3 / 11
3.ヒールなのかヒーローなのか
しおりを挟む「タツミ、家に誰もいないのか? 親とか」
「いない。たまに兄貴が帰ってくるが、両親は田舎暮らしをしたいとか言って地方に引っ越したからな」
「そうか」
「ササの親は? 外泊して大丈夫だったか?」
「大丈夫だ。僕が帰宅してないことにも気付いてないだろうな。2人ともほとんど家にいないし、帰っても顔を合わせることもない。もう何ヶ月も見ていない」
「そうなのか。じゃあまた泊まりにこいよ」
「は?」
抱かれに来いとでも言うのか? ふざけんなよ。僕はまだやられてないと信じたいんだ。お前のものになったつもりはない。グッと拳を握り締めたら、ダサいハート柄のトランクスが目に入った。何度見てもこれはヤバい。こいつどんな趣味してんだよ。
「僕の服は?」
「まだ乾いてない。夜に洗濯したんだがまだ半乾きだ。服を貸そう」
「濡れたままでいい。自分の服で帰る」
「そうか」
朝食を食べ終わると、僕はタツミが持ってきた半乾きだと言っていた自分の服に着替えた。泥や血がついていたはずの制服のシャツは綺麗になっていたし、本当に洗濯したみたいだ。破れているのは仕方ない。しかしいつだ? 僕がベッドに運ばれた後か?
服なんか借りたら、返しに来る必要がある。できればもう会いたくはない。多少冷たくても家に帰るまでの辛抱だ。どうせ昨日だって雨に濡れたんだから大したことじゃない。
「送ってくよ」
「1人で帰れる」
玄関までついて来たタツミを片手で制した。チラッと目が合ったが慌てて逸らす。そんな睨むなよ。
送るということは、家バレすんじゃねえか。怖すぎんだろ。体は全身が痛いが、帰れないほどじゃない。
そして僕は最後に、こいつにどうしても確認しなければならないことがある。僕は自分の靴の先を眺めて、ふぅーっと息を吐いて気持ちを落ち着かせると、タツミの顔を見た。
「タツミ、一つだけ確認していいか?」
「何だ?」
「夜……」
「夜?」
「僕のこと、抱いた?」
「は? ササ、お前大丈夫か? 抱いてほしかったのか? もしかして、俺に惚れてんのか?」
なぜか少し頬を染めながらタツミがそんなこと言うから、僕は戸惑った。抱いてねえのか?
僕、無事なの? よかった~。だとしたら何のために僕を家に連れてきて風呂に入れて傷の手当てまでして、食事も作って、何が目的だ?
「惚れてないし抱かれたくもないが、僕のこと犯すために家に連れてきたのかと……。目的は何だ?」
「なんだ。惚れてないのか。可愛い子が雨に濡れて怪我をしていたら助けるだろ」
「それだけ?」
「一緒のベッドで寝たりしたから、そんなことを考えたのか。すまん。寝ている時に許可なく触ったりしてないから」
「そ、そうか。タツミ、お前ただのいい奴なの?」
「別にいい奴なんかじゃ……。ササのことは助けたいと思った。ただそれだけだ」
「そっか。ありがとう。じゃあな」
なんだ。最悪な奴かと思っていたが、タツミはいい奴だったのか。やってないなら早く聞けばよかった。
一気に気分が上がると、玄関のドアを勢いよく開けた。体は痛いが、僕の心は始まったばかりの夏の青い空のように晴れている。このまま踊り出したいほどにすっきりとした気分だ。
くっ……歩き始めると途端に骨に響くような痛みが襲いかかってきた。気分は上がっても、痛みはどうにもならないか。今絡まれたらヤバイな。
自分の中で余計なフラグを立ててしまったところでそれは起きた。
「よぅササ。絶好の喧嘩日和だな。この前の借りはきっちり返してもらうぜ」
「クソッ」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ、血走った目をしていた奴が僕の行手を阻んだ。こんな朝早くからご苦労なこった。早起きなんかして真面目かよ!
心の中で悪態をついていると、急に闘争本能剥き出しの男の顔から血の気が引いて、オドオドし出した。
「ま、まぁ、喧嘩日和だが、朝はやめておこう」
「は?」
そう言い残すと男は逃げるように去っていった。何なんだ? 喧嘩しねえのかよ。僕は助かったけどさ。
相手の意味の分からない行動に、ふと後ろを振り向くと、そこにはタツミが居た。
「なっ! お前、僕のことつけてきたのか?」
「心配、だったから。それに、駅までの道、分からないかと思って」
もしかしてさっきの奴、タツミの顔見てビビって逃げたのか? 呆れた。こいつこんな何人か人殺したような顔面凶器のくせに、何の見返りもなく僕のこと助けるようなお人好しだぜ?
しかも心配とか、過保護過ぎんだろ。
道なんかマップアプリで調べりゃ分かるし。
「じゃあ駅まで送って」
「分かった」
タツミは隣に並んで歩き出した。体が痛くてゆっくりしか歩けない僕の歩幅に合わせてゆっくり歩いたりなんかして、何を考えているのか分からない。
会話は無かった。こいつとの共通点なんか無いしな。微妙に気まずいまま、僕は送られることになった。
57
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。
にゃーつ
BL
真っ白な病室。
まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。
4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。
国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。
看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。
だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。
研修医×病弱な大病院の息子
夏の扉を開けるとき
萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」
アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。
僕の心はきみには見えない――。
やっと通じ合えたと思ったのに――。
思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。
不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。
夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。
アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。
*****
コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。
注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。
(番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる