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1.出会い
しおりを挟む俺の見た目は厳つい。中学では柔道部に入っていたが、体格のせいで期待されるのに疲れて、高校では絵が好きでもないのに美術部に入った。
それなのに俺の身長は止まらず伸び続け、190を超えたところでやっと止まってくれた。
勉強も嫌いだったし肉体労働中心の仕事に就いてしまったものだから、どんどん筋肉が付いていって更に厳つい見た目となった。
母親譲りの目つきの悪さと子供の頃に転んで怪我をした時の頬の傷も相まって、今では通りを歩けばほとんどの奴が俺を見て道を開ける。更に俺はDomだ。
人を殴ったことなんか無いんだが、世間ではDomといえば野蛮で暴力的な奴だと思われているから、「あの人絶対Domだよね」などとコソコソ噂されているのを知っている。
実際に俺はDomなんだから否定のしようもない。
この世界には男女の性の他に第二の性が存在する。Subを支配したいし守りたいDomと、Domに支配されたくて従いたいSub。
世の中の大半はDomでもSubでもないNormalと呼ばれる者で、たまにSwitchと呼ばれるDomとSub両方の性質を持つ者もいるらしい。
DomがSubへ指示を出すのはCommandと呼ばれるもので行われ、DomもSubも、支配したい支配されたいという欲求が満たされないと体調を崩す。
パートナーがいればいいんだが、いない者は抑制剤を飲むか、Dom/Sub専門の風俗を利用してプレイしてもらうかのどちらかで解消するしかない。
Domへの風当たりは強い。Subを過剰に痛めつけたり、Commandで無理矢理従わせて犯したりといった事件が起きているせいかもしれない。
SubもSubで何をされてもどんなに痛めつけられても喜んでしまうと思われているらしいから、DomでもSubでもどちらであってもあまりいい印象を持たれないし、隠している奴も多い。
俺は隠していないが、見た目が厳ついこともあって初めからDomだと決めてかかられることがほとんどだ。
風俗へ行っても暴力的なプレイをするのだろうとSubに怖がられることもあるが、そんなことはしたことがない。
俺自身、痛いのは嫌いだし誰かを痛めつけたいとは思わない。
支配したいと思うより、従ってくれるSubが可愛くて守ってやりたいという欲の方が強い気がしている。
彼と出会ったのは、なんてことはない。Dom/Sub専門のバーで会った。
俺だって人並みに恋愛もしたいしパートナーだってほしい。何度か出会いを求めて通ったものの、俺の見た目が怖いせいか近寄ってくるSubはいなかった。
声をかけても怯えた様子で逃げられるだけだったし、ただ1人飲みをしているようなものだ。
この店もダメか。何軒か他の店にも通ったけれど、またここもダメだった。他を探そう。
そう思ってカウンターでレモンサワーの残りを煽って席を立とうとした時に声をかけられた。
「あの、Domの方ですか?」
「そうだが」
「僕、あなたみたいなDomを探していたんです! 僕のパートナーになってください!」
背は俺の肩の辺りまでしかないし細身で、羨ましい程のぱっちり二重の目は女の子のように可愛いかった。
青地に袖は白で黄色のラインとアルファベットがアクセントになっているバーシティジャケットを羽織って、ダボっとしたサルエルパンツに厚底のスニーカーを履いておしゃれな感じだ。色素の薄い髪色も雑誌のストリートスナップから飛び出してきたように綺麗にセットされている。
対して俺はファストファッションのカジュアルスタイルだ。
彼は一体俺のどこをどう気に入っていきなりパートナーを申し込んできたのか。
可愛らしい見た目とは裏腹に、俺の前に怯えもせず立ちはだかり、俺の目をしっかりと見た彼を少し頼もしくも思った。
俺は今まで一度もパートナーがいたことはない。
Dom/Sub専門の風俗に行ったことはあるからプレイはしたことがあるが、パートナーはいない。
