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7.ノアの回想1/2

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 ノアside


 僕は驚いた。僕は根っからの研究者で、兄たちと違って戦闘が得意ではない。末っ子だからと甘やかされて、幼い頃に剣が重くて辛いと泣けば、「俺たちが守ってやるからノアは剣など振らなくていい」と兄たちに言われ、剣術はすぐに辞めてしまった。
 魔法は少しは使えるが、魔法薬の研究に使うような調合や浄化などに特化しており、攻撃などほとんどできない。

 薬草を摘んだらすぐに戻るつもりだった。魔物に追われて森の奥に来てしまったことは分かっていたが、まさか囲まれるとは思っていなくて、もうダメだと思った。
 もう走れないし、転んで服も汚れ、体のそこら中が傷だらけで、もうここで死んで魔物の餌になるのだと思った。
 こんなことになるなら、エリオに想いを告げればよかった。
 エリオにその気がないのは知っている。しかし、僕は友達でもいいと思ってずっと友達でいてほしいと言った。


 僕は狡い。エリオが酔っているのをいいことに勝手にキスをして、そしてエリオが申し訳ないと酔い潰れたことを謝るものだから、お詫びとしてずっと友達でいてくれなんて。

 エリオのことはずっと前から知ってた。
 公爵家の嫡男だし、第二王子と仲良しだし、何と言っても容姿が美しい。
 学園でも夜会でも目立つんだ。
 しかも優秀でこの歳にして魔法騎士団の副団長まで務めている。
 僕にとっては高嶺の花で、ただただ憧れの人だった。

 そんな僕に両親が申し訳なさそうな顔で、エリオと友達になってくれと公爵家が直々に来たのだと聞いた。
 え?僕?なぜかと思ったら、野心がないためエリオを利用したりせず友人として付き合ってくれそうだから選ばれたのだとか。
 はっきり言って意味が分からなかったが、それでもエリオと話ができるなんて夢のようだと思った。
 向こうが乗り気になるかは分からないが、それでも僕の存在を知ってもらえるだけでもいいと思った。

 実際に会ってみると、確かに厳しい顔をしていたが、僕が敬語が苦手だと言うと、普通に話していいって言ってくれた。
 高位貴族なのにこんな貴族にもなれないような僕にも優しい。
 咎められることもなかったし、怒っていないと言った。
 少し緊張していたせいで、僕ばかり一方的にペラペラと話していたけど、それでも怒ることも鬱陶しがることもなく、静かに話を聞いてくれた。

 そして、魔法陣のことを聞いてみたら詳しいとか。実は知ってた。学生の頃によく図書館で魔法陣の本を開いているのを見たことがあるから。
 あわよくばと思って、魔法薬の魔法陣が作用しなくなったことを相談したら、見てくれると言ってくれた。凄い良い人。冷酷なんて噂は全然当てにならないと思った。

 冷酷?表情は確かに硬い。
 でも、僕がエリオって呼んでいい?って聞いた時、少しはにかんだ顔がすごく可愛かった。
 ヤバイ落ちちゃうって思った。
 そのギャップは反則だよ本当に。

 あぁ、会いたいな。でもエリオは僕のことどう思ってるんだろ?副団長なんてきっと忙しいだろうし。僕から高位貴族の彼を誘ってもいいのだろうか?
 なんて考えて過ごしてたら、慌てた様子の副所長に、エリオがきてるからすぐに来いと呼び出された。
 まさかねー
 エリオからの手紙でも届けにきた人だろうと思ったら、まさかの本人だった。

「こんなに早く来てくれるなんて思ってなかったから嬉しい。魔法陣が気になったの?それとも僕に会いに来てくれたの?」
「・・・。」

 ふざけてそんな風に聞いたら黙ってしまったけど、魔法陣だと即答されなかっただけでいい。
 やっぱり魔法薬の製造が滞っていることが問題だと思ってすぐに来てくれたのかな?
 それでもいい。もしかしたら2度目は無いかもしれないと思ってたから会えただけで嬉しい。

「ふふふ、両方ってことにしとくね~」
「あぁ。両方だ。」

 やっぱりエリオは優しいよ。すっごく優しい。

 机の上をザッと片付けて、というか端に寄せて、ソファーに座ってもらった。
 あ、湯沸かしの魔道具壊れてたんだった。エリオを待たせてしまうのは申し訳ないと思っていると、エリオがティーポットにお湯を入れてくれた。

 水の魔法と火の魔法を同時に使えるってすごいって褒めたら、またはにかんで、この前よりもっと穏やかな顔で可愛かった。

「エリオのその顔好き。ちょっと照れてる顔。あーでも、そんな顔して歩いてたら僕みたいなのが気軽に会えなくなっちゃうね~」
「そんなことはない。」

 公爵家の令息で、しかも魔法騎士団の副団長。
 美しいけど今まではどこか冷たい表情で人を寄せ付けない雰囲気があったから気軽に声をかける人はいなかった。
 でもそんな顔をしたら、僕なんてとても近づけないくらい囲まれてしまうと思ったのに、そんなことないって。
 こんな僕にも気を遣ってくれるなんて優しい。

 この彼の心を射止めるのって、どんな人だろう?
 まぁ僕には関係ないことだけど。せめて友人として彼の幸せを見守りたいな。

 魔法陣のことは色々教えてもらったし、解析もしてくれて、しかも書き直してくれたし、その魔法陣を基本として応用したものを作って2人で一緒に実験してみた。
 こんなことにも付き合ってくれるなんて、やっぱり魔法薬の研究は国にとって民にとって大切なことだと思ってるからこうして付き合ってくれるんだろうな。

 魔力回復ポーションや体力回復ポーションなら受け取ってくれるかな?
 こんなに色々協力してくれた彼へできることを考えたら、そんなことしか浮かばなかった。

 引き留めてしまって悪かったな。このままサヨナラするのは寂しいと思って、思い切って飲みに行かないかと誘ってみたら、了承してくれた。

 ウォッカが好きとか言うから、凄く強いのかと思って、僕も調子に乗って飲んだし、彼にも飲ませたら、見事に酔っ払ってしまった。
 酔ってふにゃっと笑うエリオが可愛すぎて、エリオを無理やり膝の上に乗せてキスをした。

 自分でも何でそんなことしたのか分からない。酔っていたからとしか言いようがないけど、エリオも拒否はしなかったし。大丈夫だよね?
 エリオは唇を離すとすぐに寝てしまった。

 ヤバイ。公爵家の令息を酔い潰してしまった。
 僕はエリオを背負って必死に公爵邸へ向かった。途中で落としそうになって、身体強化を自分にかけて何とか辿り着いた。
 エリオは僕より小さいし、重すぎるわけじゃないけど、成人男性なんだからそれなりの重さはある。初めて兄たちのように鍛えておけばよかったと後悔した。
 エリオを使用人に渡そうとするとエリオが僕を離してくれなかった。

「坊ちゃまがすみません。よろしければこのまま泊まっていかれますか?
 坊ちゃまのベッドは大人が3人は寝られるほど大きいので、一緒に寝ても狭くはないかと。」
「そうですね。無理に起こして引き剥がすのも可哀想なのでお世話になります。」
「子爵家にはその旨伝えておきます。」
「ありがとうございます。」

 こうしてまさか僕はエリオと同じベッドで寝ることになった。

  
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