上 下
1 / 14

1.出会い

しおりを挟む
 
 
 俺の見た目は厳つい。中学では柔道部に入っていたが、体格のせいで期待されるのに疲れて、高校では絵が好きでもないのに美術部に入った。
 それなのに俺の身長は止まらず伸び続け、190を超えたところでやっと止まってくれた。
 勉強も嫌いだったし肉体労働中心の仕事に就いてしまったものだから、どんどん筋肉が付いていって更に厳つい見た目となった。

 母親譲りの目つきの悪さと子供の頃に転んで怪我をした時の頬の傷も相まって、今では通りを歩けばほとんどの奴が俺を見て道を開ける。更に俺はDomだ。
 人を殴ったことなんか無いんだが、世間ではDomといえば野蛮で暴力的な奴だと思われているから、「あの人絶対Domだよね」などとコソコソ噂されているのを知っている。
 実際に俺はDomなんだから否定のしようもない。

 この世界には男女の性の他に第二の性が存在する。Subを支配したいし守りたいDomと、Domに支配されたくて従いたいSub。
 世の中の大半はDomでもSubでもないNormalと呼ばれる者で、たまにSwitchと呼ばれるDomとSub両方の性質を持つ者もいるらしい。
 DomがSubへ指示を出すのはCommandと呼ばれるもので行われ、DomもSubも、支配したい支配されたいという欲求が満たされないと体調を崩す。
 パートナーがいればいいんだが、いない者は抑制剤を飲むか、Dom/Sub専門の風俗を利用してプレイしてもらうかのどちらかで解消するしかない。

 Domへの風当たりは強い。Subを過剰に痛めつけたり、Commandコマンドで無理矢理従わせて犯したりといった事件が起きているせいかもしれない。
 SubもSubで何をされてもどんなに痛めつけられても喜んでしまうと思われているらしいから、DomでもSubでもどちらであってもあまりいい印象を持たれないし、隠している奴も多い。

 俺は隠していないが、見た目が厳ついこともあって初めからDomだと決めてかかられることがほとんどだ。
 風俗へ行っても暴力的なプレイをするのだろうとSubに怖がられることもあるが、そんなことはしたことがない。
 俺自身、痛いのは嫌いだし誰かを痛めつけたいとは思わない。
 支配したいと思うより、従ってくれるSubが可愛くて守ってやりたいという欲の方が強い気がしている。


 彼と出会ったのは、なんてことはない。Dom/Sub専門のバーで会った。
 俺だって人並みに恋愛もしたいしパートナーだってほしい。何度か出会いを求めて通ったものの、俺の見た目が怖いせいか近寄ってくるSubはいなかった。
 声をかけても怯えた様子で逃げられるだけだったし、ただ1人飲みをしているようなものだ。

 この店もダメか。何軒か他の店にも通ったけれど、またここもダメだった。他を探そう。
 そう思ってカウンターでレモンサワーの残りを煽って席を立とうとした時に声をかけられた。

「あの、Domの方ですか?」
「そうだが」
「僕、あなたみたいなDomを探していたんです! 僕のパートナーになってください!」

 背は俺の肩の辺りまでしかないし細身で、羨ましい程のぱっちり二重の目は女の子のように可愛いかった。
 青地に袖は白で黄色のラインとアルファベットがアクセントになっているバーシティジャケットを羽織って、ダボっとしたサルエルパンツに厚底のスニーカーを履いておしゃれな感じだ。色素の薄い髪色も雑誌のストリートスナップから飛び出してきたように綺麗にセットされている。
 対して俺はファストファッションのカジュアルスタイルだ。
 彼は一体俺のどこをどう気に入っていきなりパートナーを申し込んできたのか。
 可愛らしい見た目とは裏腹に、俺の前に怯えもせず立ちはだかり、俺の目をしっかりと見た彼を少し頼もしくも思った。

