【短編】ハイエナくんは実は

cyan

文字の大きさ
上 下
4 / 6

4.

しおりを挟む
  


 僕は今でも学校ではライくんを目で追っている。前みたいに憧れと尊敬の気持ちで見ているわけじゃない。
 弱者を蹂躙することで快楽を得る嫌な奴なのか、それとも知らないお婆ちゃんを助けてあげるような優しい奴なのか、本当のライくんを知りたい。

 学校では素っ気ないし、僕を視界に入れないようにしているみたいだ。
 そりゃあ当然だ。ハイエナ人族と仲良くしているなんて醜聞だから。分かってる。僕はライくんのただの性欲処理。というか、憂さ晴らしの相手なんだ。

 ある日、タヌキ人族のモラールくんのペンを見つけて机に置いてあげたら、運悪く見つかってしまった。
「やっぱりお前だったか。俺のペン盗みやがってハイエナって奴は本当に!」
「フェアトだと思ったぜ。モラールよかったな、見つかって」
「盗まれてたんなら見つかんねーわけだ」

 盗んでない。僕は盗んだりしない。美術室に置き忘れているのを僕が見つけただけだ。
 鹿人族のタイトくんが部活の先輩に呼ばれたとかで当番を代わってあげて、美術室の片付けをしていて見つけただけだ。
 なんでハイエナ人族ってだけでそんなに疑われなきゃいけないの?

「違……」
「ハイエナが犯人だってよー!」
 僕が違うって言おうとしたのに、それに被せるように大声でみんなの前で叫ばれた。
 あぁやっぱりハイエナか、そんなみんなからの視線を感じる。どうしてこうなってしまうのか……

「お前さ、本当に盗まれたと思ってんのか?」
 その声に振り向くと、ライくんがモラールくんに詰め寄っていた。まさかライくんは僕に味方してくれるの?

「あ、ど、どうかな、落としただけかも……」
 モラールくんはしどろもどろになりながら答えた。黒豹という肉食獣に睨まれて小さい耳がペッタリと垂れてしまっている。

「お前が美術室に置き忘れてんのをフェアトが見つけただけだ」
 え? なんでライくんがそんなこと知ってるの?
「あ、そ、そうかも」
「はぁ? そうかもじゃねーだろ、こんだけの騒ぎ引き起こしてみんなの前でフェアトを貶めたんだぞ?」
 モラールくんに詰め寄っていくライくんを、僕はじっと見つめていた。

「ご、ごめん、フェアトくん、見つけてくれてありがとう」
 モラールくんが僕に謝ってくれた。誰も話を聞いてくれなかったし、勝手に盗んだって決めつけてたのに、ライくんの言うことなら聞くんだ……

「お前らもだぞ、フェアトが盗んだと決めつけた奴、お前とお前とお前。見たのか? フェアトがタヌキの荷物を漁るのを、そこから持ち出すのを、どうなんだ、言え!」
 さすが強者の威圧はすごい。僕には向けられていないのに背筋がゾクゾク震えた。

「ご、ご、ごめんなさい、見てないです」
「フェアトごめん」
 みんなが僕に謝ってくれた。

「他のハイエナ人族は知らねえが、こいつは誰の物も盗ったことなんかねえよ。一度もな」
 ライくんは僕の何を知ってるのか分からないけど、僕のことをそんな風に言ってくれた。

「俺も知ってる、俺、フェアトくんによく助けてもらうし、そんなことする奴じゃない」
 亀人族のヘルツくんがそんなことを言った。僕がこっそりこっそりやってたのバレてたの?

「あたしもハイエナくんに助けてもらったことある。種族の特性って絶対じゃないし」
 うさぎ人族のアンビさんもそんなことを言った。人参が苦手な彼女は種族の特性が絶対じゃないことを身をもって知っている。

「私も助けてもらったことある!」
 リス人族のユーバーさんも同意してくれた。なんかみんなにバレてたのかと思うと恥ずかしい。

「フェアト、さっき美術室の片付け当番代わってくれてありがとな!」
 そんなタイミングで鹿人族のタイトくんが教室に戻ってきた。

 なぜか誇らしげなライくん。なんで?
 僕の疑いが晴れるきっかけを作ってくれたのはライくんで、ライくんは僕は盗んだことなんてないって言ってくれた。
 後でお礼を言わなきゃ。

 本当にライくんは格好いい。
 そしてライくんは、好きでもない僕で憂さ晴らしをするけど、いい奴なんだって分かった。

 いい奴なライくんに蹂躙したいと思わせるなんて、僕は何をしてしまったんだろう?
 なんで庇ってくれたんだろう?

「俺の彼氏を貶める奴がいたら容赦しねえからな」
 僕はライくんの言葉に驚いてしまった。
 ライくんの彼氏発言に周りがザワザワと煩くなった。

「フェアト逃げるぞ!」
「あ、うん」
 ライくんに手を引かれて僕は教室から逃げることになった。逃げてどこにいくんだろう? それよりさっきの話……
 ライくんは足が速くて、僕は足をもつれさせて転びそうになった。

「ははは、みんなの顔、面白かったな」
 ライくんは笑いながらそんなことをいった。
 僕はまだ話をできるような状態にない。僕だってクラスの中では足が速い方だけど、やっぱり全然敵わないな。
 それより聞きたいことがある。

  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前だけが俺の運命の番

水無瀬雨音
BL
孤児の俺ヴェルトリーはオメガだが、ベータのふりをして、宿屋で働かせてもらっている。それなりに充実した毎日を過ごしていたとき、狼の獣人のアルファ、リュカが現れた。いきなりキスしてきたリュカは、俺に「お前は俺の運命の番だ」と言ってきた。 オメガの集められる施設に行くか、リュカの屋敷に行くかの選択を迫られ、抜け出せる可能性の高いリュカの屋敷に行くことにした俺。新しい暮らしになれ、意外と優しいリュカにだんだんと惹かれて行く。 それなのにリュカが一向に番にしてくれないことに不満を抱いていたとき、彼に婚約者がいることを知り……? 『ロマンチックな恋ならば』とリンクしていますが、読まなくても支障ありません。頭を空っぽにして読んでください。 ふじょっしーのコンテストに応募しています。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

メゴ ~追いやられた神子様と下男の俺~

てんつぶ
BL
ニホンから呼び寄せられた神子様は、おかしな言葉しか喋られない。 そのせいであばら家に追いやられて俺みたいな下男1人しかつけて貰えない。 だけどいつも楽しそうな神子様に俺はどんどん惹かれていくけれど、ある日同僚に襲われてーー 日本人神子(方言)×異世界平凡下男 旧題「メゴ」 水嶋タツキ名義で主催アンソロに掲載していたものです 方言監修してもらいましたがおかしい部分はお目こぼしください。

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

処理中です...