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ヴィー
回想4
しおりを挟む私は8年前、13歳の時にこの王都に1年留学していた。
その当時はまだ華奢な体だったし髪も長かったためよく女の子に間違われていた。
街で路地裏に引き込まれて襲われそうになったところを、たまたま王都を訪れていたアルマ様が助けてくれた。
それでもとても怖くて震えていた私に、アルマ様が屋台で串に刺さったマシュマロを買ってくれた。
その味は今でも覚えている。忘れることなどない。
それから私はアルマ様に近づきたいという一心で鍛えた。ハンターギルドに登録して、強そうな人たちに仲間にしてくれと頼み込んでハンターの仕事もするようになった。
外見も、長かった髪は両サイドを刈り上げて、前髪を上げて男らしく見えるようにした。
留学期間を終えてコスタ王国に帰ると、両親に髪のことを怒られたが、私は髪を再び伸ばすことはなかった。
そして学園を卒業すると、またフォンテ王国の王都に戻ることにした。その頃、フォンテ王国とその向こうの帝国との間で戦争が始まってしまったため、両親には行くことを反対されたが、私はその反対を押し切ってこの国に来た。訓練を重ねながらハンターとして腕を磨き、王都でも名の知れたパーティーになっていた。
その中でアルマ様が戦争に行っていることを知った。
しかし、三男とは言え他国の貴族である私が戦場に行くことはできず、毎日アルマ様の無事を祈った。
そしてようやく戦争は終わり、アルマ様はかなりの活躍をしたとかで、救国の英雄として華々しく凱旋を飾った。
もちろん私もその凱旋を見に行った。
しかし、アルマ様はかなり疲れた顔をしていて心配だった。
アルマ様にはこれからの人生は穏やかに暮らしてほしい。
何か自分できることはないだろうか? と考えたが、私にできることは何も思い浮かばなかった。
できれば従者として側に仕えたいとも思ったが、それをアルマ様が望んでいるかは分からなかったし、私のような戦闘要員を側に置けばまた戦争に駆り出されることになるのではないかと思うと、何もできることが思い浮かばなかった。
執事とか、今から勉強して間に合うんだろうか? どこかの貴族の家に仕えて一人立ちできるようになるまでどれくらいの月日がかかるのか分からない。戦闘強化などせずにそっちを磨けばよかったのではないかと少し後悔した。
そんな時に、アルマ様が嫁を探しているという話を聞いた。しかも今のところ全敗しているとか。
嫁。私が嫁になるというのはどうだろう? 領地経営なら少しは手伝える。マナーも国が違うから完璧ではないかもしれないができる。戦争で疲れたアルマ様を癒して差し上げたい。
自分でも気付いていた。私がアルマ様に抱く感情は、男としての理想像としての憧れではなく、恋なのだということは。
本当に私でいいのか? 迷いはあったが、例え無理だとしても何かしらの役に立ちたいと思った私は、ハンターのパーティーに抜けることを告げて実家に帰った。
「父上、私は嫁ぎたいと思います」
「は? 婿入りではなく?」
「はい」
「それで相手は?」
「隣国であるフォンテ王国のメテオリーテ辺境伯家の当主であるアルマ様です」
「なるほど。それで?」
「嫁を探しているとの噂があり、父上に私を嫁に出したいと手紙を認めていただきたいのです」
「ほう。わしらの反対も聞かず好き勝手に他国でハンターなどをやっておると思ったら、今度は他国の貴族の嫁か。お前の頭の中はどうなっているんだ?」
「父上にとっても、我が国コスタ王国にとっても悪い話ではないでしょう?」
「上手くいけばな。戦闘はいい、マナーや領地経営や社交などを学び直したら許可してやろう」
「ありがとうございます!」
私は1年ほど、貴族の嫁となるべくマナーや所作などをしっかり叩き込み、ようやく父上の許可が出て手紙を書いてもらえることになった。
まだアルマ様の嫁が決まっていませんように。
いや、別に正室でなくてもいい。私は男だし、側室でもいい。側で支えられるならそれでいい。
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