんだ。
とにかく影からの報告を待とう。
ベリッシモ領へ向かったのであれば、乗合馬車に乗っているはずだし、街の出入りの際に身分証を出していればすぐに見つかる。
ベリッシモ領へはオルローの王都に寄らなければ、馬車で5日か6日といったところか。
着いたら連絡をくれるだろう。
3日後、影から最初の報告が届いた。
内容は、本人見つからず、王都から乗合馬車に乗った形跡なし。王都内の貴族の屋敷には怪しい動きは確認できず。乗合馬車の確認不足か徒歩での移動を考慮して王都外の捜索に移ると。
7日後、影は一旦戻ってきた。
「王都周辺の街に出入りした形跡も、乗合馬車に乗った形跡もない。3日程度で移動できる距離を調べたが、これほど見つからない貴族は初めてだ」
「オルロー王国のベリッシモ領へ向かった可能性がある。引き続き捜索を頼む」
「分かった」
馬車でない? 徒歩か? 馬か? それでも街に出入りした形跡がないのが気になる。
8日目の夜、レスターの部屋の転送の魔法陣に手紙が届いた。
それはステファノからだった。
内容は、街道整備の報告だった。馬車でないとしたら、まだ到着していないのか。
そして翌日、私の魔法陣にステファノから手紙が届いた。
レスターに何かあったのか? その日のうちに返事が来ないのは初めてだと。
そこで私はレスターがそちらへ向かった可能性があるが行方が分からないと手紙を送った。
すると返事はすぐに返ってきた。
レスターは元気がなかった。私が何かしたのではないか、ベリッシモ領に向かっているのであれば、到着したらしばらくこちらで休養させると。
私は了承したが、ステファノが唆したのではないかとの疑いも抱くようになっていた。
15日後、影からの報告が届いた。
ベリッシモ領までの最短ルートで通る街にはどこにも出入りの記録がなく、乗合馬車に乗った形跡もないと。ベリッシモ領にも、オルロー王都にも、出入りした記録は無く、目撃証言も無い。捜索を続けながら一旦戻ると。
ベリッシモ領に向かったのではなく、まさか貴族派閥の連中に攫われたのか?
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