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二章
23.メニュー開発
しおりを挟む卒論が上手く進まないモヤモヤは、メニュー開発で発散した。
今までは、政宗さんかバイト先の大将や女将さんに意見をもらっていたが、この家にきてからは食べてくれる人がいくらでもいる。
色んな人の意見を聞くことができるのも、ここの家に引っ越してきた利点だ。
少人数分を作るのと大量調理では勝手が違うことも分かった。店のメニュー以外で大量調理なんてする機会がなかったから、難しさを実感している。
煮るのには時間もかかるし、炒めるのも大変だし、煮物なんかは煮崩れしやすい。
店を始める前に大量調理が経験できるのもありがたい。
「兄さんの料理はどれも美味いっすねー」
「今日のもいい匂いだ」
「俺なんかまだまだだよ。ほら、これ煮崩れてる」
また煮崩れてしまったジャガイモを見つめ、まだ技術が足りないのだと思い知る。
「味は美味いし家で食べるなら全然ありですけど、店で出すとなると見た目も重要なんすね」
「見た目か~、確かに店で見た目悪い料理出てきたら残念な気持ちになるな」
「そうなんだよね」
料理の手伝いをしてくれる若い子たちは、俺と同じか下の子が多いから俺もタメ口で話せるし楽だ。
「兄さん来てから食事がレベルアップしたってみんな喜んでますよ」
「前は料理当番が回ってくるの嫌だっていう奴いましたからねー」
「俺も色んな人の意見聞けるから助かってるよ」
初めはそれぞれの料理に感想を書いてもらっていたんだが、大変だと言われて、それぞれニ択で丸をつけてもらうようにした。
美味しい、不味い、濃い、薄い、好き、嫌い、見た目がいい、悪いなどで、意見があれば文章で書いてもらう。
この家はトップの政宗さんが若いから若い人が多いが、リクエストをとると意外と和食や家庭料理の人気が高い。
みんなにとって、ここは自分の家って感じなんだ。俺にとっても賑やかな食卓は、今では欠かせない大切な時間になっている。
「俺は明日、店に行きますから」
「うん、分かった」
この前、連絡もせず朝帰りしてから、翌日どこに行くかを報告するようになった。
細かくその途中でコンビニに寄るとかそんなことまでは言わないが、ざっくりとバイトだとか学校だとか店だとか、そんなことは伝えるようにしている。
一人で出るときは、必ず誰かにスマホは持ったかとか聞かれるようになった。
だいたい車の運転ができる中島さんか、他の誰か付いてくることが多い。
内装なども考えたいし、まずは掃除をしたい。リノベーションなどはしなくても使えそうだと思っていたのに、店を掃除していると業者が来て、座敷の畳を勝手に新品に変えていった。
きっと政宗さんだろう。
「俺、畳変える予定なかったんだけど」
「勝手に変えていきましたね」
「そうだな。政宗さんの仕業だよな?」
「恐らくは」
他に誰がこんなことをするというのか。
別の日には、店に行くと破れた壁紙とテーブルと椅子が変わっていて、厨房もピカピカに磨かれていた。
「兄さん、いつの間にこんな綺麗に掃除したんですか? 業者入れたんすか?」
「いや、俺も知らない」
「ホールもなんか前と違う気がするんですが、気のせいですか?」
「いや、壁紙が変わっているし、テーブルも変わってる」
「ちょっと綺麗になりましたね」
一瞬別の店に入ってしまったのかと思ったが、これも政宗さんの仕業だな。
俺がカタログで丸をつけた中でも高いやつに変わっている。値段的にちょっと厳しいから、妥協して安いやつにするか、似たようなものを中古で探そうと思って、いくつか丸をつけていたんだが、その中の一番高いものになっている。
政宗さんは何も言ってこないが、バレていないと思っているのか?
「政宗さん、抱いていいですか?」
「遥希から誘ってくれるなんて嬉しい。もちろんいいよ」
普段は話そうとしても、サラリと躱されて逃げられてしまうから、こうするしかないんだ。
「はるき……もう、むりだよ……出ない……やあ……」
「勝手に俺の店、いじらないでくださいね」
「分かった……ごめんなさい……はるき……ほんとに、もう……ああ……」
「政宗さん気持ちいいの好きでしょ?」
もう政宗さんの弱いところは把握済みだ。攻め倒すと政宗さんが降参した。
「好きだけど……むりなの……もう……やだあ……」
「政宗さん、可愛い」
でも俺も許しているからこれくらいで済ませてるんだ。
少しはお仕置きしたい気持ちもあるけど、半分は可愛い政宗さんを見たいだけ。
「おねがい……はるき、ごめんなさい……もうしない、ゆるして……ああ……」
「約束ですよ」
本当に俺の番は、どうしようもなく可愛い。
「遥希、キスしたい」
「仕方ないですね」
「いっぱいして?」
「いいですよ」
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