僕の過保護な旦那様

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二章

89.従兄弟からの呼び出し

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「マティアス様、プロッティ子爵家から手紙が届いております」
 プロッティか。従兄弟のヴィートだろうが、また奥さんの自慢話でもするために呼び出そうというんだろうか?
 手紙を開くと、またお茶会の誘いだった。お茶会と言っても、また招待されているのは僕だけなんだろう。
 少し面倒だという気持ちもあるけど、悪い奴じゃない。僕は参加すると書いてリーブにプロッティ子爵家に届けてもらった。

「ラルフ様、明日はプロッティ子爵の家のお茶会に行ってきます」
「マティアスの従兄弟だったか?」
「ええ、たぶんまた奥さんの自慢話を聞かされるんだと思います」
「そうか」
 セルヴァ伯爵の時は嫉妬していたのに、ヴィートはいいのか。まあヴィートは奥さんに夢中だからな。

 僕は当日、チェルソに夏に買ってきたマンゴーのドライフルーツを使ったケーキを作ってもらい持参することにした。マンゴーを蒸留酒で戻して、他にもいくつかドライフルーツを入れたパウンドケーキを作ってもらったんだ。お酒の香りがする少し大人のケーキだ。

「また招待客は僕だけなんですね」
「なんだ? 文句があるのか?」
 そうじゃないけど、二人で会うのならお茶会の招待状なんて送ってこなくてもいいのに。話したいから来てくれとか言えばいいだけじゃないか。お茶会の招待状を用意するのだって大変だろうに。

「そうじゃないけど、ヴィートは律儀というか、うん、そんな感じ」
「は?」

 前に通された部屋と同じ部屋に通されて、メイドが紅茶と菓子を置いて出て行った。
 僕が持ってきたケーキも切り分けてくれている。

「このケーキはマティアスが持ってきたものか? 酒の香りがして悪くない」
「喜んでもらえてよかったよ」
「うむ」
 なんでそこで眉間に皺を寄せて難しい顔をするのか。素直じゃないな、と思うと少しおかしくなってきた。

「なんだ、ニヤニヤして気持ち悪い」
「気持ち悪いってことはないでしょう? 失礼じゃない?」
「フンッ、本当のことだ」
 なんか得意げな顔をしているのが腹立たしい。

「それで今日は僕に何の話をしたかったの?」
「嫁が妊娠したんだ。羨ましいか?」
「ええ、そうですね。ご懐妊おめでとうございます」
 うちには天才で可愛いシルという息子がいるから別に羨ましくないけど、そんなことを言ったらヴィートは機嫌を悪くするだろう。ここは僕も大人な対応をしなければ。それに子どもができるというのはめでたいことだ。

「だが、妊婦を長時間移動させるわけにはいかないから今回は連れてこられなかった」
 ヴィートはティーカップに口をつけて一口飲むと、窓の外に視線を向けた。なるほど、子どもができた自慢だけでなく寂しいから僕を呼んだのか。
「奥様を一人残してきたから寂しいんですね」

「そうだな……」
 窓の外を眺めたまま、ヴィートは小さく呟いた。
 お? 今日はやけに素直だ。やはり奥さんのことになると素直なヴィートが出るらしい。

「そんなわけない! 俺は男だ、心が強いから寂しがったりしない!」
 ハッと我にかえると、僕の方を向いて厳しい表情をしながらそう言った。
 素直に認めればいいのに。

「僕は旦那さんが遠征に行って何日も離れるのは寂しいですけどね」
「フッ、マティアスはまだまだだな。騎士の夫にしては心が弱い」
 ヴィートは本当に一言多い。僕がムッとした表情をわざと浮かべると少し慌てた様子で、領地で作っているドライフルーツが王家御用達となってかなり売り上げが伸びているから感謝するとお礼を言われた。

