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6(真面目くん視点)

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「桐崎くん」
「なんだ? お前、俺なんかに話しかけんなよ。先生に見つかったら怒られるぞ」
「そんなのいい。この前のお礼がしたい」
「は? そんなのはいい」

 断られた。でも僕はめげない。きっと桐崎くんの役に立つ提案ができる。
 僕みたいに大人の言いなりで格好悪い奴は嫌いかもしれないけどさ、追試って受からないと大変だよね?

「桐崎くんその、追試の手伝いってことでどうかな?」
「は? 別に要らねーし」

 断られた。でもきっと困ってるはず。勝手にそう決めて、僕は諦めなかった。

「苦手な教科だけでもさ。手伝いさせてよ。数学とかどう? 英語のがいい? 僕は全部がいいんだけど」
「…………」
「家行っていい? 今日がダメなら明日でもいいし」
「しつこいな」
「お願いだよ、お礼しないと気が済まない」

 ほんとうはただ一緒にいたいだけ。それは今は言わないドン引きされるとか、そのまま逃げられたりすると思うし。

「もう、分かったから」

 そして僕は桐崎くんの家に行けることになった。
 呆れた顔でため息ついているけど、それでもいい。ここから挽回していけばいいんだ。
 でも桐崎くんはある提案をしてきた。
 一緒には帰らないし、学校では話しかけるなって。

「なんで?」
「お前のような真面目な奴が、俺と一緒にいるとこ見られるとかマズイだろ」
「僕は気にしないよ」
「俺が気にする。嫌なら家に来る話も無しだ」
「分かった。桐崎くんの提案に従う」

 桐崎くんが僕のこと気遣ってくれてるのは分かる。
 でもまだ、僕たちの距離は遠いらしい。


 二度目の家。最高だ。正気だから余計最高。桐崎くんの香りがするこの部屋の空気は、どんなアロマよりいい香り。
 こっそり部屋の写真を撮った。

「なんか飲むか?」
「僕なんかは何にも望みません。どうしてもと言うなら水道水でいいです。」
「ふはっ、なんだよそれ」

 あ、桐崎くんが笑ってる。笑うと印象違う。ちょっと幼く見えて、すごく可愛い。

「リンゴジュースあったけどアレルギーとかじゃないならそれでいいか?」
「いいけど、ほんと、僕なんかに気を遣わないでいいんだよ」
「俺が飲みてぇんだよ」
「そっか。それなら、桐崎くんの意思に従います」
「お前変な奴だな」

 変でもいい。嫌われてないならそれでいい。だって僕らはセックスした仲なんだから。
 しかも何度も。

「おい、お前鼻血でてんぞ」

 おっと、想像してしまったらつい。

「気にしないで平気だし」
「本当かよ、平気ならいいけどさ」

 こうして僕は毎日桐崎くんの家に上がり込んだ。
 きっと少しは気を許してくれてるんだと思う。

「今日も来るのか?」
「もちろん行く」
「そうか」

 今日も僕は桐崎くんの部屋に入ると、その空気を胸いっぱいに吸い込んだ。幸せだ。

「ねえ、桐崎くんってどんな人が好きなの?」
「は? 好きな奴? んー強い奴」

 ガーンそれ、一番遠い。僕は強さで言ったら最弱なんじゃないかと思う。
 でも負けない。強くなってやる。
 と、その前に追試の勉強だ。

 ショックだった。強い奴って僕から一番遠い。
 今から鍛えて間に合う? 強くなったら、追試の勉強が終わっても、友達でいられるかもしれない。これで終わりにしたくない。

 
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