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7.手作り弁当
しおりを挟む翌日もタツミは僕の家まで迎えにきた。
懲りもせず毎日よくやるものだ。家が近所なわけでもないのに。
「ササ、今日は昼は何も買わなくていいからな」
「ん?」
「弁当を作ってきた」
「マジかよ。もしかしてまたタコさんウインナーか?」
「いや、すまん。もう子供じゃないと怒っていたから嫌だったのかと……次はちゃんと入れてくる」
ちょっと待て、そんな言い方をされたら、僕がタコさんウインナーが無くて、拗ねてる子供みたいじゃないか。期待してたわけじゃないからな。
「別に。……ん? 次って言った?」
「ああ、言った」
「今日だけじゃなくまた作ってくる気か?」
「口に合わなかったら、ササの口に合うよう努力する」
なんでそこまでするんだ?
クラスの奴に「気に入られてんじゃん」と言われた言葉を思い出した。
僕、マジでタツミに気に入られてんのかな? 気に入られる要素なんかあったっけ? そう思ってタツミの横顔を盗み見たら、やっぱり眼光は鋭く進行方向を睨みつけていて、僕は無い無いと首を振った。
昼休みになってザワザワと煩い廊下が、急にシンと静まり返った。クラスの奴らも誰もが口を閉じた。
これはもしやと思ってドアの方を向くと、タツミがいた。やっぱりか。
泣く子も黙る辰巳将生。なるほどな。
「ササ、行くぞ」
こんな怖い顔面で、弁当が入っているであろう袋を、片手に持っているのがちょっとシュールで笑える。
でも、ここで笑いそうになっているのは僕だけだ。
決してタツミと目が合わないようにと、目を逸らすクラスの奴らを傍目に、僕はタツミと一緒に中庭に向かった。
歩いていると道ができる。誰にも邪魔されずに、スイスイと進んで行けるのは楽でいいな。
「これ。口に合うといいんだが」
なんで口調は自信なさそうなのに、そんな睨みつけながら言ってくるんだよ。だいぶ慣れてきたけど、その鋭い視線を間近で見た僕は、背中がゾクっと震えた。
「ありがとう」
タツミから受け取った弁当の包みを開けてみると、二段になっていた。片方はおかずで、唐揚げと卵焼きときんぴら? とブロッコリーとミニトマトが入っていた。
普通に美味そうな弁当だ。
もう片方を開けて、僕は一瞬でそれを閉じた。見てはいけないものを見た気がしたからだ。もしかしたら目の錯覚か、勘違いという可能性もある。
これタツミが作ったんだよな?
いや、タツミの母親かもしれな……それは無いんだった。タツミの両親は田舎にいるとか、たまに兄が帰ってくるだけと言っていた気がする。
だとするとやはりこれを作ったのはタツミ……なんだよな?
「どうした? ササ、もしかして気に入らなかったか?」
「いや、少し驚いただけだ」
もう一度覚悟を決めて蓋を開けてみると、さっきのは見間違いではなかった。
これは、熊だな。花畑に熊がいる。
ハムやら野菜が、花の形になったものが散りばめられていて、真ん中には可愛らしい熊だ。
これは世間で言うキャラ弁というやつか? 女子がたまに自慢しているやつか?
僕、タツミに女だと思われてる? そんなわけないか。風呂で見られているしな。
誰かに見られたら非常に恥ずかしい弁当を、僕は無言で食べ進めた。
味は、本当に美味かった。
「タツミ、美味い。ありがとう」
「そうか。よかった」
「それで、この可愛い弁当はタツミの趣味なのか? 毎日こんな弁当を学校で食ってんのか?」
それは単純に興味だ。教室でこんな可愛い弁当をタツミが広げていたら、きっと話題になる。色んな意味で。
「いや、俺の弁当はそんなことはしていない。ほら」
ほらっと見せられた、タツミが食っている弁当は、おかずは同じだがご飯は白飯だった。僕もそれでいいんだけど。
「僕のだけなんであんなやつにしたんだ?」
「ササが喜ぶかと思って」
「そうか……僕も普通の白飯がいい」
「そうなのか。分かった。可愛いのは好きじゃないんだな」
なぜ可愛いものが好きだと思われてるんだ? そんな話はしたことがないはずだ。僕は可愛いものなんか好きじゃない。むしろ可愛いものが好きなのはタツミなんじゃないか? ハート柄のトランクスも持っていたし。いや、まさかな。それは無いか。
なんてことない普通の昼休みだった。ただタツミと弁当を食っただけ。そう思っていたのは僕だけだったらしい。
その日から僕はタツミのお気に入りだと校内に知れ渡った。
「すまない。俺のせいで。あと1週間だけ俺と一緒にいてほしい」
「別にタツミが気にすることねぇよ」
「ササは優しいな」
「んなことよりあと1週間てのは何なんだ?」
「あと1週間は痛いと言っていたから」
僕の怪我のことだよな? なんでタツミがそんなことを気にするんだ?
分からん。
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