僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
上 下
119 / 201
二章

118.迷宮探索

しおりを挟む
 
 
 今日は朝から迷宮の見学だ。
 メンバーはラルフ様とシル、リーブとリズと僕の五人だ。リーブとリズが強いから、ラルフ様もこのメンバーで行くことにしたんだろう。

「ラルフ様、なぜそれを持ってきたんですか?」
 ラルフ様の手にはポポママが握られている。本当になんで?
 腰には剣を差してるからそれで十分だよね?
「これはなかなかいい。コンパクトで邪魔にならず、武器ではないというところがいい」
「じゃあぼくはポポをもってる」
 ラルフ様がそんなことするからシルが真似したじゃないか。

「ママはポポのかぞくもたないの?」
「僕は両手が空いていた方がいいから、持たないで行くよ」
 ごめんねシル、僕にはその勇気はちょっと無い。

 ちゃんと僕が用意した防毒マスク、開錠の工具、ツルハシとハンマー、カンテラも持ってる。それと、エドワード王子にもらった研究者しか入れない場所への立ち入り許可証も持った。
 防毒マスクは子ども用がなかったから、メアリーに大人用を小さく作り直してもらった。
 工具やランタンはラルフ様が持ってるから僕たちは持っていない。

 そして、今回ラルフ様の要望で持ってきたものがある。それは『マティアス特製虫除けオイル』だ!
 迷宮の中は真冬でもあまり寒くならないらしく、こんなに寒い時期になっても虫がいるのだとか。それで僕が身を削って作った虫除けオイルの出番がきた。

 堂々と鞄からオイルを取り出す。
 痛っ……
 反らせるように胸を張ったら腰にきた……
 慣れないことはするものじゃない。
 ゆっくり腰をさすって、みんなの手の甲にオイルをチョンチョンとつけていった。

 迷宮へは歩いて向かう。馬車は腰に響くから、徒歩の方が楽だ。
 だけど無理させたからってラルフ様が僕のこと抱っこしていくのはちょっとどうかと思う……
 お尻の下に硬いものが当たってるんだ……
 その感触がなんとも言えなくて、すごく困る。

 その硬い感触はラルフ様がこんなところで欲望を滾らせているわけじゃなく、ポポママの感触だ。持っていくにしてもせめて鞄に入れておいてもらえませんか?
 それか僕は自力で歩くので下ろしてください。

 羞恥に耐えながら迷宮の入り口まで向かうと、やっと下ろしてもらえた。入り口自体は研究者も騎士も一般人も同じところだ。
「シュテルター隊長、お疲れ様です!」
「今日も変わりはないか?」
「はい! 昨日も本日も異常は見つかっておりません!」
 入り口のところに立っている騎士が元気よく答えてくれた。

「たいちょー、いじょーなしです!」
「シルヴィオ隊員、ご苦労!」
 シルもラルフ様に報告している。なんの報告か分からないけど、言いたかったんだろう。うちの子は騎士ごっこが大好きだ。周りの騎士もみんな温かい目で見ている。

「ラル、ぼくチェーンメイルきたい」
「そうだな、何があるか分からない。宿まで取りに戻るか。マティアスの分のも必要だな」
 嘘でしょ? 迷宮を目の前にしてお預けとか悲しすぎる。宿に戻ったところでチェーンメイルなんて持ってきてないし。まさか僕は迷宮を前にして、中に入ることなく帰ることになるんだろうか……
 そんな……

「旦那様、そういうこともあろうかと持ってきております」
 嘘……リーブが優秀すぎて怖い。なんか大きなリュックを背負っていると思ったら、チェーンメイルなんか入れてきたのか……

「ですが、シルヴィオ様の木剣はもってきておりません」
 うん、あれは見せかけだけの飾りだからね。仕方ないよ。
「リーブ、ぼくポポがいるからだいじょうぶ」
 シルの手にはポポという友だちであり癒しの存在であり、そして武器としての能力も発揮する優秀なチンアナゴがいた。

 腰痛いのに……
 そう思いながら、迷宮に入るためだと覚悟を決めてチェーンメイルを着ることにした。旅の恥はかき捨てだ。
 ねえ、チェーンメイル着るってことは、土でできた人形が襲ってきたりするんじゃないの?
 どうしよう、すごくワクワクしてきた!

 巨大な門を抜けて迷宮へと足を進める。街に舞う砂のように光が当たると黄金にも見える黄土色の柱がずらりと並んでいた。
 その柱の向こうには王城にも引けを取らないほどの大きな建物。その右半分は崩れてしまっているけど、数百年前の建築物とは思えないくらい綺麗に形が残っている部分も多い。

「すごい! おおきい!」
 シルが喜んでいる。だよね、迷宮ってワクワクするよね!
「大きいね。こんなに大きな柱、どうやって作ったんだろう」
 ここが迷宮。僕はその事実に圧倒されていた。

 この辺りも砂埃が酷いから、足速に抜けて建物に入ることになった。
 大きな建物は巨人が住んでいたのかと思うくらい天井も高く、入り口も僕を縦に三人重ねても通れるくらい大きい。

 室内に入っても黄土色一色で、扉や窓が無いのは不思議だった。取り外したのか、長い年月をかけて劣化して崩れてしまったのかもしれない。
 今いる場所は一般人が見学できる場所だから、地面は砂でザラザラしているけど、壁や柱が崩れたりしているところはない。
 天井は一部補強されているから、安全が確保された場所なのだとよく分かる。

「マティアス、こっちだ。勝手に動くと迷子になるぞ」
 僕は感動しすぎて周りを見ていなかった。話も聞いてなくて、みんなから逸れかけてラルフ様に注意され、走ってみんなの元へ戻った。
「ごめんなさい」
 僕は団体行動が苦手なのかもしれない。
 すぐに興味惹かれる場所へフラフラと引き寄せられてしまう。
 王都ならいいけど、勝手の分からない迷宮なんかで迷子になったら大変だ。注意しておこう。

 
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

処理中です...