 俺は今まで一度もパートナーがいたことはない。
 Dom/Sub専門の風俗に行ったことはあるからプレイはしたことがあるが、パートナーはいない。

「俺か?」
「うん。ダメですか?」

 コテリと首を傾げながら俺を見上げる姿が可愛くて、俺の心臓が撃ち抜かれたようにドクンと跳ねて、その後も激しく鼓動した。一目惚れは本当にあるんだと知った瞬間だった。

「なりたい。君のパートナーになりたい」
「本当? よかった~
 僕の名前はミツルです。あなたの名前は?」
「俺はタキ」

「タキさん。プレイルーム行こっ」
「あぁ」

 いきなり二人きりか。いいのか? お互い名前しか知らないんだが。俺のことを怖がる素振りはない。それどころか俺の腕を掴んで進んでいく姿は俺の方が従っているようにも見える。
 細くて柔らかい指だ。いつもの癖で袖を捲り上げていたから直に彼の手の感触を感じる。


 空いているプレイルームに入りドアを閉めると、二人でソファーに座った。
「僕、タキさんみたいな強そうな人が好きなの。何してもいいよ。殴ってもいいし蹴ってもいいし首絞めてもいいよ。むしろして欲しい。激しく犯していいよ。タキさんのものになります」
「あ、あぁ」

 そういうことか。
 俺はそういう暴力的なプレイはしたことがないんだが……
 バーシティジャケットを脱いでソファの背もたれに掛けながら、キラキラした目で俺のことを見てくる。そんなミツルを手放したくはない。ミツルを逃したら次はいないかもしれないという思いもあるが、俺自身がミツルを欲しいと思った。

 今日は初めてだし軽めに済ませて、帰ったらネットで調べてみよう。なんとか彼の希望に応えてやりたい。
Safe wordセーフワードを決めておこう」
「そんなの要らない」
「ダメだ。決めろ。使うかどうかはミツルの判断に任せる」
 危なっかしい奴だな。Safe wordを決めずにプレイしようとするなんて。Safe wordはSubが使うCommandのようなもので、それを言ったらDomはプレイを止めなければいけない。Subを守るために必要なものだ。
「逆らってごめんなさい。ちゃんとSafe word決めるから罰をください」
「罰? ご褒美の間違いじゃないのか? 早く決めろ」
「はい。ごめんなさい。えっと、『レモンサワー』にする」

 少し瞳を潤ませて謝るミツルに、こんな口調でいいのだろうか? と少し不安になりながら横柄な態度でSafe wordを決めさせた。
 ミツルは意外と俺のことを見ていたらしい。さっき俺がレモンサワーを飲んでいたことをちゃんと見ていたんだな。それだけで少し嬉しいと思っている俺は、やっぱりミツルに惹かれているんだろう。

「分かった。忘れるなよ」
「はい」

 俺のことを期待した眼差しで見ているが、困った。普通ならここでKneelおすわりとCommandを告げておすわりさせるんだが、それだとこいつは物足りないだろう。

Strip脱げ
「はい」

「遅い!」
 バチーン

 痛かっただろうか? 俺はノロノロと服を脱ぐミツルを平手で叩いた。
 小さく華奢なミツルは立っていられず床に倒れたが、こちらを向いた顔は上気しており、うっとりとした表情だった。
 力加減は難しいがこれでいいのか。不安を悟られないよう取り繕いながら、ゆっくり立ち上がるミツルを眺めた。

「ごめんなさい。罰をくれてありがとう」
 そう言いながらミツルは服を全て脱いだ。
 綺麗だ。本当は傷つけたくなんかないんだが……

「Good boyいいこだ」
 裸になったミツルをそっと抱きしめてCareケアしてやると、ミツルはビクッと震えた。失敗したか?
 CommandコマンドCareケアは通常はセットだ。Domが指示を出してSubが従ったらCareケアとして褒めてやるのが当たり前だと思っていたが、ビクッと震えられると間違えたのかと不安になる。

「凄い……痛みのヒリつく感じと優しすぎるCareケアが気持ち良すぎる。こんなの初めて。タキさん好きです」
「そうか」

 いきなりこんな可愛い子に好きだと告白されて俺は戸惑った。間違ってはいなかったらしい。手探りではあるが、なんとかなりそうだとホッとした。

「何度も言え。俺のことが好きだと」
「はい。好き。タキさん好き。大好き」

 これは完全に役得だな。俺Domでよかった。
 あぁ、可愛い。本当ならもっと甘やかしてやりたいのに。こいつは俺にそんなことは求めていないんだろう。
 せめてCareケアの時だけは優しく労わってやろうと思った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【Dom/Subユニバース】Switch×Switchの日常

Laxia
BL
この世界には人を支配したいDom、人に支配されたいSub、どちらの欲求もないNormal、そしてどちらの欲求もあるSwitchという第三の性がある。その中でも、DomとSubの役割をどちらも果たすことができるSwitchはとても少なく、Switch同士でパートナーをやれる者などほとんどいない。 しかしそんな中で、時にはDom、時にはSubと交代しながら暮らしているSwitchの、そして男同士のパートナーがいた。 これはそんな男同士の日常である。 ※独自の解釈、設定が含まれます。1話完結です。 他にもR-18の長編BLや短編BLを執筆していますので、見て頂けると大変嬉しいです!!!

