上 下
30 / 49

30.エリオの変化

しおりを挟む
  

「副団長って、怖いと思っていたが最近優しくないか?」
「よく考えてみれば怒鳴られたりしたことはないな。」
「この前、教えてくれた時は優しかった。」
「剣士部隊では一緒に走ったと聞いたぞ。」
「副団長が走るのか?というか走る必要はあるのか?あの人飛べるよな。」
「だよな。走る必要など無いように思う。」

 そのような話が囁かれるようになると、エリオは騎士団の廊下を歩いていても声をかけられることが増えた。

「副団長、おはようございます!」
「・・・。」

「副団長、またうちの隊にも教えにきてください。」
「・・・。」

 一瞬ピタリと歩みを止めるも、返事はせず足早に去っていくエリオに、やはり気軽に声をかけるのはいけないことかもしれないと迷う者もいた。

 一方のエリオは、さっと副団長室に戻ると、突然話しかけられたことに緊張して何も答えられなかった自分を恥じていた。

 話しかけられたのに、何も答えられなかった・・・。挨拶すら・・・
 あれは本気か?それとも社交辞令か?私を揶揄ったのか?今まで廊下ですれ違っても、敬礼しかされたことがないのに、なぜ突然話しかけられるようになったのかが分からない。

 しかし、騎士団の底上げ、特に魔法騎士たちの底上げはしなければならないのだからと、今日も緊張しながら隊の訓練場へ向かった。
 ふぅ、さっきは失敗してしまったから、今度はちゃんと答えられるようにしなければ。

 一通り訓練を眺めて隊長に指示を出す。
 先日渡した訓練メニューに沿って進めてくれているようだ。
 様子を見てもう少し難易度を上げてみるか、それとも他を強化するか考えなければ。
 そう思って訓練の様子を見ていると、休憩の時間になった。

「副団長!」
「この前の風魔法もう一度見せてください。」
「魔力操作の精度を見てもらえませんか?」
「俺も見てほしい。」
「俺も。」

 わらわらと寄ってくる部下たちに私は思わず後退りし、囲まれる前に足速に立ち去って部屋へ引き返した。
 あんなに一気に寄ってこられたら怖い。
 1人や2人なら何とか対応できると思ったが、私が輪の中心などとてもじゃないが無理な話だ。

「まだ直接教えてもらうには俺たちではレベルが低すぎるということか。」
「その程度の腕で副団長に教えてもらうなど無理ということだな。」

 エリオが逃げたあと、取り残された騎士たちのモチベーションは意外と落ちはしなかった。

 魔法騎士たちの底上げという使命感から、エリオは震える足に弱い雷魔法を浴びせながら、毎日のように訓練場へ通った。

 ふぅ。今日は剣士部隊の方へ行って走るか。

「副団長! う、機嫌、よくなさそう、ですね・・・」
「・・・。」
 そっと距離をとる剣士たちと、今日も一緒に訓練場を何周か走った。

 走っていると少しは顔の強張りもマシになってくる。

「副団長、嫌なことでも有りましたか?」
「別にない。」
「そうですか。」
「剣士たちは身体強化くらいは使うのか?」
「使う者もいますが、あまり多くはないです。」
「そうか。教える者がいないのか?それともあえて使わないのか?」
「教える者がいないです。」
「分かった。教わりたい者がいるなら手配しておく。」

「教わりたいです。」
「俺も。」
「私も。」
「分かった。」

 そうなのか。魔法剣士たちを派遣すればいいのに、なぜ今までしなかったんだ?
 私は部屋への帰り道、その辺にいた魔法騎士2人を捕まえた。

「お前ら、明日から三日、剣士部隊に行って身体強化を教えろ。」
「は、はい。」
「第3訓練場だ。」
「わ、分かりました。」

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

それでも僕は君がいい

Q.➽
BL
底辺屑Dom×高スペ王子様系Sub 低スペックで暗くて底意地の悪いDomに何故か惚れきってる高スペック美形Sub男子の、とっても短い話。 王子様系Subにちょっかいかけてる高位Domもいます。 ※前中後編の予定でしたが、後編が長くなったので4話に変更しました。 ◇大野 悠蘭(ゆらん) 19/大学生 Sub 王子様系美形男子、178cm 秋穂の声に惹かれて目で追う内にすっかり沼。LOVELOVEあいしてる。 ◇林田 秋穂(あきほ)19/大学生 Dom 陰キャ系三白眼地味男子 170cm いじめられっ子だった過去を持つ。 その為、性格がねじ曲がってしまっている。何故かDomとして覚醒したものの、悠蘭が自分のような底辺Domを選んだ事に未だ疑心暗鬼。 ◇水城 颯馬(そうま)19/大学生 Dom 王様系ハイスペ御曹司 188cm どっからどう見ても高位Dom 一目惚れした悠蘭が秋穂に虐げられているように見えて不愉快。どうにか俺のSubになってくれないだろうか。 ※連休明けのリハビリに書いておりますのですぐ終わります。 ※ダイナミクスの割合いはさじ加減です。 ※DomSubユニバース初心者なので暖かい目で見守っていただければ…。 激しいエロスはございませんので電車の中でもご安心。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

処理中です...