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二章
87.アマデオとニコラの再会
しおりを挟む「あいつが勝手に動かないよう当日まで地下牢に入れておこう。どうせ仕事も休んでいるし」
そこまでする? と思ったけど、前にルーベンがタルクをコレッティ男爵の屋敷から攫ってきたのを思い出した。
なんだっけ、捕虜奪還? アマデオならやりかねない。
「ロッドはバルドとちゃんと話し合ってるんだね」
「最近はお互い発散し合った後にベッドの中で話はよくする。バルドは俺が恥ずかしいことばかりして、ふざけるなといつも思うんだが、それでも受け入れるのは俺の話を聞いてくれるからだ」
「そうなんだ」
「本当に嫌なことはしないし、俺の気持ちも尊重してくれる。あいつがいるから俺はもっと強くなれる。苦しい時に支えてもらったし甘えさせてもらった」
「ロッドにも苦しい時があったんだね」
「苦しい時は誰にでもある。バルドは全部吐き出せっていうんだ。嫉妬や上手くいかないことだけでなく、戦場の辛い記憶も全部。上手く言葉にできなくても、言葉に詰まっても待ってくれる」
戦場の辛い記憶……
僕は聞いたことがない。ラルフ様は僕には教えてくれないと思う。知らなくていいし知ってほしくないって言っていた。
僕に教えてくれたのは、ほのぼのした思い出だけだった。
「なんか、バルドさんを見る目が変わりそうです」
ニコラが言った。僕もそう思う。
色々オープンなのはバルドがロッドの全てを受け止めているからかもしれない。きっとバルドだけじゃなくて、ロッドもバルドの全てを受け止めているんだろう。
二人はとてもいい関係みたいだ。
僕とロッドとシルは一旦家に帰ると、ロッドはすぐに出掛けてラルフ様や部下の皆さんと共に、暴れるアマデオを捕獲して帰ってきた。
そして地下の部屋に押し込んで鍵をかけた。ロッド、仕事が早いですね。
それから二日後、とうとうニコラは僕たちの家の門を潜った。
応接室にはニコラの希望で僕とラルフ様、ロッドとバルドも同席している。アマデオは暴れないよう鉄の鎖でぐるぐる巻きにされ床に置かれている。その鎖、重そうですね……
万が一アマデオがニコラを連れて逃げないように、部屋の外ではルーベンとグラートが張っている。
ハリオはアマデオの舎弟みたいな人たちが家の周りをウロウロしているため、リーブと共に注意しにいっている。
注意するだけだよね?
「この際だから言いたいことは全部言った方がいいよ」
緊張した様子のニコラに僕から言えることはそれだけだ。あからさまにおかしい言動をしない限り僕は見守ることにする。
「それで分からないようなら、そこまでの小さい男ってことだ」
ロッドがアマデオを見ながらそう告げた。ロッドの隣にいるバルドは特に何も言わないし無表情だ。ラルフ様も同じ。
「ニコラ、なぜだ、俺はこんなに好きなのに。大切にしているのに!」
やっぱりアマデオは理解してなかったんだね。
大切ってなんだろうって思う。カゴの中の鳥みたいに閉じ込めて、でも愛を注げば大切にしてるってことになるのかな? 相手の意思を無視しても。
「俺が思い通りにならないと怒るくせに! 俺が嫌だと言うことをするくせに! 俺の話を聞かないくせに! 俺のことを否定するくせに! 俺はアマデオのなんなんだよ。愛玩動物なのか? 俺は意思を持たずにアマデオに可愛がられるだけの存在でいろと言うのか? それなら俺じゃなくていいだろ!」
ニコラ、そんなに鬱憤溜まってたの? 気付いてあげられなくてごめん。
せっかく話をしようと決心してきたのに、相手が全然理解してなくて悲しかったんだよね?
アマデオはニコラがそんなに不満を溜め込んでいると思っていなかったのか、びっくりして目を見開いて、そのまま唇を噛み締めて俯いてしまった。
ようやく気づいたんだろうか?
何も言えなくなってしまったアマデオの膝に滴が落ちた。
何か違う。これは話し合いではなく、ただ一方的にアマデオを責めただけだ。
ラルフ様をチラッと見ると腕を組んで難しい顔をしているし、ロッドも眉間に皺を寄せて何も言わない。
ニコラは言いたいことを言ってスッキリしたのかと思っていたけど、その表情は晴れやかとは言えない、なんとも罰の悪そうな顔をしている。
シンと静まり返った室内で口を開いたのはバルドだった。
「ニコラさんの苛立ちは分かる。ロッドから話を聞いているから。だが今のはよくない。これでは話を聞いてくれないアマデオさんと同じですよ。まずニコラさんは一つずつ具体的に嫌だったことをあげて下さい。それに対してアマデオさんは言い分があるなら言う、無いなら反省するなり何なり解決策を考えればいい。どちらも一方的に責めるのは無しですよ」
バルド、僕はちょっと感動してるよ。こうやって広い心でロッドのことを受け止めてきたんだね。僕もそんな包容力を身につけられるように頑張ろう。
問題を一つ一つ解決していくのはとても時間がかかった。
途中で軽食をとったり休憩を挟みつつ、陽が傾き始める頃まで話し合いは行われた。
話の最中アマデオは一度も暴れなかった。開口一番ニコラに声を荒げられたことがかなり堪えたんだろう。
「もういいだろう。アマデオ、ニコラを大切に思うならニコラの思いも大切にしてやれ」
話が途切れたタイミングでラルフ様が言った。
もうアマデオはニコラの話を聞かずに暴走したりしないと思う。ニコラも流されるのではなくちゃんとアマデオに向き合えると思う。
「俺は、ニコラに捨てられるのか?」
アマデオが泣きそうな顔でそう言った。捨てないために話をしていたってこと分かってないの?
「お前バカだろ。お前みたいにどうしようもない奴、俺しか面倒見れないだろ。だから王都まで来たんだ。捨てないから、これからはちゃんと俺の話聞いてよ」
「うん、ごめん。ニコラ、愛してる……」
「ん、俺も」
ニコラはアマデオに近づいていくと、重そうな鉄の鎖を解いてあげていた。その重そうな鎖、ニコラは普通に持てるんだ……
ニコラってこう見えて結構強いの? 勝手に僕はニコラを僕と同じ『守られるだけの存在』だと思っていたけど、違うのかもしれない。
でもよかった。二人が仲直りできて。
コンコン
「ごはんのじかん!」
いいタイミングでシルが僕たちを呼びにきた。
空気も読めるなんてうちの子偉い!
「ニコラ、アマデオゆるしたの?」
「そうだね」
「じゃあアマデオこれからは、いっぱいごはんたべるね」
「シル、それってどう言うこと?」
ニコラが不思議そうに聞いた。
「アマデオさみしいからごはんたべれないって」
アマデオはさっそくニコラに「シルを心配せるんじゃない」って怒られていた。
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