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しおりを挟む僕は今でも学校ではライくんを目で追っている。前みたいに憧れと尊敬の気持ちで見ているわけじゃない。
弱者を蹂躙することで快楽を得る嫌な奴なのか、それとも知らないお婆ちゃんを助けてあげるような優しい奴なのか、本当のライくんを知りたい。
学校では素っ気ないし、僕を視界に入れないようにしているみたいだ。
そりゃあ当然だ。ハイエナ人族と仲良くしているなんて醜聞だから。分かってる。僕はライくんのただの性欲処理。というか、憂さ晴らしの相手なんだ。
ある日、タヌキ人族のモラールくんのペンを見つけて机に置いてあげたら、運悪く見つかってしまった。
「やっぱりお前だったか。俺のペン盗みやがってハイエナって奴は本当に!」
「フェアトだと思ったぜ。モラールよかったな、見つかって」
「盗まれてたんなら見つかんねーわけだ」
盗んでない。僕は盗んだりしない。美術室に置き忘れているのを僕が見つけただけだ。
鹿人族のタイトくんが部活の先輩に呼ばれたとかで当番を代わってあげて、美術室の片付けをしていて見つけただけだ。
なんでハイエナ人族ってだけでそんなに疑われなきゃいけないの?
「違……」
「ハイエナが犯人だってよー!」
僕が違うって言おうとしたのに、それに被せるように大声でみんなの前で叫ばれた。
あぁやっぱりハイエナか、そんなみんなからの視線を感じる。どうしてこうなってしまうのか……
「お前さ、本当に盗まれたと思ってんのか?」
その声に振り向くと、ライくんがモラールくんに詰め寄っていた。まさかライくんは僕に味方してくれるの?
「あ、ど、どうかな、落としただけかも……」
モラールくんはしどろもどろになりながら答えた。黒豹という肉食獣に睨まれて小さい耳がペッタリと垂れてしまっている。
「お前が美術室に置き忘れてんのをフェアトが見つけただけだ」
え? なんでライくんがそんなこと知ってるの?
「あ、そ、そうかも」
「はぁ? そうかもじゃねーだろ、こんだけの騒ぎ引き起こしてみんなの前でフェアトを貶めたんだぞ?」
モラールくんに詰め寄っていくライくんを、僕はじっと見つめていた。
「ご、ごめん、フェアトくん、見つけてくれてありがとう」
モラールくんが僕に謝ってくれた。誰も話を聞いてくれなかったし、勝手に盗んだって決めつけてたのに、ライくんの言うことなら聞くんだ……
「お前らもだぞ、フェアトが盗んだと決めつけた奴、お前とお前とお前。見たのか? フェアトがタヌキの荷物を漁るのを、そこから持ち出すのを、どうなんだ、言え!」
さすが強者の威圧はすごい。僕には向けられていないのに背筋がゾクゾク震えた。
「ご、ご、ごめんなさい、見てないです」
「フェアトごめん」
みんなが僕に謝ってくれた。
「他のハイエナ人族は知らねえが、こいつは誰の物も盗ったことなんかねえよ。一度もな」
ライくんは僕の何を知ってるのか分からないけど、僕のことをそんな風に言ってくれた。
「俺も知ってる、俺、フェアトくんによく助けてもらうし、そんなことする奴じゃない」
亀人族のヘルツくんがそんなことを言った。僕がこっそりこっそりやってたのバレてたの?
「あたしもハイエナくんに助けてもらったことある。種族の特性って絶対じゃないし」
うさぎ人族のアンビさんもそんなことを言った。人参が苦手な彼女は種族の特性が絶対じゃないことを身をもって知っている。
「私も助けてもらったことある!」
リス人族のユーバーさんも同意してくれた。なんかみんなにバレてたのかと思うと恥ずかしい。
「フェアト、さっき美術室の片付け当番代わってくれてありがとな!」
そんなタイミングで鹿人族のタイトくんが教室に戻ってきた。
なぜか誇らしげなライくん。なんで?
僕の疑いが晴れるきっかけを作ってくれたのはライくんで、ライくんは僕は盗んだことなんてないって言ってくれた。
後でお礼を言わなきゃ。
本当にライくんは格好いい。
そしてライくんは、好きでもない僕で憂さ晴らしをするけど、いい奴なんだって分かった。
いい奴なライくんに蹂躙したいと思わせるなんて、僕は何をしてしまったんだろう?
なんで庇ってくれたんだろう?
「俺の彼氏を貶める奴がいたら容赦しねえからな」
僕はライくんの言葉に驚いてしまった。
ライくんの彼氏発言に周りがザワザワと煩くなった。
「フェアト逃げるぞ!」
「あ、うん」
ライくんに手を引かれて僕は教室から逃げることになった。逃げてどこにいくんだろう? それよりさっきの話……
ライくんは足が速くて、僕は足をもつれさせて転びそうになった。
「ははは、みんなの顔、面白かったな」
ライくんは笑いながらそんなことをいった。
僕はまだ話をできるような状態にない。僕だってクラスの中では足が速い方だけど、やっぱり全然敵わないな。
それより聞きたいことがある。
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