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二章
150.刺繍仲間
しおりを挟む「マティアス様、今日は知り合いを連れてきたよ」
いつものようにうちを訪れたフェリーチェ様だったけど、その後ろに体格のいい三人の男女を連れている。
騎士? 見たことある気がするけど誰だっけ?
「彼らは?」
「騎士の旦那さんと奥さんだね。昨日シルくんと騎士団の見学に行ったんだけど、その時に会ってね」
それで見たことがあったのか。
クロッシー夫人が開いたお茶会で見かけたんだと思う。名前までは分からない。
「それで僕に何か用事ですか?」
「ん? 刺繍一緒にしたいんだって。だから連れてきた。こいつらも刺繍やったことない初心者だから、ちょうどいいと思ってね。ルカくんもたまには他の人と話した方が気分転換になるでしょ?」
なるほど。刺繍仲間ってわけか。うちには刺繍マスターのミーナがいるし、大勢に一人で教えるのは大変だから連れてきたんだろう。
「どうぞ。大したおもてなしもできませんが」
僕も騎士の旦那さんや奥さんともっと話してみたいと思ってた。ルカくんの話もそろそろ聞こうかと思っていたけど、タイミングが合わなかった。花屋のモニカさんの旦那さんが体調を崩して、僕が代わりに出勤することになったりして、少しだけ忙しかったんだ。
ハリオが何か言うから外に出ないのか、怖い目に遭ったから不安で外に出ないのかは分からないけど、ルカくんはほとんど外に出ない。それなら外から人を連れてくるっていうのは有りかもしれないと思った。
うちにも人はいるけど、ルカくんが話せそうなのは僕とニコラくらいだ。
……そういえば、みんな刺繍初心者だって言っていたっけ。
またポポの侵略が進んでいる。みんなで黙々とポポを縫っていくのはなんとも言えない。
みんな細かい作業は苦手なのか、初めて刺繍をした頃の僕と同じようなレベルだ。同士がいてよかった。
「皆さん、休憩にしましょう。そんなに肩に力を入れていたら疲れますよ」
ミーナがちょうどいいタイミングで休憩しようと言ってくれた。
集中力ってのはそんなに長時間続くものではないし、慣れない作業は疲れる。
みんな針を置くと、伸びをしたり肩や首をぐるぐると回している。鍛えているであろう皆さんのような体格の人でも凝るんですね。
「これは訓練ではないんだから、のんびりいこうよ。ほら、みんなシルくんとパンにも会いたかったんでしょ?」
フェリーチェ様が言うと、皆さん期待に満ちた顔で僕を見た。
え? 僕の許可待ち?
「庭に出ますか? シルもパンも庭にいると思います。あ、このオイルつけていって下さい。庭は虫が多いので」
僕は皆さんに虫除けオイルを少しずつつけて、庭に案内した。メアリーとミーナが皆さんに冷たいレモネードを用意してくれて、今日はフルーツゼリーもある。チェルソが作ってくれたのかな?
「シルヴィオです。よろしくおねがいします」
うん、知らない人にもよく挨拶ができたね。うちの子は偉いし可愛い。
「可愛い!」
「うちも子どもがほしい」
「癒されますね」
皆さん頬が緩んでますよ。僕たちは午後はゆったりと過ごした。刺繍は期限があるわけじゃないから、急ぐことはない。急いでも嫌になってしまっては意味がないから、ゆっくり進めていく。
彼らはこれからもうちに通うんだろうか?
騎士の旦那さんと奥さんはケリー・レオーニさん、元近衛騎士の方で、王女様の護衛をしていたのだとか。
ハキム・ダルベルトさん、マイク・モンターレさん、この二人は元第二騎士団の人だそうだ。
皆さん現役のような体型だけど、結婚しても鍛えているのかな?
元々体を動かすのが好きなのかもしれない。
ルカくんは初めは人見知りを発動していたけど、庭に出てシルも一緒に加わってお茶をする頃になると、だいぶ打ち解けてきた。ルカくんはマイクさんと話が合うみたいだった。マイクさんもお菓子を作るのが好きで、それは趣味なんだけど、お菓子作りの話で盛り上がっていた。気分転換にはなったかな?
「マティアス様、今日はありがとうございました。またお邪魔してもよろしいですか?」
「いいですよ。僕がいなくてもミーナとフェリーチェ様はいると思いますし」
そんな話をしていたら、副団長がフェリーチェ様を迎えに来た。
他の三人の旦那さんたちはいない。ここにいること言ってなかったのかな? まさか嫁や夫を攫われたと勘違いして襲撃してこないよね?
「みなさんの旦那さんが襲撃してきたりしないですよね?」
「襲撃? そんなことしませんよ」
僕は笑われてしまった。みなさん笑っているけど、そこにいる副団長が実際にうちの門を壊したんですよ。部下の家の門を壊すとか信じられますか?
言わなかったけど、そんな気持ちで僕は皆さんを見送った。
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