上 下
10 / 11

10.ほわほわ

しおりを挟む
 
「おはよう、ササ」
「……うん、おはよう」

 「好きにする」と言われて、結局どうするのかタツミに聞けないまま1週間が過ぎた。
 もうタツミは迎えに来ないのかと思ったけど、普通に迎えに来た。今日も弁当あんのかな、僕の分。気になったけど、まるで僕がタツミの弁当を楽しみにしてるみたいで聞けなかった。

 そわそわしながら午前中の授業を受けると、廊下の喧騒が一気に引いて、もしや……と思ったら、いつもと変わらない様子でタツミは教室に来た。
 なんかホッとしてる自分にモヤモヤしたけど、この前みたいに、どうしようもないほどイライラすることはなかった。
 本当に、僕は何がしたいんだろう?

「今日も弁当ありがとう」

 弁当の蓋を開けると、僕が好きだと言ったおかずが入っていた。これがいつまで続くのかは分からない。きっとタツミの気まぐれで始まって、気まぐれで終わってしまうんだろう。

「ああ。今日はササが好きだと言ってくれた紫蘇を巻いたトンカツを入れてみた」
「うん。僕これ好き」
「それだけ?」
「ん? このチーズが入った卵焼きも好き」
「それだけ?」
「なんだよタツミ、何が言いたいんだよ」

 なんでそんな質問をしてきたのか分からなかった。何か聞きたいんだろうことは分かったけど、それが何なのかは分からなかった。

「ササはさ、俺のことどう思ってんの?」
「は?」
「弁当作ってくれる奴?」
「いや、それもあるけど」
「なんでササは一緒に弁当食ってくれるんだ?」
「え? なんでって……」

 なんでだろう? 一緒に食いたいから? だとしたら、それはなぜだ?
 それに、なんでそんなこと聞くんだ?

「悪い。何でもない。俺は顔が怖いから、みんなから避けられる。ササが一緒に弁当食ってくれるだけで嬉しいよ」

 そうなのか。タツミは僕と弁当食うの嬉しいんだ。タツミはこんなにいい奴なのにな。
 何で顔だけで避けられるんだろうな? ……ん? 顔だけ?
 僕はタツミが喧嘩してるところを見たことがない。僕を簡単に担ぎ上げるくらい力が強いことは知ってるけど、周りの噂もあって強いと思い込んでた。もしかして違うのか?

「タツミって喧嘩強いの?」
「分からない」
「何でだよ」
「俺、喧嘩したことないんだ」
「は? マジかよ。顔だけで勝ってるってこと?」
「さぁ、知らない」

 そんなことあんのか? 確かにタツミと目が合っただけで背筋が凍りそうになる。もう僕は慣れたけど。

「喧嘩はしないけど鍛えてんのか? 力は強いよな?」
「鍛えてはいないけど、たまに土木のバイトしてるから力はあると思う」
「なるほど」

 喧嘩で付けた筋肉じゃねぇのかよ。まさかのバイト? 真面目じゃん。
 ん? ということは、タツミは喧嘩もしたことないのに、僕のこと守ろうとしたの?
 本当にこいつはムカつく。そしてめちゃくちゃ嬉しいかもしれない。
 体の奥からほわほわと謎の気持ちが広がって、顔が熱くなった。何だこの気持ちは?

 
「週末、うちくる?」
 タツミに唐突にそんなことを聞かれてビクッとした。

「え? なんで?」
「休みの日の昼飯、ササどうしてんのか気になってたから」
「ああ、そういうことか」

 僕はなんかガッカリしたし、ちょっと腹が立った。だからムッとした顔をしたんだと思う。

「なんか気に障ったか? 休みの日まで詮索してすまん」
「そうじゃない。行く。タツミの飯は美味いし」
「そう言ってもらえると作り甲斐がある」

 そうだ。僕はタツミの飯が好きなんだ。別に会いたいから行くわけじゃねぇし。
 会いたいってなんだよ。そんなわけねぇじゃん。

「休みの日もササに会えるのは嬉しい」

 タツミが急にそんなこと言うから焦った。なんでか急に心臓がドキドキして、緊張している自分がいて意味が分からない。

 ヒィッ

 何気なくおろしたタツミの手が僕の手に当たって、僕は変な声を出した。

「キ、キョウシツ、モドル」
 変なカタコトだけ残して、空の弁当箱をタツミに押し付けると、僕は走って逃げた。
 絶対変に思われた。もう何なんだよ。

「ササ、何慌ててんだ? 次の授業移動じゃねぇぞ」
「あ、ああ……」

「どうした? 顔が真っ赤だぞ? 旦那にキスでもされたか?」
「き、キスなんかされてないし! 旦那じゃねぇし!」

 キス……
 何だこの胸のざわつきとドキドキが止まらない感じは。
 イライラとも違うし。熱でも出たか?

 この意味不明なドキドキと、少しの息苦しさは次の日も続いた。熱を測ってみたけど平熱だったから、風邪ってわけではないみたいだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

森永くんはダース伯爵家の令息として甘々に転生する

梅春
BL
高校生の森永拓斗、江崎大翔、明治柊人は仲良し三人組。 拓斗はふたりを親友だと思っているが、完璧な大翔と柊人に憧れを抱いていた。 ある朝、目覚めると拓斗は異世界に転生していた。 そして、付き人として柊人が、フィアンセとして大翔が現れる。 戸惑いながら、甘々な生活をはじめる拓斗だが、そんな世界でも悩みは出てきて・・・

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...