僕の過保護な旦那様

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二章

80.お土産

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「おさかな!」
「シル、お魚はお土産にできないんだよ。たくさん馬車に乗ってきたでしょ? 運んでる間に腐っちゃうからね」
 シルは旅に出る前に、お土産を買いたいと言っていたからどんなお土産がいいのか聞いてみたら魚がいいと答えた。そんなに魚が気に入ったのなら、また連れてきてあげたいな。
 しかし困った。孤児院の子たちへのお土産として貝殻は拾ったけど、魚に代わるお土産が思い浮かばない。
 僕だってシルの願いなら叶えてあげたいんだけど……がっかりした様子のシルにどうしようかと悩んでいると、ラルフ様が口を開いた。

「シル、ここから魚を持って帰ることはできないが、帰ったら川で魚を取る方法を教えてやる」
「ほんと?」
「ああ、約束だ」
「やくそく!」
 ラルフ様の機転によってシルは無事笑顔を取り戻した。ふう、よかった。
 そういえばラルフ様はまだシルがうちに来てまもない頃、川でとったであろう魚をお土産だと持ち帰ったことがあった。ラルフ様がどうやって魚を取ったのか気になってたんだ。石を投げたとか意味の分からない回答が返ってきて不思議に思っていたんだ。

「お土産だが、シルは誰に買うんだ?」
「うんと、リーブとメアリとリズとミーナとチェルソとバルド、あと……ニコラとアマデオとハリオとロッドとルーベンと……いっぱい」
 シル、グラートのこと忘れてない? それともグラートには買いたくないんだろうか? 可哀想なグラート……

 お土産は花屋のみんなには花びらの入ったバスソルトを買った。
 チェルソには海水から作った塩、生ものは持ち帰ることができないから、他のみんなにはちょっと珍しそうなドライフルーツと海の生き物の刺繍が入ったハンカチを買った。
 やっぱり次はみんなで来たいな。

「ぼくこれにする」
「え? それ買うの?」
 シルが買うと言ったものは木彫りのチンアナゴという魚だった。魚だよね?
 先がちょっと曲がっている棒で、白地に黒で斑点模様がある。店先に籠盛りで置いてあったんだけど、それって子どもが持って遊ぶものでいいんだよね? まさか大人が夜に遊ぶものじゃないよね?

「シル、こっちに色違いもあるぞ」
 ラルフ様は全く気にする素振りもなく、色違いのチンアナゴをシルと一緒に見ている。
 そういうものに見えるのは僕だけなの? 一人で淫らな想像をしてしまったことが恥ずかしくなって、両手で顔を覆った。

「マティアス、どうした?」
 輝くような笑顔で両手に木彫りのチンアナゴを持っているラルフ様。
 なんか卑猥に見えるからやめてください……僕は慌てて目を逸らした。
「僕は、ちょっと疲れたので屋台でジュースでも買って木陰で飲んでいます」
 そして僕はこの店から逃げ出した。

 夜にラルフ様があんなにたくさんキスするから……
 僕だっていつもそんなことを考えてるわけじゃない。ただちょっと我慢する期間が長いから……
 ラルフ様が不在の時は仕方ないって我慢できるんだ。でも、側にいるのに甘えさせてもらえないと……
 あと五日は我慢か……長いな。

 ラルフ様は「己の欲に打ち勝つために剣を振るっていた」なんて前に言っていたっけ?
 じゃあ僕も己の欲に打ち勝つためにスクワットでもしてみるか。

 屋台でジュースを買って、木の影に隠れてスクワットをした。数回じゃダメだな。もっといっぱいやらないと。
 汗だくになって無心でスクワットを続けていると、やっとラルフ様とシルがやってきた。

「マティアス、何をしているんだ?」
「スクワットです。己の欲に打ち勝つために必要なことです!」
「ぼくもやる! ぼくもかつの!」
 こうして僕たち三人は木陰でスクワットをやり続けた。

「マティアス、足の角度はこうだ。それでは力が逃げてしまう」
「ん? こう?」
「そうだ、それでいい」
 僕はこんなところで何をしているのか……
 ゆっくり自分のペースで進めていこうと思っていたのに、ラルフ様の指導にも熱が入って、限界ギリギリまでスクワットをすることになった。

 ハァハァハァ……
「もう無理……」
「よく頑張ったな」

 そして翌日。
「マティアス、抱っこするか?」
「いえ、大丈夫です」
「ママいたいの?」
 僕だけが酷い筋肉痛に襲われることになった……
 ゆっくりと歩いて乗合馬車の乗り場まで向かう。馬車の揺れですら痛い。

「街に着いて宿を取ったらオイルでマッサージをしてやる」
「ぼくもする~」
 元気なシルとラルフ様。なんで? 僕ってやっぱり筋力が弱すぎるの?
 オイルでマッサージなんてされて、また欲望が湧き上がってきたらどうするのかと思ったけど、そんなのは要らぬ心配だった。
 宿に着くと僕は、ラルフ様のマッサージによって痛すぎて悶絶したのだった。


「皆さん、長期休暇をいただきありがとうございました。これ、海のお土産です」
「まあ、海まで行ったのね。シルくんも喜んでいたでしょう」
 マチルダさん他、花屋のみんなにはバスソルトとマンゴーのドライフルーツを配った。

 ラルフ様は戻ってすぐに王宮へお土産を持って行った。
 緑のちょっと気持ち悪い人形をもらったエドワード王子の反応は気になるところだが、わざわざ会いに行きたいとは思わないのでラルフ様一人で行ってもらうことにしたんだ。
 休暇をくれたので、僕からのお土産も渡してもらうことにした。僕からのお土産は無難にマンゴーのドライフルーツだ。

「ラルフ様、お土産を渡した時の反応はどうでした?」
「エドワードか? 緑の人形を渡したら一瞬表情が消えたぞ」
「最高です!」
 僕はそれだけ聞ければ十分です。

 
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