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55.救国の女神(ヒューゴ視点)
しおりを挟むはあ……
「また溜め息ですか?」
「カルムは幸せそうでいいな」
「陛下は寂しそうですね」
「ああ、寂しい……」
「おー? 意外にも素直」
「揶揄うなら帰れ」
たまに諜報部がフレイヤの情報を持ってきたり、ジョシュアからの文を持ってくるが、そんなことより俺はジョシュアに会いたいし抱きしめたい。
もういっそ騎士団総動員して押しかけて、軍事支配してすぐに連れ帰りたいくらいだ。
報告の内容としては上手くいっている。なんでも、王都にいたジョシュアの元主治医、教師、仕立て屋も味方について、そこからどんどん味方が広がっているらしい。
ジョシュアが城で閉じ込められて育ったことが同情を誘い、そんな境遇でありながら、戦争を止めるために単身で帝国に行ったことが美談として語られた。
その美しさと覚悟を決めた強い瞳に憧れる者も多いらしい。
俺のジョシュアが遠くなってしまうようで寂しい。
兵器として育てられた過去も、塔を破壊したことも隠さず伝えていると聞いて心配していたが、ジョシュアがいれば他国が簡単に攻め入ることもなく、逃げ出した元軍部や元王族や貴族が気軽に戻って来ることもなく、頼もしいと言われているらしい。
もうそろそろ三年か? もうすぐ会えるのだろうか? とそわそわしながら待っていると、ジョシュアからの呼び出しがあった。
可能であれば王城跡地まで来てほしいと。
俺はジョシュアに会えるならと喜んで、少数の供を連れて騎馬で急いで向かった。
王城跡地は確かに跡地と呼ばれるだけあって、城は無かった。城壁も無い。
その代わりジョシュアの館の塔が修繕されて誰でも入れるようになっていた。
庭園は畑に、軍部があった場所は牧場に、城が建っていた場所は公園になっていた。周りには屋台も並んでいる。
「ヒューゴ様!」
畑で作業している者が俺を呼んだことに驚いたが、俺はその顔を見てさらに驚いた。
「ジョシュア?」
「お待ちしておりました」
ジョシュアは清浄魔法で土などの汚れを綺麗にすると、駆け寄ってきて俺にギュッと抱きついた。
「ヒューゴ様、会いたかったです」
「うん。俺も会いたかった」
「一緒に塔からの景色を見ませんか?」
「見よう」
ジョシュアは塔から王都の景色を眺めるのが好きだったと聞いている。
その景色を見せてもらえるのか。
ジョシュアに手を引かれて長い階段を上がっていくと、頂上に辿り着き、心地よい風が吹き抜けた。
ピピ、ミンナタチアガロウ
鳥が一羽飛んできて、ジョシュアの肩にとまった。なるほど、この綺麗な鳥がジョシュアの友達か。
『国民の皆さん、私はフェデーリ帝国皇帝のヒューゴ様と結婚します。これよりこの国は帝国となります。新しい出発を祝いましょう!』
「ヒューゴ様、お待たせしました。お城に帰りましょう」
「そうだな」
「あ、その前に」
「なんだ?」
「キスしてください」
「ははは、俺もちょうどジョシュアとキスしたいと思っていたところだ」
重なる唇、柔らかい感触とジョシュアの温度と匂いが久しぶりすぎて俺はドキドキした。
甘くて切なくて愛しくて思考が溶けていく。
「ジョシュア、愛してる」
「ヒューゴ様、私も愛しています」
塔を下りていくと女神コールと、おめでとうの声、拍手が沸き起こっていた。
ピピ、ジョシュアアイシテル
「それは俺のセリフだ。お前が言うな」
ジョシュアの肩に乗った鳥が、ジョシュアアイシテルと何度も言うので腹が立ってきた。ちょっと怒ると、鳥は空に飛び立った。俺たちの頭上を旋回しながら、また何度もジョシュアアイシテルと言っている。
「ジョシュア、あの鳥、なんとかならないか? 俺のセリフをずっと真似ていて恥ずかしくなってきたんだが」
「ふふふ、ペルは真似をするのが好きなんですよ」
ピピ、ジョシュアトキスシタイ
「こら、それはダメだ!」
俺が鳥に向かって叫ぶと、どっと笑いが起きて、余計恥ずかしくなった。鳥はきっと意味なんて分からず言っているのだから放っておけばいいのに……
「大丈夫ですよ。私がキスするのはヒューゴ様だけです」
そう言って微笑んだジョシュアはやっぱり女神で、兵器などではなく救国の女神となった。
(終)
こちらで本編は完結です。最後までお読みいただきありがとうございましたm(__)m
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