僕の過保護な旦那様

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二章

64.取り戻した日常

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 今日から僕は花屋の仕事に復帰だ。
 タルクの実家であるコレッティ男爵家から、花屋にお詫びの品として領地で作られているワインが人数分届いていた。

「マティアスくん、早速だけど配達お願いね」
「いってきます」
 コレッティ男爵夫人の醜態として、貴族界隈では話題になったらしく、興味本位で僕のことを呼び出す貴族が増えてしまった。エドワード王子まで出てきたため、ことが大きくなってしまったようだ。
 いつも苗や種を買ってくれている貴族だけでなく、今まで関わったことのない家からも、鉢植えや花束などを届けてほしいと依頼が入っている。

 僕は正直面倒だと思っているけど、マチルダさんはとっても嬉しそうだ。
 お得意さんに少し話しただけでなく、数日の間にこんなに広めたのはマチルダさんなんじゃないかと僕は疑っている。きっとマチルダさんを敵に回したら恐ろしいことになるだろう……

 全く元通りとはいかなかったけど、タルクも仕事を続けられることになったし、穏やかな日常が戻ってきた。

「シル、どうしたの? 緑の好きでしょ?」
 シルがおやつに添えたキウイのドライフルーツを眺めているんだけど、手をつけずに考え込んでいる。

「みんなにもあげたい」
「みんな?」
「あかいやねの、おうちにいるこ」
「じゃあ明日、みんなの分も持って遊びに行こうか」
「うん!」
 美味しいものをみんなと分けたいなんて、うちの子は優しい。
 これはラルフ様に報告しなきゃ。


 翌日、お休みだったニコラと、ちょうど手が空いていたバルドを連れて赤い屋根の教会に行った。
 外は寒いから、暖炉を焚いた暖かい部屋に子どもたちが集まっている。床に敷いた絨毯は、うちが寄付したものだ。倉庫に埋もれていたものだけど、こうして活用してもらえるならありがたい。

 子どもたちは玩具を絨毯の上に広げていて、みんな絨毯の上に座っている。小さいと椅子に座っても床に足が届かないし、子どもたちは自由に動き回れる床の方が好きみたいだ。
 シルは自ら、子どもたちにドライフルーツを配って、「これはあまい」「こっちはすっぱい」とか説明していた。

 今日はお葬式があって神父さんたちが忙しそうだったから、僕たちは子どもを見守りながら、暖炉の前に椅子を並べて火の番をしていた。

 パチパチと燃える暖炉の火を眺めながら、三人で話をする。
「シルヴィオ様は優しいですね」
「だよね! うちの子は優しいんだ」
「マティアスさんは嬉しそうですね」
 あ、しまった。シルが褒められたから思わず……
 二人に温かい目で見られて恥ずかしい。

 三人の共通の話題はやっぱり花のことで、春になったら今年はどんな花を植えるとか、最近入ってきた新しい花のこととか、そんな話題は尽きなかった。

「ところで、お二人に相談なんですけど……アマデオにプレゼントをしようと思っていて、どんなものがいいですかね?」
 ニコラがちょっと恥ずかしそうにそんなことを聞いてきた。

 プレゼントか。
 僕がラルフ様にあげたのって、ハンカチ、お守り、正装の時のタイ、タイピン、いい香りの石鹸、それくらいだ。あとは食べ物やお酒かな。
 石鹸をあげた時は、ラルフ様が包みを開いた瞬間にショックを受けた顔をして固まっていたっけ。「俺は臭いか?」なんて言って。そんな意味じゃなくて、ただいい香りの石鹸だったからどうかなって思っただけだったのに、僕はラルフ様の傷口を抉ってしまうという失態を……
 だから石鹸はお勧めしません。

「ハンカチとか、お守りは? ありきたりすぎるか……」
 アマデオは花なんてもらっても嬉しいか分からないし、貴族じゃないから宝飾品もいらないだろう。他には消耗品の防具とか、服とか、そんなものしか浮かばない。
 他に何かあるかとバルドに視線を送ると、少しだけ考えて口を開いた。
「ニコラさんでいいのでは? アマデオ殿ならそれが一番喜びそうです」
「え? 俺?」
「そうそう」
 バルドがニコラに何か耳打ちすると、ニコラは湯気が出そうなくらい真っ赤になって俯いてしまった。バルド、何を言ったの?
 気になるんだけど。僕だけ除け者にしないでよ。
「バルド、ニコラに何言ったの?」

 バルドは僕にも耳打ちでこっそり教えてくれた。
『自分で後ろを準備して、上に乗って動いてあげればいいんじゃないですか? と言いました』
「なっ!」
 僕は叫びそうになって慌てて口に手を当てた。
 耳打ちでよかった。こんなの子どもには聞かせられない。バルドもその辺はちゃんと弁えているみたいだ。

 それにしても……
 自分で準備か。もしかして僕、ラルフ様に任せすぎてる? 口でしたことはあったけど、それくらいしかない。
 上に乗って僕が動く……
 有りかもしれない。

 って、教会の子どもたちの前で僕はなんて淫らなことを考えているんだ……
 子どもたちに聞こえないように配慮したのはいいけど、時と場所も考えてほしかった。
 バルドたちはオープンすぎるんだよ。だってそれ、絶対ロッドがやってくれて嬉しかったことでしょ?
 ロッドって尽くすタイプなのかな? いつもグラートの面倒も見ているし。

「ニコラ、バルドの案はそれはそれで、プレゼントはアマデオのことを思って選んだものだったらなんでも喜んでくれると思うよ」
「そ、そ、そう、ですよね」
 バルドがあんなこと言うから、ニコラはまだ動揺したままだ。


「ママ、ニコラもバルドもこれあげる」
 優しいシルは僕たちにもお気に入りのドライフルーツをくれるみたいだ。
「シルありがとう」
 小さな手で渡してくれたのは、葡萄とオレンジだった。オレンジは紅茶に浮かべても美味しそうだ。

 ニコラはシルがくれたドライフルーツを食べて、ようやく落ち着きを取り戻した。シルは精神を落ち着ける才能もあるのかもしれない。うちの子は天才だ。

 
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