174 / 184
二章
172.ガーデンパーティー
しおりを挟む「シル、それ着ていくの?」
シルはチェーンメイルを着て、首にはミーナが編んでくれたマフラーを巻いている。その白いマフラーにはポポが編み込んである。チェーンメイルに絡まらない?
なんでガーデンパーティーを冬にやるんだろう……
僕もラルフ様に言われてもこもこに毛皮を着込み、グルグルにマフラーを巻かれた。チェーンメイルも恥ずかしいと思っていたけど、この着膨れした感じもちょっと恥ずかしい。
リズが御者を務める馬車に乗ってラルフ様とシルと共に向かう。今日はリーブも参加者だから、リズが御者をしてくれている。リーブはグラートと馬で先に向かった。
「ですよね……」
馬車を降りて案内された会場は、お城の庭園ではあるんだけど、温風を循環している温室だった。温かいところでしか育てられない草木が植えてあるのだとか。
「やあ、マティ、久しぶりだね。シルヴィオくんだっけ? 初めまして、王子様だよ」
さっそくエドワード王子に見つかった。その挨拶なんなんだろう。
ラルフ様は警戒してシルを抱き上げてエドワード王子から距離をとった。
「それ酷くな~い?」
僕はまだこの男を許してはいない。
「シルヴィオです。よろしくおねがいします」
うちの子偉い! 警戒する僕とラルフ様よりシルの方が大人な対応だった。
「偉いね~」
「エドワード、俺たちに構うな」
「ラルフは相変わらず釣れないね~」
そんなことを言いながら軽く手を振ってエドワード王子は去っていった。
エドワード王子の奥様にも挨拶をと思ったんだけど、とても近づけそうにない。
人だかりの中からチラッとしかその姿を確認できなかったけど、三歳くらいの女の子を膝に乗せた奥様は貴族令嬢という感じで、とても華やかで綺麗な方だった。
会場には子どももたくさんいる。もう学園に通っているような年齢の子もいるし、シルと同じくらいの子もいる。
「ママ、遊んできていい?」
「いいよ。たくさん友だちができるといいね」
「うん!」
ラルフ様が腕を解くと、シルは飛び降りて勢いよく子どもたちのところに走っていった。
第二騎士団だから当然だけど、イーヴォ隊長とリヴェラーニ夫夫の他に、ケリー、ハキム、マイクの旦那さんもいて、初めてみんなの旦那さんにも挨拶をさせてもらった。
「うちの夫がシュテルター隊長のお宅にお邪魔しているとか、ご迷惑をおかけしていませんか?」
「いえ、そんなことありませんよ」
こちらこそ今後ともよろしく、のような当たり障りのない会話と、やけに皆さん腰が低いのはラルフ様が怖いからだろうか? ラルフ様は今も僕の斜め後ろに立って腕を組んで見守ってくれている。
ラルフ様の部下はルーベン以外が参加している。ルーベンがいないのは、やっぱり私兵を育てるのに忙しいから、こんなところで遊んでいられないんだろうか?
ちなみにリーブはいつもの執事服だから給仕の人と間違えられて時々働いている姿を見る。もしかしてリーブってその服しか持ってないの? ハリオ、買ってあげてよ。
あれ、あの人もポポが刺繍されたスカーフを首に巻いている。騎士の旦那さんからのプレゼントだろうか? ポポが騎士団のマスコットキャラクターみたいになっているけど、それいいの?
キャーと甲高い悲鳴が聞こえて会場が騒然となった。
まさか敵? なわけないよね? お気にりの洋服にジュースでもこぼしたんだろうか?
僕は呑気に考えていたんだけど、ラルフ様に手を取られて騒ぎの中心に連れて行かれた。なんで? あんまり目立ちたくないんだけど……
「その子なんなの? うちの子を叩いたのよ?」
「あら、そちらの子が叩かれるようなことをしたのではなくって?」
子どもそっちのけで喧嘩するお母さん二人。その横では叩いた子たちなのか黄色い服の女の子と白い服の女の子が泣いている。お子さん泣いてるけどいいの? それで僕はなぜここに連れてこられたのか……
「ママ……」
シルが走ってきて僕の足にギュッっと抱きついてきた。チェーンメイルの鎖で締め付けられて地味に痛い……まさかうちの子も誰かに叩かれたの?
どこのどいつがうちの子に手をあげたんだ?
ついつい疑いの目で周りを見てしまった。
ラルフ様は冷静にシルを抱き上げてヨシヨシしている。ごめんね、僕は重いチェーンメイルを着込んだシルをそんなに簡単に抱き上げられないんだ……
「シル、何があったか話せる?」
怖い思いをしたのかもしれないと思い、優しい声を意識して問いかけてみた。
シルが赤い服の子と話をしていたら、横から白い服の子が割り込んで、更に黄色い服の子が来てシルを連れて行こうとしたから、白い服の子と黄色い服の子が喧嘩したそうだ。叩いたのはどっちも一回ずつらしい。
シル、モテモテだね。シルは叩かれたわけではなかった。でも目の前で幼いとはいえ女の修羅場を見て怖かったんだろう。よく考えてみても、あの二人のお母さんの娘たちはどっちもどっちだ。横取りしようとした二人は、うちの子には近づかないでもらいたい。
「ラルフ様、あの言い争っているお母さん二人の旦那さんはご存知ですか?」
「あの後ろでオロオロしている二人だ」
「なるほど。僕はどっちも悪いと思いますけどね。親も親ですし子も子です」
「そうだな。ふっ」
ラルフ様にふっと笑われた。なんで? 面白いところなんてなかったと思うけど……
「息子の嫁を見定めているみたいだ」
「あ……」
なんか恥ずかしい。周りからはそんな風に見えてたの?
でももし親戚になるなら、あんな人たちは嫌だ。
「シル、あの喧嘩してる二人以外にお友だちはできた?」
「うん! できたよ! こんどパンをみせてあげるの!」
「そっか、お友だちできてよかったね」
家族ぐるみのお友だちとかいいな。相手は誰なんだろう?
春になったら一緒に庭でお肉を焼いたり、ピクニックをしたり、楽しみだな。僕もその子の親と仲良くなれるだろうか?
きっかけは子ども些細な喧嘩だったけど、親が出てきて収拾がつかなくなったせいで、ガーデンパーティーは早めに終わることになった。
「本日は第二騎士団の皆様、お集まりいただきありがとうございました。わたくしとしましては、一部の場を弁えない方々のおかげで、大変楽しかったですわ。まだこんなに日が高いうちに片付けができますから、使用人たちも助かるでしょうね。ふふふ」
主催者である団長夫人の挨拶はものすごく怖かった。あんなに優しい笑顔なのに、一瞬ででみんなを凍り付かせるとは、さすがエドワード王子の奥様だ。
これであのお母さんたちの旦那さんの出世は遠のいたんだろう。暴走する奥さんさえ止められないってことは人をまとめるなんてできないよね。もしかしたら今後のガーデンパーティーには呼ばれないかもしれない。
302
お気に入りに追加
1,268
あなたにおすすめの小説
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる