僕の過保護な旦那様

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二章

113.違うんだ

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 ラルフ様は僕に何度も濃厚なキスをしたのに、ずっと僕のことを抱きしめていたのに、風邪をひくことはなかった。それどころか、ラルフ様の看病の賜物なのか、翌日には僕の風邪がすっかり治っていたんだ。
「ラルフ様、ありがとうございます」
「まだダメだ。病み上がりは油断してはいけない。今日もゆっくり休め」
 ラルフ様にそう言われて、僕はラルフ様にまた蜂蜜を半刻ごとに与えられることになった。

 せっかく戻ってきてくれたのに、こんな状態で本当に申し訳ない。それでも一緒にいられることが嬉しくて、ラルフ様に甘やかされながら過ごした。

 次の日になると、ラルフ様は赴任先に戻ることになった。
 キスはしたけどキスしかできなかった。少し残念に思いながら、タルクと共にラルフ様とルーベンを見送った。もちろんそこにはシルとパンもいる。

「パン可愛いですね。あんな小さい馬がいるなんて知りませんでした。シルくんが乗ったり手綱を引いているのは本当に可愛い」
「僕もあんなに小さい馬は他に見たことがないよ。ラルフ様が見つけてきてくれたんだ。おかげで僕は馬に乗れないのにシルは乗馬ができるようになった」
「え? マティアスさん、馬に乗れないんですか?」
 この反応って、タルクは馬に乗れるってことだよね……
 練習したい気持ちはあるけどラルフ様に禁止されているから僕は今後も馬に乗れるようになる予定はない。とても残念だ。
「いいんだ。僕はラルフ様に乗せてもらうから」
 そう言うと、タルクは僕に気を遣って「羨ましいです」と言ってくれた。

「タルク、塀に登る練習してたんでしょ? いつでもうちに来て練習してもいいからね。タルクが来たらシルも喜ぶし。
 でもアマデオかロッドがいる時の方がいいかな? 安全は大事だよね。リーブとリズとバルドでも大丈夫な気もするんだけど、うちの使用人は実力がどれくらいなのかまだ僕も分からないんだ」

 そういえば今回グラートは一緒に戻ってこなかった。休みの日が違ったんだろうか? それとも王都に戻ってくる理由がなかったのか。グラートならどこにいても女の子がいれば楽しく過ごせそうな気がする。問題は起こさないでほしいな。王都に強制送還されて反省室という名の牢に閉じ込められるのは可哀想だ。


 この前は虫除けオイルの研究をしていたから気が紛れたけど、やっぱりラルフ様がいないと寂しい。
 せっかく久しぶりに会ったんだから愛されたかった。

 はぁ……
 今日はとても風が強い。庭の木がグワングワン揺れて、窓に葉っぱや折れた枝などが叩き付けられている。窓枠もガタガタとずっと音を立てている。
「ママ、パンだいじょうぶかな?」
「さっきリズが見にいってくれたから大丈夫だよ」
 厩舎は僕たちが住む建物よりも弱い。だからシルは心配してるんだ。だからって、家の中に馬を入れることはできない。もしこの強風で厩舎が壊れたり歪んだりするようなら、もっと頑丈なものを建てなければならない、なんて考えてその日を過ごした。

 翌朝になると、昨日の強風は嘘みたいに真っ青な空と微風が吹いていた。庭は枯れ葉や花壇の柵が散乱してたけど、厩舎も無事だった。
 シルはパンのお世話をして、パンを連れて少し荒れてしまった庭を散歩している。

「マティアス様、庭の木が一本倒れてしまいました」
「そっか、風が強かったから仕方ないよね」
「ええ、春の豪雨で水に浸かった時に根が腐ってしまっていたようです」
 そんな影響もあるんだ。

「せっかくだから倒れた木でシルの玩具でも作ろうか」
 今から薪のサイズに切っても、水分が抜けるまでには時間がかかるから今年の冬の薪には使えない。それに今年の冬の薪はすでに準備してあるから、これ以上薪を入れる場所がないんだ。

「そうしましょう」
 バルドとチェルソが倒れてしまった木の枝をはらって、適当な大きさに切ってくれた。
 細い枝の部分と葉は、庭に散らばった枯葉と一緒に少し乾燥させてから燃やす。

 僕も何か作ってみようかな。積み木はアマデオが前に作ってくれたし、木彫りの人形とか?
 上手くできなければ、薪として燃やせばいいんだし、材料はたくさんある。
 僕はバルドにノコギリと小型のナイフを借りて、暖かい格好をして庭でシルを見ながら木彫りなんかに挑戦してみることにした。

 次、ラルフ様はいつ帰ってくるのかな?
 まさか欲望が抑えられなくて、娼館なんかに行ってないよね?
 ラルフ様は僕のこと最高って言ってくれるけど、最高じゃなくてもしたくなったらって思うと心がザワザワしてしまう。
 考えたくないのに考えてしまう。嫌だな……
 でも今回は僕が悪かったんだ。無茶したから。それでも、やっぱり嫌だな……
 モヤモヤと嫌な想像だけが膨らんで、それを誤魔化すようにひたすらナイフで木を削っていった。

「ママ、それポポのかぞく?」
「え?」
 シルに話しかけられて、ふと手元を見ると、僕の周りには大小の木彫りのチンアナゴが出来上がっていた。木を削った屑も大量に膝の上に乗っている。

「違うんだ。これは決して、そういう意味では……」
「ポポのかぞくじゃないの?」
 シルが残念そうにそう言った。
「ポポの、家族かもしれない、うん。そうだね……」
「ぼくがいろぬってもいい?」
「うん、いいよ。もう日が暮れそうだから明日、塗料を買いに行こうね」
「やったー!」

 なぜ僕はこんなものを、こんなにも作ってしまったのか……
 シルに気づかれなかったら、我に返った瞬間にこっそり焚き火にくべていただろう。しかし見つかってしまった。
 せめてしっかりとヤスリをかけて、握り心地よく仕上げたい。いや、握り心地ってなんだ。
 僕は色んな意味で頭を抱えた。

  
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