僕の過保護な旦那様

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二章

103.恋は盲目

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 ハリオのルカくんへの入れ込み具合を心配しているのは僕だけではなかった。
 ラルフ様が「そんなに菓子ばかり貰っても食べきれん」と言ってから、ハリオがうちにお菓子を持ってくる頻度は減ったんだけど、だからといって買う量が減ったわけではなかった。
 逆にうちに持ってこない分が騎士団の寮に回されたことで、寮のみんなが心配しているそうだ。

 最近は大人しくしているグラートが心配しているのだとか。それはちょっと意外だ。グラートが大人しい理由もちょっと気になるけど、新しい彼女ができたというわけではなさそうだ。

「ラルフ様、ハリオが心配です」
「あいつも子どもではない。菓子を買いすぎて破産するなんてことは無いだろう」
 そうだけど、大人だって娼婦や男娼やお店の女の子に入れ上げて破産する人はいる。お店の売り上げに貢献しているだけならいいけど、金品を渡していたりしたらと思うと心配なんだ。

「マティアスに心配をかけるなどハリオのやついい身分だな」
「心配してるのは僕の勝手なのでハリオのせいじゃありませんよ」
「グラートも心配していたから調べ始めているかもしれん。聞いてみるか」
 ラルフ様も思うところがあるのか、少し考えてからそう言った。
 グラートって情報収集が得意そうだ。人との距離を詰めるのが上手い。その才能を仕事だけに活かせばいいんだけど、遊びに使うからいけないんだ。

 周りのみんながハリオに声をかけても、ハリオは今のやり方を変えるつもりはないらしい。
 お菓子とは言っても、キャンディを一つ買うのとは違う。砂糖やクリームがふんだんに使われたケーキやパイなど、それなりのお値段のものをたくさん買っている。
 毎日ではないようだけど、週に三日も四日も通っていると心配にもなるよ。

 それから半月ほどするとラルフ様から調査報告が届いた。
 どうやらルカくんは、あの可愛らしい容姿を活かしてハリオのような人を周りにたくさん置いているらしい。大量買いしていく特定のお客さんをよく見るそうだ。マダムや裕福なおじさんが多いらしいけど、中には普通の人もいるんだとか。
 悪く言えば複数の客をたらし込んでたくさん買わせている。お店を繁盛させるためだろうか?
 金品を貢がされたという人は今のところいない。そのせいで大きな問題には発展していないそうだ。
 それでも給料をほとんどルカくんの店のために使い、困窮した人は何人かいた。

「ラルフ様、ハリオにはそれを伝えたんですか?」
「あいつは周りが見えなくなっている。彼のためになるなら、彼と友だちを続けられるならそれでいいと言い張ったそうだ」
 健気というかバカというか……
 そんなハリオを止められない周りも辛いよね。

「あの店は他の従業員はいないんですか?」
「彼がほとんど一人でやっているそうだ。週末の昼間だけ人を雇っているが、席も四人掛けのテーブルが一つと二人掛けのテーブルが一つしかないし、店は昼からしか開けていないそうだ」
 午前中にお菓子を作って午後に売っているのか。ほぼ一人でやっているから咎める人もいないんだろう。一人で大変そうだけど、だからって人の好意を利用した売り方はどうかと思う。
 そんな売り方をしなくても美味しいから売れると思うんだけど。それに、今まで問題にならなかったとしても、今後もトラブルが起きないとは限らない。

「ルカくんはもしかして体を許してお客さんに買わせているの?」
「それはしていないようだ」
 謂わゆる枕営業とうやつではないようだ。それは少し安心した。いや、安心はまだできない。

 ハリオに言ってダメなら、ルカくんに言ってみる?
 それでルカくんがハリオに「もう来るな」なんて言って友だちでもいられなくなったら、僕は人の恋を邪魔しただけになる。
 どうにかルカくんが、ハリオを客ではなく一人の友だちとして見てくれる方法はないものか。

 周りの心配を他所に、ハリオは行動を改めるどころか「自分のことは放っておいてほしい」とラルフ様に相談してきた。
 ラルフ様も、ハリオもルカくんも犯罪に手を染めているわけではないし、本人の気が済むまでやらせようと判断した。
 こうして、モヤモヤした感じのままハリオの件は無理やり幕引きとなった。


「このケーキおいしいね」
「うん、そうだね」
 口の端にクリームをつけながらシルが美味しそうにハリオが持ってきたケーキを食べている。
 そして衝撃の一言を放ったんだ。
「ママ、ほっぺたはれてるよ。いたい?」
 ほっぺた、腫れてる……?

 嫌な予感がした僕は慌てて鏡を見ると、そこに映る僕の顔は腫れているのではなく、これは確実に……太っている。
 ハリオが美味しいお菓子をいっぱい持ってくるせいだ。絶対そうだ。
 もうしばらくお菓子は食べない。
「シル、僕はお菓子を食べると腫れる病気になったんだ。だからもうお菓子は食べない」
 僕はシルにお菓子食べない宣言をした。シルに言っておけば無意識に食べそうになってもシルが止めてくれる。

 ハリオはお菓子をうちに持ってこなくなった。そしてしばらくすると、ハリオは大量買いをやめたそうだ。
 あんなに言ってもやめなかったのに不思議だと思ったら、シルが「ママがびょうきでしんじゃうから、おかしもってこないで」と泣いて訴えたそうだ。死んだりはしないと思うけど……

「マティアス、さすがだな」
「何の話ですか?」
「ハリオのお菓子攻撃を見事に防いだ」
 お菓子攻撃……僕にとっては正に攻撃だった。ハリオが大量買いをやめたのはよかったけど、僕の顔が丸くなった問題はまだ解決していない。
「そんなことより、例のお願いはまだですか? 忘れていたわけじゃないですよね?」
「それは……」
 気まずそうに目を逸らしたってことは、どうにか中止の方向で持っていこうとしているか、僕を諦めさせるつもりですか?
「約束守らない人は嫌いです」
「すぐにエドワードに許可をとってくる!」
 ラルフ様は夜なのに僕が止める間も無く部屋を出て行った。

 
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