166 / 184
二章
164.お泊まり会
しおりを挟む櫓お泊まり会の開催だ。
今日はリヴェラーニ夫夫の貸切。
明日は僕たち家族三人で櫓の上にお泊まり、その次はルカくんとハリオの予定だ。
夕食はリヴェラーニ夫夫を迎えて大人数だ。
そろそろ食堂のテーブルと椅子も、みんなで食事をするには狭くなってきた。
今までは使用人は別で食べてもらっていたけど、みんなで食べればいいと思う。
人数が増えて配膳も大変だし、騎士団の寮みたいに、自分で好きなだけ料理をお皿に盛り付けて席に持っていって食べるって感じでもいいんじゃないかな?
後でラルフ様に相談してみよう。
これ以上人が増える可能性は……
チェルソとメイド三人と、謎多きルーベンが恋人を連れてくるって可能性もないとは言えない。
シルはいつもはいないお客さんがいるからか、楽しそうに食事をしている。食堂にまでイーヴォ隊長からもらったクッションを持参して、副団長に見せていた。
「じゃあ櫓借りるね~」
「危険があれば知らせる」
リヴェラーニ夫夫が櫓へ向かったんだけど、副団長が言った「危険があれば知らせる」って何?
まさか王都に危険が迫っているとかじゃないですよね?
戦争が始まるとか……
「ラルフ様、危険が迫っているんですか?」
「常に危険はすぐそこにある」
そうじゃなくて……
危険があるのかと考えると、僕は不安で眠れなくなってしまった。
もしまたラルフ様が戦争に行ってしまったらどうしようと考えたら、怖くなったんだ。
「マティアス、眠れないのか?」
「戦争が始まったら、ラルフ様は戦争に行ってしまうんですか?」
「戦争? そのような話は今のところない」
「そっか」
そうなんだ……
戦争はないのか。じゃあ危険ってのはなんだろう?
「大丈夫だ。俺がついている」
ラルフ様は僕のことをギュッと抱きしめて背中をトントンしてくれた。
なんだろうこの安心感。ラルフ様がいれば怖くない。そう思ったら、さっきまで全然眠れなかったのが嘘みたいに僕は安心して眠りについた。
翌朝、食堂に集まってみんなで朝食をいただいたけど、リヴェラーニ夫夫からは特に何の報告もなかった。
「フェリーチェ様、危険はなかったんですね」
「ん? 危険なんてなかったよ。星綺麗だった。櫓いいね。また使わせてね」
危険はなかったのか。それなら安心だ。
今日の夜は僕たち三人が櫓で星を見る。
「ママこれかしてあげる」
僕はなぜかシルにピエールを渡された。
久しぶりだなピエール。相変わらず胴体に描かれた蔓の模様は綺麗だ。うん、握り心地もいい。じゃなくて、なぜシルは僕にピエールを貸してくれたんだろう?
僕は理由に悩みながらシルとラルフ様と並んで星を見ながら眠りについた。
「ルカくん、バニラの香りがいい? それともベルガモット? ローズってのもいいよね」
「えっと……」
やっぱりいい雰囲気を作らないとね。僕は色々なキャンドルをルカくんの前に置いて、どれがいいか聞いた。
ルカくんが選んだのはバニラの香りだった。やっぱりそれを選ぶと思ってたよ。お菓子屋さんだったルカくんとハリオの思い出としてバニラは最適かなって思ったんだ。
昼間のうちにルカくんとフェリーチェ様と一緒に櫓の上をちょっとお洒落に飾りつけた。上手くいくといいな。
甘い香りとキャンドルのゆらめく炎、空には星が見えていて、少し寒いから寄り添って一緒にブランケットに入ったりして。そうなったらもうね、恋人なんだから成功すること間違いなしだと思う。
「ルカくん、頑張ってね」
「不安です。でもお二人にはいろいろ協力してもらったので頑張ってみようと思います」
ルカくんは気合を入れたようなキリッとした表情を見せた。
「マティアス、ソワソワしてどうした?」
ラルフ様に指摘されるほど、僕は二人のことが気になっていた。でも僕は上手くいくよう祈ることしかできない。
「ルカくんとハリオが上手くいくといいなって思ってたんです」
「そうだな。マティアス、俺のことも見てくれ」
ラルフ様、また独り占めしたくなっちゃったんですか?
「いつも見てますよ。キスして?」
今日は僕もラルフ様に愛されたい気分です。
あっという間に僕は裸でベッドに横たわっていた。ラルフ様は僕のことよく分かってる。
それに僕の気持ちにいつも答えてくれる。ルカくんを見ていると、それは当たり前じゃないんだと分かる。
「ラルフ様、大好きです」
「俺もマティアスが大好きだ」
何度キスしても、唇が重なる瞬間は少しだけ緊張する。それでラルフ様の唇の柔らかさと温かさを感じると、いつもと同じ感触と温度に安心するんだ。
幸せの余韻に浸ったまま、僕は今日もラルフ様の腕の中で眠りについた。
ラルフ様に愛された幸せいっぱいの朝、食堂にはルカくんしか来なかった。ハリオは一体どこに行ったのか。早く出勤する日だったのかな?
それよりもルカくんの様子がおかしい。幸せいっぱいには見えない。それどころか……
「ルカくん、そのクマどうしたの?」
ルカくんの目の下にはくっきりとクマが現れていて、なんだか暗い影がさしている。
「マティアスさん……失敗しました。もう無理かも」
「眠れなかったんだね。うん、話は聞くから、温かい野菜スープを飲んで、暖炉に火も入れて、温かい部屋でゆっくり話そうか」
「はい……」
失敗? ってルカくんは言えなかったんだろうか? それともハリオが断ったんだろうか?
とにかく話を聞いてみないと。
フェリーチェ様もルカくんのことが心配だったのか、今日は早くうちに来た。
「カモミールのお茶を持ってきたよ。蜂蜜を入れて飲もう」
「フェリーチェ様、ありがとうございます」
ミーナにお茶を入れてもらって、暖炉の前に三人で集まってルカくんの話を聞いた。
ルカくんは勇気を出した。それなのにハリオはまた断ったそうだ。ハリオ、何を考えてるの?
「……もう無理かも」
「ねえ、ハリオって本当に不能なんじゃないの? それを知られたくなくて理由をつけて断ってるとか」
フェリーチェ様が言ったけど、それならキスさえしない理由にはならない。キスくらいしてもいいんじゃない?
キスで相手の体に負担をかけるなんてことないと思うんだ。
もし僕がルカくんの立場だったら、ラルフ様にキスもしてもらえなかったら、勇気を出してキスして欲しいと言っても断られたら。
一度あったな。あの時はラルフ様が僕を避けて、悲しくて苦しくてたまらなかった。結局僕に病気を移さないためだったんだけどさ。
夕方になってもルカくんは落ち込んだままだった。
帰り際、フェリーチェ様に「危ないかも」なんて深刻な顔で言われたから、僕はハリオと話をしてみることにした。
「ラルフ様、ハリオの次の休みはいつですか?」
「三日後だが、何をするつもりだ?」
「ハリオと話をしてみようと思います。このままではルカくんが可哀想です」
僕がルカくんとハリオのことを話すと、ラルフ様は難しい顔をして腕を組んでいた。ラルフ様も気になってたのかな?
「尋問は三日後の午後だとあいつに伝えておく。聞き分けが悪いようならチンアナゴで殴っていい」
え!? 尋問でもないし殴ったりはしないけど……
「分かりました」
こうして三日後の午後にハリオとの尋問──ではなく面談が決まった。
296
お気に入りに追加
1,268
あなたにおすすめの小説
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる