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二章

28.結婚が具体的になった日

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 組長との話が終わり広間に集まってきた人たちは、政宗さんの家に居る人たちより年齢層が高く、年季が入っているからかめちゃくちゃ怖かった。
 ドラマとか映画とか、そんなのは俳優がやってる演技で、本物は本当に震えるほど怖い。
 凄まれたり怒鳴られたりしたわけではないが、気さくに話しかけられることも恐怖でしかない。

「兄ちゃん、あんた坊ちゃん貰うとか度胸あんな」
 そう気さくに話しかけてきた男は、手の甲にまでカラフルな刺青が入っている。さっき酒を注いでくれた男に至っては片方の小指が無かった……
「そ、そうですかね」

「遥希のこと怖がらせんなよ」
「あの坊ちゃんがヤキモチか? 大人になったなー」
「揶揄うんじゃねえ」
 本人たちは戯れているつもりでも、一触即発か? みたいな怖さがあるから、本当にやめてほしい。
 料理なんて、なんも味しなかったし。勧められて酒も結構飲んだが、全然酔えなかった。

「遥希、疲れた?」
「少し」
 恐怖の余韻を引き摺りながら高級車で家に帰る。
 家の門を抜けたらホッとして急に酔いが回ってきた。

「酔った……寝る」
「うん。遥希大丈夫か?」
「一緒に寝て下さい」
「うん。分かった」

「怖かった」
「そうだよな。みんな顔怖いしな。遥希、ありがとう」

 部屋までは、たぶんちゃんと歩いていったと思う。たぶん。
 廊下を歩いたような記憶は薄っすらとある。寝て起きたら、もう夜中で政宗さんを抱きしめて寝ていた。
 しまったスーツ、と思ったがパジャマに着替えていたし、政宗さんもパジャマに着替えていた。
 自分で着替えたのか、政宗さんが着替えさせてくれたのかは分からない。

 酒を飲んで寝たから喉がからからだ。
 政宗さんをそっと放して、部屋を出て台所へ向かう。まだ酒が残っていてふわふわしている。伏せられたコップを適当に掴んで水道水を汲んでゴクゴクと喉に流し込むと、ふぅ~っと一息ついた。

 バタバタと廊下を走る音が聞こえて、何かあったのかと出てみると、政宗さんが走ってきて、体当たりするように抱きついてきた。

「遥希がいなくなったのかと思った」
「ここにいますよ。喉が渇いて水を飲んでいただけです。政宗さんも飲みますか?」
「飲む」

「どうぞ」
「ありがとう」
 俺たちはコップを片付けると、無言で部屋に戻った。

「遥希、ごめん」
「え? なんですか?」
「遥希に謝らせたこと」
 政宗さんはそんなことを気にしていたのか。きっかけは俺だし、謝ったのは俺のためでもあった。

「ああ、気にすることないですよ」
「うん。ありがとう」
「あ、でも他の事務所を一人で奇襲とか夜襲とかはやめて下さいね」
「分かった。もうしない」

 半分冗談で奇襲や夜襲と言ってみたが、「戦国時代じゃあるまいし!」という突っ込みは返ってこなかった。ってことは現代でも普通に奇襲や夜襲が行われることがあって、それを政宗さんはやったということか?
 マジでやめてくれ。ここは戦国時代じゃない。現代なんだから。

「遥希、大切にする」
「え?」
「大切にするから、婿に来てくれ」
「はい。よろしくお願いします」
 突然どうしたんだろうと思いながら、真剣な政宗さんに向き合ってちゃんと返事をした。

「遥希、キスして」
「いいですよ。キスだけでいいんですか?」
「ダメ。したい」
「ふふ、素直ですね」
「遥希はしたくないのか?」
「したいですよ。可愛い政宗さんが見たいです」

 引き寄せてキスを繰り返す。
 吐息には少し酒の匂いがして、また酔ってしまいそうだ。

「もっといっぱいキスしたい」
「いいですよ」

「あ……んん……」

 さっきのは、もしかして政宗さんからのプロポーズだったんだろうか?
 俺のプロポーズって「まずは結婚しましょう」などと何とも軽い感じのものだった、なんて思い返していた。
 番になったときも、俺は政宗さんの許可も取らずに勝手に噛みついた。気持ちが昂っていたのはそうだけど、それがαの本能によるものなのか、それとも部屋を出る時に決めた覚悟が後押しをしたのか分からない。今思えば恐ろしいことをしたものだ。

 指輪とか、いや俺は料理人になるんだから指輪よりネックレスのがいいな。政宗さんとお揃いの物を身につけるなんて嬉しい。

「はるき……ああ……や、もうやあ、やだあ、挿れて、挿れてよ……」

 そんなことを考えながら、政宗さんの好きな前立腺を攻め倒していると、政宗さんのお腹の上にはいつの間にか吐き出されたものがトロリと溢れており、泣きながら挿れてと懇願されていた。

 ゴムをつけてヌルヌルと潤滑剤を足すと、ジュププッと政宗さんの中に潜り込む。
 手を伸ばしてティッシュを掴み政宗さんのお腹の上をそっと拭いて、政宗さんを抱き起こす。
 抱きしめて背中を撫でていると、やっと泣き止んだ。

「遥希酷い」
「すみません、考えごとしてました」
「は? 俺以外のこと?」
「政宗さんのことです。ちゃんとプロポーズしてくれて嬉しかったなとか、俺は結構サラッと結婚を口にしていたから。それと指輪かネックレスか、何かお揃いの物を買おうかとか考えてました」
「そっか。それなら今回だけは許す」
「はい」
「でも次は無いからな。俺とのセックスに集中しろ。じゃなきゃ……」
「じゃなきゃ?」
「……暴れる」
「やめて下さい」
 それはダメだ。ダメなやつだ。きっとこの人は恐ろしいことを考えている。

「じゃあ俺だけ見ろよ」
「分かりました」
 俺だけ見ろなんて、イケメンが言うセリフだ。
 ちょっと睨みを効かせながら、兄貴の顔がチラリと覗く。でも俺が下からの突き上げを開始すると、その鋭い目つきが嘘のようにトロリと蕩けてしまう。

「あっ……あ、はるき……ずるい……ああ……」
「ちゃんと集中します。可愛い政宗さんを見逃したくないんで」

「ん……はるき……俺だけ、見て……」
「見てますよ。ちゃんと見てます。俺だけの政宗さん、蕩けた顔も最高に可愛いです」

 ちょっとテンションが上がりすぎて、激しく攻めすぎてしまったらしい。クッタリと意識を手放した政宗さんがそこにいて、汗で顔に張り付いた髪を退けて触れるだけのキスをする。

 いつも政宗さんだけ見てますよ。
 結婚が具体的なものになった日、愛しい政宗さんを抱きしめて夜が明けるまで微睡んでいた。
 家族か。家族から逃げた俺を、何も聞かずに受け入れてくれた政宗さんや組のみんな。今でも幸せですが、もっと幸せになりましょう。

 明日起きたら、じいちゃんに電話でもしておくか。この幸せを誰かに伝えたいと思った。

 
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