 もしかして、奥さんの自慢ではなく、寂しいからでもなく、お礼を言うために呼び出したの?
 本当に素直じゃないな。

「ドライフルーツは僕たちの息子も喜んで食べていますし、孤児院の子も喜んで食べていましたよ」
「は? 孤児院だと? 平民の中でも底辺だろ? なんでそんな奴らに……」
 ヴィートは悪い奴ではないと思っていたけど、眉を顰めて孤児院の子たちを差別するような発言をするのはどうかと思う。

「子どもは生まれる家や親を選べませんし、両親が亡くなってしまった場合や、中にはメイドや街の女の子が貴族のお手つきになってこっそり産まれて捨てられたりする子もいるんですよ」
「そうか……」
 僕が少し厳しい口調で言うとヴィートは少し怯んだ。そして真剣に考え込んでいるみたいだ。
 ヴィートが考え込んでいる間、僕はヴィートが用意してくれたジャムサンドクッキーをボリボリ食べて香りのいい紅茶を一口二口と飲んだ。
「平民だがいずれこの国を支える者たちか……」
 その呟きは僕に言ってるの? それとも独り言?

「マティアス、俺もその孤児院へ連れて行け」
「はい?」
 なんでそうなる? 現状を見てみたいということだろうか? いずれヴィートが継ぐプロッティ子爵家の領地にも孤児院はあるだろう。
 今後の対応を考えたいというのであれば断る理由はない。
 いつが暇なのかを聞き、シルも連れて行っていいか聞くと、「好きにすればいい」と言ってくれた。
 そしてまた今回もワインとドライフルーツをお土産だと言ってたくさんくれた。ドライフルーツこんなにいいんですか?

 当日、ヴィートは僕の家に馬車で来た。
「は? 歩いていくのか?」
「そうですよ。通りは狭いので馬車で行くとしても途中までしか入れません」
「分かった」
 文句は言うけど、嫌だとごねたりされなくてよかった。

「シル、ご挨拶できる?」
「うん。シルヴィオです。よろしくおねがいします」
 うちの子偉い! 初めて会う人にもちゃんと挨拶できた!
 そう思って感動しながら見ていると、ヴィートは体を屈めてシルと同じ目線になって、「俺はヴィートだ。挨拶できて偉いな」とシルの頭を撫でた。
 意外。意外すぎるんだけど! 子どもにはこんなに優しい顔もできるんだ……
 奥さんが妊娠して、ヴィートも親になる準備を始めているのかもしれない。
 偉いじゃないかヴィート。そんな目でヴィートを見ていると、なぜか僕だけ睨まれた。

 僕とシル、ヴィートとヴィートが連れてきた従者の男、そしてリーブを連れて赤い屋根の孤児院へ向かう。
 ヴィートが連れてきた従者が大きな荷物を抱えているのが気になった。何を運んでいるんだろう?

「孤児たちはあっちに住んでいるのか?」
「うん、そうだね。こっちは教会で、その奥の建物に孤児と神父さんとシスターが住んでる」
「分かった、おい、それはあっちに運べ」
 僕たちは神父さんに挨拶すると、孤児院の建物の方に向かった。僕たちは顔見知りだけど、ヴィートは初対面だから子どもたちは少し緊張しているみたいだ。

「おい、子どもにそれを配ってやれ」
 ヴィートが従者に指示すると、従者は荷物を解いて中身を子どもたちに配り始めた。それはドライフルーツやクッキーの詰め合わせで、もしかしてこの前僕が「孤児院の子も喜んで食べていました」って言ったから持ってきたの?

「お兄さんありがとう」「ありがとう」「ありがと」
 ヴィートが子どもたちに囲まれると、ヴィートは見たことないような優しい顔をしていた。
 今日はヴィートの意外な一面ばかり見ている気がする。

「マティアス、子育ては大変か?」
「そうですね。僕一人では育てられません。旦那さんや使用人のみんな、友人たちが手伝ってくれます」
「そうか。今日はありがとう。勉強になった」
 素直なヴィートはちょっと気味が悪いけど、きっとヴィートはいい領主になるんだろう。

 
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