僕の過保護な旦那様

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二章

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「マティアス様、待たせたね」
「え?」
 フェリーチェ様がとうとう副団長を連れてうちにやってきた。「待たせた」って、そういうこと? 今日僕は、ラルフ様があんなに疲れてしまったリヴェラーニ夫夫の新婚旅行の再現、三部と四部を見せられることになるんだろう……
 何か用事があったような気がしてきた!

「この前、騎士団で披露したら長いって言われてね……少し内容を変えたんだ」
「そうですか」
 内容を変えたってことは三部と四部が三部だけになったんだろう。きっとそうだ。

「歌のリズムを変えて退屈しないようにしたよ」
「なるほど……」
 長いって言われたのに、短くしたんじゃないの?

「あれ? 今日はあの子が来てるのか……あんな小さい子が長時間見てるのは難しいよね。また今度にしよう」
「え?」
 フェリーチェ様の視線の先を辿ると、シルとパンと遊んでいるエルマー様を見つけた。
 僕たちはエルマー様の存在により、リヴェラーニ夫夫の長い長い演劇を回避した。

 エルマー様、感謝します!
 僕はシルとエルマー様にはノータッチを貫いていたんだけど、今日はもうしっかりとお相手を務めさせていただきました。
 シルもよくエルマー様とお友達になってくれた。ありがとうシル。
 僕はだいぶ重くなったシルを抱っこしてギュッと抱きしめた。

「ママどうしたの? だっこのひ?」
「そうだね。シルを抱っこしてギューしたくなったんだよ」
 シルはキャッキャと笑っている。しかし僕はあとどれくらいシルを抱っこできるんだろう? もうチェーンメイルを着られると抱っこするのが辛い。背負う方がまだいけそうだ。
 いや、僕は今ちゃんと鍛えてるからこれからもずっとシルを抱っこできるかもしれない。それどころかラルフ様を抱っこできる日が来てしまうかもしれない。
 ムキムキの僕。悪くないかも。

 ニコラにその話をしたら、ニコラは最近職場で役職をもらったらしく、「俺は忙しいから助かった」なんて言っていた。
 確かに最近ニコラは忙しい。あまり休みがなくなったから、休みをアマデオと合わせてとっている。そのせいでニコラがお休みの日は二人でどこかにお出かけしていることが多いんだ。
 ちょっと寂しい。夏の終わりにまとまった休みが取れると言っていたけど、アマデオとどこかに行くのかな?


「今日はあの子いないんだね。じゃあサービスさせてもらうよ」
「え?」
 翌週リヴェラーニ夫夫が揃って訪れると、僕たちは有無を言わさず用意された席に座らされた。
 そうか……回避できたのはあの日だけで、エルマー様は毎日うちに来るわけじゃないから、もう見なくていいってわけじゃないんだ……

 リーブを見ると、いつも通りの優しい笑顔を貼り付けていた。チェルソは無だ。目を開けて寝てるってわけじゃないよね?
 バルドは意外と平気みたいで、シルと仲良く「今日はどんな歌だろうね」なんて話している。
 メイドの三人は、ちゃんと笑みを貼り付けている。お客様の対応をするプロはちゃんと笑顔を作れるんだ。すごい。僕も花屋の仕事の時はちゃんと笑顔で対応できるんだけど、今日は無理みたいだ。

 そういえば最近イーヴォ隊長が来ないな。もしかしてこの前僕が無理やり引き留めて道連れにしたからだろうか?
 僕はこっそりため息をついて、チェルソが用意してくれたレモネードを飲んだ。


「ラル、さま……」
「ただいま。マティアス、どうした?」
 帰宅したラルフ様を迎えに出ると、ラルフ様は僕をサッと横抱きにして部屋に攫っていった。
 だから僕はラルフ様の首にギュッと巻き付いて、ラルフ様の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。ラルフ様の匂いだ。落ち着く。
 ラルフ様は騎士服のまま僕を膝の上に抱き抱えてソファに腰を下ろした。背中をそっとさすってくれるラルフ様は今日も優しい。

「もしかしてあいつらか? もう大丈夫だ。俺が元気を分けてやるからな」
 そう言うと、ラルフ様は僕に覆い被さるように濃厚なキスをしてきた。背中を撫でていた手はいつの間にか僕の頭をガッチリと固定して逃げ場がない。
 息継ぎができないくらい、舌が絡んで、トロリと唾液が喉の奥へ伝っていく。待って待って、そんなには無理……僕は溺れそうになって必死でそれを飲み込むんだけど、全然間に合わなくて横から溢れていった。

 ゲホッ、ゴボッ
 僕はとうとう唾液で溺れかけて咳き込んでしまった。ラルフ様にも吐き出された唾液がベシャッとかかってしまった。
 加減……

「マティアス大丈夫か?」
 大丈夫だけど、危うくラルフ様と僕の唾液で窒息するところだったよ……
 返事もできず、僕は首を必死に縦に振るしかなかった。また溺れそうなキスをされたら大変だ。キスに溺れるって表現は聞くけど、キスで溺死した人なんてきっといない。危なかった……

 赤ちゃんみたいに涎でベトベトになってしまった僕たちは、そのまま一緒にお風呂に入った。
 ああ~温かくて癒される~
 最初からゆっくりお風呂に入ればよかったのかも。
 ラルフ様に背後から抱きしめられながら入るお風呂は最高だ。

「マティアス、もっと俺の元気を分けるか?」
「唾液は危険だってことが分かったので、ラルフ様のそこから出る白いのならいいですよ」
「ダメだ」
 なんで? ラルフ様は僕の飲んだじゃん。
 僕は不公平だと抗議したけど、ラルフ様は許可してくれなかった。
 疲れている時に、こんな不毛な言い争いをしている場合じゃなかった。

「じゃあ今日は抱きしめて寝て下さい」
「いいぞ」
 何だか嬉しそうに「いいぞ」と言ったラルフ様を見たら、ホワッと温かい気持ちに包まれた。僕もラルフ様から元気をもらったから、明日の朝は元気に起きられそうだ。

 
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