4 / 184
一章
4.街へお出かけ
しおりを挟む「ラルフ様、朝食を食べたら、街を歩いてみませんか?」
「そうだな。一緒に行こう」
僕はラルフ様からの手紙を受け取って、慌てて家を出て王都に来た。使用人のみんなと、この屋敷を整えて、間も無くラルフ様が帰ってきたから、僕は王都の街を見てない。
馬車の中からチラッと見たけど、その時は緊張していて、全然覚えてない。
15になった年、社交界デビューとして一度夜会に参加したけど、知らない人と踊るのが嫌で、体調不良を理由に毎年欠席していた。
男爵家の三男なんて、みんな興味はない。病弱なんだと思われているか、存在さえ認識されていないかのどちらかだと思う。
ってことで僕は王都の街を歩いたことはない。楽しみだな。
朝食をとると、使用人のみんなに、ラルフ様が戦場から戻られたばかりで気を張っていることを伝えた。さすがに殺されかけたとは言えないから、警戒する体勢を取られたと伝えた。
ビックリさせたり、背後から話しかけたりしないようにと伝えた。大丈夫だよね? 屋敷の中で殺傷事件とか嫌だよ?
ラルフ様を玄関で待つ。
「待たせたな」
「……ラルフ様、どこへ行かれるんですか?」
そこに現れたラルフ様は完全武装されていた。金属のプレートアーマーでないだけマシなのか? 革鎧の隙間からチェーンメイルが見えているし、ロングソードを背負って、腰には片手剣が。
「マティアスを守らなければいけないからな」
僕を戦場か野盗討伐にでも連れて行く気ですか?
メアリーにラルフ様の普段着は無いのかと聞いてみたら、体型が変わったから、家から持ってきたものが着れなかったのだと言われた。
早く手配してあげて。こんな格好で街に行くなんてどうかしてるよ。
とにかく剣は下ろしてもらった。チェーンメイルも革鎧もだ。
正装も仕立てないといけないし、家令のリーブにすぐに仕立て屋を手配するよう指示した。
普段着はオーダーメイドでなくてもいいだろう。今日の目的は決まった。ラルフ様の服を買いに行く。
「せめてこれだけは。マティアスのことは俺が盾になってでも守るが、丸腰では不安だ」
王都を歩くのに、そんなに危険があるとは思えないけど、どうしてもと言うからナイフだけは持って行くことを許可した。
やっぱり護衛を雇った方がいいんだろうか? 伯爵が、ラルフ様が護衛は必要ないと言ったから募集はやめたと教えてくれたけど、いたほうがよくない? そうすればラルフ様も安心して普通の格好で出歩いてくれるのでは?
一応、うちの使用人のみんなは、賊が紛れ込んだ場合に無力化したり、主人を守ることができる程度の力を持っているらしい。戦場のような場所での、本格的な戦闘となると厳しいと思うけど。
伯爵はしばらく王都に滞在すると言っていたし、護衛のことを相談してみよう。
ようやく用意が整って馬車に乗ったんだけど、ラルフ様は落ち着きがない。鋭い目線で外を観察して、ナイフの持ち手から手を離さない。
そんなにずっと警戒していたら、精神が擦り切れちゃうよ。
「ラルフ様、ここは治安がいいと言われている王都です。戦場じゃないのでそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「そうだな」
街に連れてくるのは早かったかもしれない。明日からはしばらく、屋敷でゆったりと過ごしてもらおう。
服屋に行っても警戒しっぱなしのラルフ様が、なんだか可哀想になってしまって、サイズを合わせて店主に服を何着か見繕ってもらうと、服を買ってすぐに屋敷へ戻った。
ラルフ様は僕の隣ではなく、一歩下がった位置に立って、護衛の人みたいにずっと辺りを真剣に観察していた。これって戦場に何年もいたからだよね?
家に帰ると、少しは落ち着いた様子を見せてくれた。
庭のガゼボでお茶をしたけど、もうかなり寒いから、これからは暖かいお部屋から庭を眺めることにしよう。
「寒いですね」
そう言ったら、ラルフ様は僕をサッと抱えてすぐに屋敷の中に入った。
何その早技。僕はまたビックリして声も出せなかったよ。
「風邪を引いたら大変だ。暖炉に火を入れるか? 温かい風呂か? 毛皮を持ってくるか?」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください」
僕を心配してくれているのが分かるから、嬉しい気持ちもある。大袈裟だけど。
そんなこともありつつ、僕たちは屋敷の中でゆったりと過ごした。
寝室は明るいランプにしてもらって、僕が待ってても敵に間違われないようにした。
リラックスする香りのキャンドルもたくさん買った。街に出るとまた警戒しちゃうから、買い物は行商を呼んで、ラルフ様と一緒に選んだ。
ラルフ様の正装も何着か仕立てている。僕のは毎年着ないのに作ってたから、それを家から持ってきたし必要ない。それなのに、ラルフ様は僕の正装まで仕立ててくれた。
半月もすると、ラルフ様はやっとこの屋敷の生活にも少し慣れてきたみたい。家の中では片手剣を帯剣しなくなった。朝起きて、僕を見つけて反射的に距離を取るってことも減った。完全に無くなったわけじゃないけど、毎朝だったのが、二日に一回になって三日に一回になった。
夜中に寝返りをうって、ラルフ様に触れてしまった時は焦った。一瞬にして僕に馬乗りになって首に手を掛けられたから。
でもすぐにラルフ様は僕だと気付いて「すまない」と退いてくれた。その夜は、何度言ってもベッドに上がってくれなくて、ベッドの横の床でずっと平伏していたから、僕の方が申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
一緒に寝るのは間違いなんだろうか? ラルフ様は僕に全然手を出してこないし、僕ではダメなのかな?
1,013
お気に入りに追加
1,268
あなたにおすすめの小説
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる