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2.朝ごはん

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 はっ!
 まさか寝ている間に犯されたか?
 カーテンの隙間から差し込む光で朝が来たのだと分かった。
 一気に血の気が引いて、着衣を確認したが、とりあえずダサいトランクスは穿いていたし、Tシャツも着ていた。しかし終わった後で着せられた可能性もある。
 聞いてみるか? 何て聞くんだよ……
 恐る恐る自分の尻に手を伸ばす。分からん。自分で指なんか突っ込めないし、とりあえず、痛くはない。
 はぁー

「起きたか?」

 その声にビクッと反応してしまったのは仕方ないことだと思う。

「お前……誰だよ」

 聞けなかった。

「あぁ、俺は辰巳将生。君は?」
「……僕は佐々実乃里」
「ササ、ミノリ……名前も可愛いな。怪我はどうだ? 骨が折れているなら病院連れて行くが」
「いい」

 何を考えている? 多少の罪悪感があるのか?
 それよりのかのかを教えてくれ。

「そうか。家近かったし、雨に濡れてたからとりあえず家に連れてきたけど、ササの家どこ? まだ体痛いだろ? 送ってく」
「いい」

「そうか。じゃあ朝飯食ってくだろ? 今作るから待ってて」
「は? あ、まっ……」

 さっと起きてタツミとかいう奴は僕が待てと言う前に部屋を出て行った。
 調子狂う。朝食か……
 そんなもん食ったのはいつが最後だったか。
 朝飯なんて用意されていたことはない。ただ台所の机の上に毎朝千円が置かれているだけだ。

 購買で早めにパンを買って朝飯代わりにしたり、コンビニに寄って買ったり、そんなことはあったが、それだけ。

 それよりあいつの名前、タツミマサキ……どこかで聞いたことがある名前な気がしたが、気のせいかもしれない。

 はぁ、痛ってぇな。
 折れてんのかな? 腫れてねーから大丈夫か。
 打ち身、捻挫、切傷ってところか。動くのも怠い。
 学校、行きたくねぇな。
 ゴロリと横になったまま見慣れない天井を眺めて溜息をついた。

「ササ、ご飯できたぞ」

 本当に作ったのかよ。

「痛っ」
「ほら、肩を掴め」

 何なんだこいつは。僕を背負っていくつもりか? 僕の前にしゃがんだ奴の背中を眺めた。もしや一度抱いて情でも湧いたのか? 考えたくない。
 まだ僕は無事だと信じたい。
 仕方なく奴の肩を掴んで立ち上がると、グイッと強引に僕は奴に背負われた。
 身体中が痛くて全然力が入らず、残念だが僕は奴に背負われることになった。

 椅子に下ろされてテーブルの上を見ると、トーストと目玉焼きとタコさんウインナーが皿に乗せられていて、野菜が入ったスープも隣に置かれていた。

「ぶはっ」

 こいつこの凶悪な顔でタコさんウインナー作ったのか? ヤベぇな。僕は思わず吹き出してしまった。

「何だ?」
「いや、これ、お前が作ったの?」
「お前じゃない。タツミマサキだ。さっき名乗ったろ?」

 ムッとした顔でそんなことを言われてもな。

「タツミ、タコ作ったのか?」
「あぁ。ウインナーと言えばタコだろ?」

 えぇー? そうなのか? 子供の弁当に入れるイメージではあるが、実際に食べるのは初めてかもしれない。友達の弁当に入っているのを何度か見たことはあるが、僕の弁当に入っていたことはない。

「僕はもう子供じゃない」
「そうか」

 睨むなよ。不満なのかよ。しかし衝撃的だな。まさかタコさんウインナーをこんな初対面のやつに作ってもらうなんて。
 別に味は普通だ。だが、少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しいような気もしている。

 
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