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二章
60.ルーベンの危機
しおりを挟む「マティアス、仕事をしばらく休め」
いつもより遅い時間に帰宅したラルフ様を玄関で迎えると、ただいまの挨拶より先にそんなことを言った。
「なぜです?」
「ルーベンが不敬罪で捕まった」
「はい?」
不敬罪? ルーベンがなぜ?
「ルーベンが不敬罪で捕まった」
「それはさっき聞きましたが、理由を説明してもらえないと、僕が仕事を休むこととの関係も分かりません」
ルーベンはタルクに戦いを教えていたんだけど、タルクの親がそれに納得しなかった。息子の生傷を見て、主に母親が怒ってしまったらしい。
タルクもきっと親に説明はしているんだろうが、コレッティ男爵家を訪ねても、会うことができなかったそうだ。タルクが軟禁されているという情報もあるらしい。
ルーベンはコレッティ男爵夫人の訴えにより騎士団に連れていかれた。
しかしラルフ様の部下であるルーベンを罰することは難しく、というかそんなことをしてラルフ様や部下のみんなが暴れることを恐れている。表向きは捕まったってことになっているから、騎士団の外には出られないが、拘束などはされていないそうだ。
元々ラルフ様もその上のクロッシー隊長も、ルーベンが一般人に指導を行っていることを許可していたのだから、指導を行ったことで罰するのは難しい。
神出鬼没という感じで空から登場したりするのに、ちゃんと上司に相談や報告をしているルーベンは、案外真面目なのかもしれない。
「不敬罪とはどういうことなんですか? タルクの親に何かしたということですか?」
「そうではない」
初めは暴力行為だと被害を訴えられたがそれを退けたら、今度は不敬だとされ、退けるのが難しかったそうだ。
不敬って曖昧だよね。中には、平民が目の前を横切ったとか、前に立ったとか、目があったとか、そんな馬鹿みたいな理由で罰せられることもある。
何も悪いことをしていないのにルーベンが罰を受けるのは僕も納得できない。
それで僕が仕事を休めと言われた理由は、コレッティ男爵夫人が怒りの矛先を僕にも向けているからだ。息子を唆して平民と関わるような花屋で働かせたという理由で店に突撃してきたらしい。その時にタルクの辞職も伝えられた。
僕は休みだったから知らなかったんだけど、マチルダさんがラルフ様に知らせて、話し合いの末、僕が休むことは決定事項となった。
「タルクも僕もいなかったら、モニカはまだ配達には行けないしお店が大変です」
「数日の辛抱だ。マティアスの邪魔をする敵は何者であっても許さん」
タルクのことは正直どうなるか分からない。花屋のことはマチルダさんに任せるしかない。僕もタルクも稼ぎ頭だから、あのマチルダさんが何もしないわけがない。
僕の予想では、僕を指名して注文してくれている貴族を味方につけて、コレッティ男爵家の横暴を退けるのではないかと思う。
ん? もしかしてマチルダさんはそのために僕を休ませた?
貴族は貴族で、戦争で勲章をもらうようなラルフ様を敵には回したくないし、今は僕としては不本意だけど、僕をもてなすのが貴族の間でブームになっているから、何かしようとすれば他の貴族から睨まれる。
そんな中でコレッティ男爵夫人はよくこんなことをしたものだ。
「コレッティ男爵夫人の行動は、男爵も容認しているのですか?」
「男爵本人と長男と次男は不在だった。王都から一日の距離にある男爵の友人の屋敷に出向いている。帰りは明後日だと聞いた」
夫が不在の間に夫人が独断でやったんだろうか? だからラルフ様は数日の辛抱って言ったのかな?
僕だったらすぐに伝令を走らせるし、知らせを聞いたらすぐに戻ってくるから、明日には帰ってくるんじゃないかな?
それで僕と花屋とルーベンのことは解決したとしても、タルクはどうなるんだろう?
家族の問題に部外者が首を突っ込むことはできない。花屋の仕事が楽しいと言っていた。強くなりたいとルーベンに教えを乞うた。そんなタルクの気持ちが報われるといいんだけど。
「ラルフ様、穏便にお願いしますね」
「なぜだ?」
そう言っておかないと、ルーベンへの罰を要求をしたり、僕に迷惑をかけるようなことがあれば、ラルフ様はコレッティ男爵家を物理的に潰してしまいそうだから怖いんです。
「心配なんです」
「マティアスは何も心配することはない」
「そうじゃなくて、タルクも僕にとっては大切な人ですから、傷ついてほしくないんです。もちろんラルフ様も傷ついてほしくないです」
「分かった」
この「分かった」というラルフ様の返事、ちょっと不安が残る。
「もしコレッティ家に行く時は僕も連れて行って下さい」
「それは危険だから無理だ」
「ラルフ様が一緒だから大丈夫です」
僕がそう言うと、ラルフ様は腕を組んで深く考え込んでしまったが、ふぅ~とゆっくりと息を吐いて、「仕方ないな」と言ってくれた。
僕を守りながら戦うということを想像して可能かどうかを考えていたんだろうか?
何があっても絶対についていって、武力行使に出るようなら僕がラルフ様を止めよう。
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