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二章
27.対面
しおりを挟む結婚か。番になる時に覚悟を決めているから、結婚をすることに対してはそんなに覚悟がいる感じはない。一生をこの人と歩むと決めて番になったし、結婚はそれを周りに報告して書類を書くだけという印象で、そんなに重要だとも思っていなかったが、きっとそれも政宗さんにとっては不安だったんだろう。
ただし、組長という人に会うのは覚悟がいる。反対されたりするんだろうか? でももう番になってしまっている。勝手に番になったことを怒られたりしそうな気はする。殴られたり? 殺されそうになったらさすがに政宗さんが助けてくれるよな?
緊張する。俺は正装なんて安物のスーツ一着しか持ってない。大学の入学式の時に着たリクルートスーツみたいなやつなんだが、こんな格好で組長の前に出ていいのか?
正宗さんはまた髪をきっちりオールバックにして、羽織袴を着ているし。俺もそのうち和装とか仕立てた方がいいんだろうか?
今は黒塗りの高級車に乗せられて、本家という組長が住む家に向かっている。
門を過ぎて車が停車すると、ドアが開けられて車を降りた。
これはまた……
政宗さんの家も大きいが、更に大きいし、綺麗に手入れされた日本庭園が広がっていて殿様が住む城という感じだ。
すれ違う恐ろしい人相の方々に、政宗さんはおかえりなさいと言われているが、俺のことは何も触れられていない。俺のこと見えていないわけじゃないんだよな?
庭園が一望できる広間に、座布団がいくつか置かれている部屋に通された。
「遥希はここに座って」
「はい」
正座して待っていると、これまた厳つい顔をした着物の爺さんと、スーツを着た中年男性が数人入ってきた。
きっと着物の人が組長なんだろう。
「組長、お久しぶりです。今日は報告を持って参りました」
政宗さんが挨拶をしたけど、俺はいつ挨拶をすればいいんだ? マナーが分からない。先に聞いておけばよかった……
「そうか。それで?」
組長のしゃがれた声は抑揚がなく、感情が分からない。ただ単純に報告を聞く姿勢なのか、怒りや憤りを隠しているのか。
「俺はここにいる遥希と結婚する。以上だ」
「そうか」
は? それだけ? 俺は何も言わなくていいのか?
簡単すぎる政宗さんの報告内容に、俺はどうすればいいのかますます分からなくなった。
「田村遥希と言ったか?」
「はい」
急に組長に話しかけられて緊張が走る。
もう俺のことは調べ尽くしているんだろう。目が合っただけで、睨まれたわけでもないのに体が硬直する。
「見たよ」
「見た? 何をでしょうか?」
店のことか? それとも見かけたということか?
変なことはしていないはずだが、俺はヤクザの常識を知らない。一般人の常識がそのまま当てはまるかは分からない。
「『俺のもんに手え出すんじゃねえ!』悪くなかった」
まさかのムービー撮影されていた俺の黒歴史が組長にまで見られていたとは。どこかに穴は無いだろうか? 俺の心だけでも穴に隠れさせて下さい。
「そ、そうですか」
もう俺の喉はカラカラだ。精神力ゲージがほとんど無くなった。
「遥希はいい。政宗、問題はお前だ」
政宗さんは何か問題を起こしたのか? 俺は隣に座っている政宗さんをチラリと見た。
「最近、虫の居どころが悪いとか」
「それは解決した」
虫の居どころが悪い? そうだったのか。全然気付かなかった。
「虫の居どころが悪いというだけで、新興の組や半グレ集団を襲ったらしいな」
政宗さんはそんなことしたのか?
「組の他のもんには迷惑かけてない」
「そうだな。一人でやったと聞いている」
一人? なんでそんな危ないことをしたんだ? 聞きたいが二人の会話の間に入れるわけもなく、大人しく聞いているしかなかった。
「だから何だ?」
「遥希にそっぽを向かれてイライラしていたんだろ? それで暴れた。違うか?」
え? そうなの? 俺は政宗さんの顔をじっと見た。
そしたら政宗さんは俺から目を逸らした。俺のせいか……
「すみませんでした。
学校の卒論と店のことで手一杯で政宗さんを勘違いさせてしまったのは私です。一人で勝手なことをしないよう、よく言い聞かせておきます。申し訳ありませんでした」
俺は深く頭を下げた。俺のせいで次期組長を危険に晒したんだから。
「遥希……」
「政宗、よかったな。
お前が余計なことをすれば遥希が恥をかくし、悲しませることになる。結婚とはそういうことだ」
「はい。肝に銘じておきます」
「ならいい。遥希、この狂犬の手綱をしっかりと握っておいてほしい。よろしく頼む」
「はい」
「はい」とは言ったものの、政宗さんが狂犬で俺が手綱を握る? そんな自信はない。
俺一人では無理だ。片倉さんや他のみんなにも協力してもらうしかない。
「田村か……なるほどな」
組長が顎髭を手で触りながら呟いた。
なんだ? 田村なんてどこにでもある名字だと思うんだが。組長が最後に呟いた一言に、俺は首を傾げた。
まあいいんだ。何となく認めてもらえた感じはあるし。
その後、俺はすぐにでも帰りたかったんだが、ガヤガヤと恐ろしい人相の人たちが集まってきて宴会が始まった。
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