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一章
16.覚悟を決める時
しおりを挟む夏休みに入って周りはほとんど内定をもらっていたが、俺は起業というか店を持つことを決めていたから就活はしなかった。
バイトをして大学へも行って、頭金くらいは貯められたから、具体的な店の立地なんかも検討し始めた。
八月に入ると、政宗さんは来るんだろうか? と疑問に思った日もあったが、来るはずないとも思える。
俺にヤクザだってことがバレた時だって来たんだから来るかもしれないと思っていたけど、一向に彼は来ない。
いつも通り期待はしない。しかし、別れの言葉を告げられたわけではないのだからと希望はやっぱり捨てられなかった。
発情期はもう始まっているはずだよな? 大丈夫なのか?
もしかして本当に来ない気なのか?
大丈夫なんだろうか?
大丈夫なわけないよな。一人でホテルに篭って震えているんだろうか?
俺が遠ざけたと言っても過言ではない。
巻き込まれたくないと言ったのは俺だ。政宗さんを拒絶したのは俺だ。
あの時は本当に怖かった。言った言葉は嘘じゃないし、巻き込まれたくないと思ったのは本心だった。
違う世界の人だと思ったし、これ以上関係を続けるのは無理だとも思った。
でもいいのか?
彼を一人にしていいのか?
苦しむ姿も、悲しむ姿も見ている。
それによく考えたら、政宗さんが俺のことを危険に晒すわけがない。安全を確保した上で、それでも俺に会いに来てくれたんじゃないのか?
頼ってくれたんじゃないのか?
それなのに俺は……
発情期に耐えられなくなって彼が外に出たら……
俺のところに来たくても来れなかったら、また誰かに襲われそうになっていたら……
いや違う。心配なのは心配だ。それは間違いない。それよりも、会いたい。
政宗さんに会いたくてたまらない。会う理由なんて政宗さんを求める理由なんて、「好きだから」それ以上に余計な理由や言い訳を並べる必要はなかったんだ。
俺は居ても立っても居られなくなって、すぐに家を出た。
初めて会った場所。俺のところに来たくても来れなかったら、そこに行くと直感で思った。
朦朧とした意識で向かうなら、そこしか無い。
自惚れだろうか?
もしそこにいなければ、もうどこにいるか俺には分からない。とにかく行くしかない。
何が発情期の時だけの関係だ。この時間だけは恋人だ。そんなの逃げてるだけじゃないか。
色眼鏡で見ないとか言いながら、目を逸らしたのは俺じゃないか。
もし自惚れじゃなくあの場所に政宗さんがいたら、俺は彼の全てを受け止めると決めた。
覚悟? 決めてやるよ。政宗さんを失うことに比べたら、他のどんなことも怖くなんかないと思った。甘いと言われてもいい。もう後悔したくないんだ。
普段走ったりなんかしないから、息は切れているし、喉も息をするだけでヒリついて痛い。
足だってもつれて全然早く走れない。格好悪いな俺。それでも行かなければならない。
やっぱりいた。また襲われそうになって……
本当に政宗さんは危なっかしい人だ。
そして誰より大切で愛しい人。
「俺のもんに手え出すんじゃねえ!」
襲いかかっている奴を殴り付けて、政宗さんを担いで家に帰った。
「は、るき……」
「見せろよ。背中に背負ってるもん見せろよ」
俺は嫌がる政宗さんのパーカーを無理やり脱がせた。普段なら力で敵うわけないんだろうけど、発情期のフラフラな状態であれば簡単に組み敷くことができる。
彼が頑なに隠しているのが背中の刺青だということは気づいていた。
車に押し込まれて家に連れて行かれた時から。
俺もそれを見る覚悟は無かったから、見せてくれとは言わなかったけど、全て受け止めると決めたから、目を逸らさず見なければいけないと思った。
脱がせても初めは抵抗していたが、布団にうつ伏せにして押さえ付けると、もう観念したのか大人しくなった。
なかなかの迫力だな。般若や桜ではなかった。桜は殿様か。
ヤクザの刺青のイメージとしては、背中全体に隙間なくド派手な花とか波とか仏像とかそんなのが彫られているのかと思っていたが、違った。
黒い上り龍が2匹。その周りには黒い花。龍の鱗はちょっと変わってる。よく見ると文字みたいに。
先日怪我をした二の腕を見た時に見えなかったけど、反対の腕には服を着ているようにびっしりと黒い花が描かれていた。
左腰の鱗の一部だけ、黒じゃなく肌の色なんだがちょっと赤く浮き上がって見える。そこだけが異質で気になった。なんて書いてある? 英語か?
ーーharuki
って俺の名前かよ。
なんだよそれ。そんなに俺のこと好きなの?
知ってた。俺の服で巣作りするくらい俺のこと好きなの知ってたよ。
これってさ、色入れてないってことは発情期の時だけ赤く浮き上がったりするのかな?
「好きだよ。政宗さん」
俺はその俺の名前が彫られた部分に口付けた。
「あっ……」
「政宗さんの全部見せて。俺には全部見せて。政宗さんの好きなところいっぱい触ってあげるから」
フェロモンの香りがグンと濃くなる。
挿れたくてたまらないのを必死に我慢して、政宗さんをうつ伏せにしたままお尻だけ高く上げた。
ローションを手に取り指を潜り込ませ、丁寧に解していく。
ビクビクと震えながら必死に俺の腕を掴んでくるのが可愛い。背筋も綺麗だな。
全身が熱くて意識を持ってかれそうになる。
「はるき……挿れて……お願い……」
「分かった」
いつもバックは嫌がっていたから、これが初めてだ。きっと服が捲れて背中が見えてしまうと思ったんだろう。
可愛い顔が見えないのは残念だけど、細い腰を掴んでしっかりと背中の龍と目を合わせながら中に入っていった。
背中を反らせて可愛い嬌声をあげる政宗さんが愛しい。
俺は背中を龍ごと抱きしめて、政宗さんのうなじに噛み付いた。
全く抵抗はされなかった。
一旦己を引き抜くと、政宗さんを仰向けにしてキスをしながら再び深く潜り込む。
背中より、こっちの方が……
政宗さんの腕や胸には傷跡がいくつもついていた。この前の傷も。あの後病院で縫ってもらったんだろう。痛々しい跡だ。
「はるき……キスして……いっぱい、してほしい」
「いいですよ」
「はるき……もっとして……あぁ、もっと奥まできて……」
「政宗さん可愛いよ。一緒にこっちも扱いてあげるから、たくさんイッて下さい」
「やあ……だめ、そんなにしたら、ああ……」
政宗さんが可愛すぎて止まれなかった。何度もキスしながら夢中で求めて、気付いたときには政宗さんは意識を失っていた。
ギュッと抱きしめて、温かい気持ちで眠りにつく。
ーー俺の番
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