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二章
169.新年を迎える時
しおりを挟む近づく新年。
王家から手紙がきた。『新年の祝賀会で会えるのを楽しみにしてる』という内容だった。要するに新年の祝賀会に参加しなさいということだ。
何も言われなければ僕たちは参加しないと思ったんでしょうね。正解です。
手紙が来なければ面倒だし社交界に行かなかったかもしれない。
今年はクロッシー夫婦がいないってことだけはよかった。嫌でも会うことになるから、それならラルフ様は絶対に行かないと言っただろう。
「マティアス、揃いのタイを用意したんだが一緒につけないか?」
あれ? 意外とラルフ様は夜会の参加に乗り気だ。てっきり行かないと言い出すと思って、どうやって行く方向に持っていくか散々考えたのに、自分からタイを用意するなんてどうしたんだろう?
「一緒につけましょう」
お揃いのものをつけることなんて殆どないから、ちょっと恥ずかしいけど嬉しい。
ラルフ様が見せてくれたのは、艶のある紺色の生地に銀糸でポポの刺繍が入ったタイだった。
ポポの侵略はまだ続いていたのか。とうとうポポは社交界にも出ていこうとしている。もしかしてこの国を支配する気か?
なんだかポポがちょっと豪華になっているところが笑える。
それと、なんか既視感?
あ、リーブとグラートが結婚式でつけていたお揃いのタイの色違いだ。あの時は銀色の生地に金色の刺繍だったけど、今回はちょっとシックだ。
いや、ポポなのにシックなんてことある? ないない。
「どうした? 気に入らないか?」
僕がラルフ様が見せてくれたタイを凝視していると、ラルフ様が心配そうな顔をしていた。
「いえ、もしかしてラルフ様が刺繍してくれたのかな? と考えていました」
「そうだ。俺が刺繍した。マティアスとお揃いのタイをつけたかった」
そうなんだ。夜会はどうでもよくて、ただそのお揃いのタイをつけてみんなの前で披露したかったってこと?
もしかして、リーブとグラートの結婚式からずっと計画してたんだろうか?
ラルフ様が可愛い。
胸の奥がキュッとして、温かい感情が全身に広がっていく。
じゃあ僕はラルフ様の希望を叶えるためにも夜会に参加しないと。
またみんなに挨拶をして何曲かラルフ様と踊ったら帰ろう。
「え?」
僕が思わず「え?」なんて言ってしまったのは仕方ないことだと思う。
ラルフ様とお揃いの、世界に二つしかないタイを首に巻いて夜会の会場に向かった。
そして目の前にはリヴェラーニ夫夫がいる。その首元にはピンクのお揃いのタイと、金色のポポの刺繍。
「もしかしてマティアス様たちもグラートの結婚式で羨ましくなって作った?」
「そんなところです」
こんなところに同じことを考える人がいるとは……
ラルフ様をチラッとみるとムッとしていた。
「同じようなことを考えるものだね~」
「そうですね」
色も同じってわけじゃないんだから、機嫌直してほしいな……
「シュテルター隊長もマティアス様も似合ってるよ。いい色だね。それに比べてこいつのセンスヤバいよね。こんなゴツい体の男がピンクのタイはないよね~」
「そんなことは……」
ちょっとだけ違和感はあるけど、副団長が用意してくれたってことで、ちゃんとつけてあげるところなんて愛を感じます。
するとラルフ様がフッと笑って、機嫌は直った。なんだろう? 俺たちの方が似合っているんだという勝利の笑み?
どちらにしても機嫌が直ったのはよかった。
それにしても、ピンクのタイは結構目立つ。
元々二人は目立つから余計に。リヴェラーニ夫夫は確実にポポの侵略に手を貸している。
こんなものが貴族の間で広まるなんてことはないと思うけど、大勢の貴族に認知はされた。ポポ、それが目的なのか?
「マティアス様」
「セルヴァ伯爵、ご無沙汰しております」
「おや? それはチンアナゴの刺繍ですか? お二人ともお似合いですね」
「ありがとうございます」
さすがセルヴァ伯爵、一目見ただけでチンアナゴだと分かってしまう。領地で売り上げを伸ばしているチンアナゴがこんなところで出てくるとは思っていなかったでしょうね。
いつもはセルヴァ伯爵に対して敵意を見せているラルフ様も、お揃いのタイを褒められたからか、今日は何も言わなかった。
「イーヴォ隊長、いらしていたんですね」
「ああ、一応な。来たくはないが、そういうわけにもいかない」
イーヴォ隊長はラルフ様と気が合いそうな気がする。ちょっと寡黙なところも、淡々と仕事をこなしそうなところも、貴族の駆け引きが苦手そうなところも。
「そのタイは夫夫で揃いなのか。二人とも似合ってる」
「ありがとう」
イーヴォ隊長にも似合っていると言われて、ラルフ様はとても機嫌がよくなった。
そのせいでダンスの時に僕はラルフ様にちょっと振り回されている感じになったんだけど、ラルフ様が楽しいならいいかな。
それにしても、みんなこのタイにそんなに注目しなくてもいいのに……
ポポの狙い通りに進んでいるようで恐ろしい。
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