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二章
152.招待状と警戒
しおりを挟む「フェリーチェ様……これって嫌がらせだと思いますか?」
「どうだろうね? 嫌がらせってほどではないと思うけど、嫌味は込められてそうだよね」
僕とフェリーチェ様の前にはそれぞれに届いたお茶会の招待状がある。
送り主はクロッシー夫人だ。
僕はこの招待状が届くとすぐに招待状を持ってリヴェラーニ邸を訪れた。そしたらフェリーチェ様の元にも招待状が届いていた。
突撃できないなら呼び出そうってことだろうか?
夕方だったのに急に訪ねた僕を快く招き入れてくれたフェリーチェ様には感謝だ。
「断ったら角が立ちますかね?」
「角が立ったからってどうってことはないよね? だって私の夫は副団長だし、マティアス様の旦那様だって所属はクロッシーの下ってことになってるけど団長直下って感じでしょ? クロッシーごときがシュテルター隊長に何かできるわけがない」
そうなんだろうか?
クロッシー夫人は騎士ではないし、騎士をどうにかできるわけじゃない。僕やフェリーチェ様が奥様会で立場が微妙になるくらいのことだ。元々参加していなかったんだし、今後も参加しなくても特に不都合はない。
奥様会はいいとして社交界ではどうだろう?
おかしな噂を流されたりしないだろうか?
そんなことになったら店にも迷惑をかけることになる?
「マティアス、気にすることはない。嫌なら行く必要などない。あの女が余計なことをするようなら俺が対処する」
その声に振り向くと、ラルフ様と副団長が立っていた。いつの間に?
「フェリーチェも行きたくないなら行く必要はない。フェリーチェには毎日楽しく過ごしてほしい。せっかく危険な任務から解放されたんだ」
僕たちの旦那様はいい旦那様ですね。フェリーチェ様と顔を見合わせて頷いた。
そして僕たちは欠席と書いて送り返した。
その後、僕の家にもリヴェラーニ邸にも、クロッシー夫人が押しかけたらしいけど、門前払いされたそうだ。
僕は事後報告でそれを聞いた。
リーブがお仕事をしてくれただけのことだ。きっとにこやかに「お帰りください」とでも言ったんだろう。そう言われて簡単に引き下がるような人だろうか? どうやって追い返したのかは分からないけど、何かやり方があるのかもしれない。
「マティアス様、心配には及びません。私共も微力ながらここで暮らす皆さんをお守りいたします」
全然微力なんかじゃないよ。いつも助かっています。僕に対してはいつも通りにこやかな表情で対応してくれる。リーブが怒ったり声を荒げたりすることなんてあるんだろうか?
「リーブ、いつもありがとう」
「旦那様の指示もあり、現在この屋敷では許可のない者の訪問は全てお断りしております」
「そうなんだ」
そこまでするんだ? フェリーチェ様は普通に来てるから許可されてるってことか。刺繍講座に参加していた元騎士の三人はあれ以来見ていない。
基本的な刺繍は覚えたし、遠慮しているんだろう。
せっかくルカくんはマイクさんと仲良くなったし、遠慮しなくてもいいのに。
僕はこの家に来るまで、ラルフ様と親戚以外の貴族とは関わってこなかった。だから権力とか序列とか、そんなしがらみを知らない。王族は偉い人で多大な権力を持っていることは分かるし、爵位の序列は分かるけど、クロッシー夫人のような当主でもない人が権力を持っているのはよく分からない。権力を持っているように見えるだけ?
あの人は中隊長夫人であり団長夫人ではない。考えるだけ無駄だ。ラルフ様にあの人が何者なのかだけは聞いておこう。
「マティアス様、お手紙が届いております」
リーブに言われて、クロッシー夫人が文句でも認めてきたのかと思って警戒していたら、ヴィートからの手紙だった。
『マティアス、うちの子はとても可愛い。私のことを父と呼んだ。マティアスの息子に負けないくらい利口だ。いつか会わせてやる。
ヴィート・プロッティ』
最近、少し心がモヤモヤしていたから癒された。
子どもが言葉を話し始めたことがとても嬉しかったらしい。わざわざ手紙を送ってくるなんて、よほど嬉しかったんだろう。
僕も今日はシルとのんびり過ごそう。
「シル、これって……」
「ポポのクッキー、アマデオがかたちのやつつくってくれたの」
「そうなんだ……」
ちゃんと目のところにはチョコチップが埋め込まれている。
ポポは密かにお菓子界への侵略を開始していた。
ラルフ様が帰宅すると、僕はクロッシー夫人が何者なのかを聞いてみることにした。ラルフ様の着替えを手伝い、ついでにお風呂にも一緒に入る。
「ラルフ様、聞きたいことがあります」
「なんだ?」
なんだ? と言いながらも、僕に答えさせる気がないのか、ラルフ様は唇を塞ぐようにキスしてきた。今日はいつになく積極的ですね。
「んん……クロッシー夫人って、何者ですか?」
「クロッシーの嫁だ」
そうだけど、そうじゃなくて、どんな人なのかを聞きたかったんだ。
「ん、んん……そうじゃなくて、どこの家の出身とか、ん……昔からあんな感じだったのかとか」
「ふむ、家はネスタ子爵家だ。昔はもっと口も態度も悪く各所に喧嘩を売りながら歩いていた。剣が得意で木剣を持ち歩いて強そうな奴に挑んだりしていた。今もそう変わらないだろう。人はそう簡単には変わらないものだ」
僕が思っていた以上に過激な奥様だ。淑女になったのは大人になってからなのかもしれない。というか、淑女の皮を被った暴君? 怖くなってきた……
今のラルフ様が負けるとは思えないけど、ラルフ様が僕に近づけないようにしてくれたのは、僕が怪我しないようにってことだったのかもしれない。
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