いくら気に入っているとしても、人はモノに恋心を抱かない

もにゃじろう
BL
一度オナホ認定されてしまった俺が、恋人に昇進できる可能性はあるか、その答えはノーだ。

僕が結婚を延ばす理由

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
成り上がりの華族である僕の家は、本物の華族になるために由緒正しい不動家との縁続きを望んでいる。そのため家族で唯一のΩである僕は不動家の次男と婚約した。でも、あの人の心には別の人がいる。そう思って結婚を何度も延ばしてきたけれど……。※他サイトにも掲載 [華族の次男α×成り上がり家の末息子Ω / BL / R18]

後輩に本命の相手が居るらしいから、セフレをやめようと思う

ななな
BL
「佐野って付き合ってるやつ居るらしいよ。知ってた?」 ある日、椎名は後輩の佐野に付き合ってる相手が居ることを聞いた。 佐野は一番仲が良い後輩で、セフレ関係でもある。 ただ、恋人が出来たなんて聞いてない…。 ワンコ気質な二人のベタ?なすれ違い話です。 あまり悲壮感はないです。 椎名(受)面倒見が良い。人見知りしない。逃げ足が早い。 佐野(攻)年下ワンコ。美形。ヤンデレ気味。 ※途中でR-18シーンが入ります。「※」マークをつけます。

【短編】勇者召喚された僕を地獄に突き落としたくせに……

cyan
BL
夏休みに親戚の家に遊び行った富士多航(ワタル・フジタ)は、川に飛び込んだ瞬間に異世界に召喚された。 運動が苦手でぽっちゃりボディのワタルには過酷な日々が待ち受けていた。 魔王を倒せと騎士団に連れていかれ、セドリック・テイラーという鬼のような団長に鍛え上げられる。 鍛えられたといえば聞こえはいいが、これはほぼ虐待だった。 逃げることもできず、ボコボコにされる日々。 旅に出て、なんとか魔王を倒し凱旋したが、次に待っていたのは隷属の首輪で力を封じられた状態で男娼となるという地獄だった。 『ワタル視点』と『鬼団長視点』の2部構成です(一話ずつがちょっと長いです) ※ハッピーエンドですが、ワタル視点では暴力や暴言、凌辱など主人公がボコボコにされるので、苦手な方はご注意ください。 ※自殺未遂表現あります。 ※お仕置き、躾、拷問はありません。 団長視点まで読んでいただけるとワタルもきっと救われます。

【完結】可愛い女の子との甘い結婚生活を夢見ていたのに嫁に来たのはクールな男だった

cyan
BL
戦争から帰って華々しく凱旋を果たしたアルマ。これからは妻を迎え穏やかに過ごしたいと思っていたが、外見が厳ついアルマの嫁に来てくれる女性はなかなか現れない。 一生独身かと絶望しているところに、隣国から嫁になりたいと手紙が届き、即決で嫁に迎えることを決意したが、嫁いできたのは綺麗といえば綺麗だが男だった。 戸惑いながら嫁(男)との生活が始まる。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

暗殺者のおれが命じられたのは、夫の殺害でした。

おもちDX
BL
暗殺者のアクアはいつも通り仕事を請け負った……はずだった。 ターゲットはなんと夫のブラッド。仮面夫婦だけど、でも……どうしよう⁉︎ 契約結婚だった夫婦の関係性は、暗殺の依頼をきっかけに大きく変わる。 無自覚カップルのすれ違いハッピーラブコメです。ゆるっとファンタジー。 R18オメガバース。 大きな商家を経営する(?)アルファ(26)×暗殺業を隠しているオメガ(18) ※表紙イラストはpicrewのおさむメーカーを使用させていただきました。

処理中です...