「俺か?」
「うん。ダメですか?」
コテリと首を傾げながら俺を見上げる姿が可愛くて、俺の心臓が撃ち抜かれたようにドクンと跳ねて、その後も激しく鼓動した。一目惚れは本当にあるんだと知った瞬間だった。
「なりたい。君のパートナーになりたい」
「本当? よかった~
僕の名前はミツルです。あなたの名前は?」
「俺はタキ」
「タキさん。プレイルーム行こっ」
「あぁ」
いきなり二人きりか。いいのか? お互い名前しか知らないんだが。俺のことを怖がる素振りはない。それどころか俺の腕を掴んで進んでいく姿は俺の方が従っているようにも見える。
細くて柔らかい指だ。いつもの癖で袖を捲り上げていたから直に彼の手の感触を感じる。
空いているプレイルームに入りドアを閉めると、二人でソファーに座った。
「僕、タキさんみたいな強そうな人が好きなの。何してもいいよ。殴ってもいいし蹴ってもいいし首絞めてもいいよ。むしろして欲しい。激しく犯していいよ。タキさんのものになります」
「あ、あぁ」
そういうことか。
俺はそういう暴力的なプレイはしたことがないんだが……
バーシティジャケットを脱いでソファの背もたれに掛けながら、キラキラした目で俺のことを見てくる。そんなミツルを手放したくはない。ミツルを逃したら次はいないかもしれないという思いもあるが、俺自身がミツルを欲しいと思った。
今日は初めてだし軽めに済ませて、帰ったらネットで調べてみよう。なんとか彼の希望に応えてやりたい。
「Safe wordを決めておこう」
「そんなの要らない」
「ダメだ。決めろ。使うかどうかはミツルの判断に任せる」
危なっかしい奴だな。Safe wordを決めずにプレイしようとするなんて。Safe wordはSubが使うCommandのようなもので、それを言ったらDomはプレイを止めなければいけない。Subを守るために必要なものだ。
「逆らってごめんなさい。ちゃんとSafe word決めるから罰をください」
「罰? ご褒美の間違いじゃないのか? 早く決めろ」
「はい。ごめんなさい。えっと、『レモンサワー』にする」
少し瞳を潤ませて謝るミツルに、こんな口調でいいのだろうか? と少し不安になりながら横柄な態度でSafe wordを決めさせた。
ミツルは意外と俺のことを見ていたらしい。さっき俺がレモンサワーを飲んでいたことをちゃんと見ていたんだな。それだけで少し嬉しいと思っている俺は、やっぱりミツルに惹かれているんだろう。
「分かった。忘れるなよ」
「はい」
俺のことを期待した眼差しで見ているが、困った。普通ならここでKneelとCommandを告げておすわりさせるんだが、それだとこいつは物足りないだろう。
「Strip」
「はい」
「遅い!」
バチーン
痛かっただろうか? 俺はノロノロと服を脱ぐミツルを平手で叩いた。
小さく華奢なミツルは立っていられず床に倒れたが、こちらを向いた顔は上気しており、うっとりとした表情だった。
力加減は難しいがこれでいいのか。不安を悟られないよう取り繕いながら、ゆっくり立ち上がるミツルを眺めた。
「ごめんなさい。罰をくれてありがとう」
そう言いながらミツルは服を全て脱いだ。
綺麗だ。本当は傷つけたくなんかないんだが……
「Good boyいいこだ」
裸になったミツルをそっと抱きしめてCareしてやると、ミツルはビクッと震えた。失敗したか?
CommandとCareは通常はセットだ。Domが指示を出してSubが従ったらCareとして褒めてやるのが当たり前だと思っていたが、ビクッと震えられると間違えたのかと不安になる。
「凄い……痛みのヒリつく感じと優しすぎるCareが気持ち良すぎる。こんなの初めて。タキさん好きです」
「そうか」
いきなりこんな可愛い子に好きだと告白されて俺は戸惑った。間違ってはいなかったらしい。手探りではあるが、なんとかなりそうだとホッとした。
「何度も言え。俺のことが好きだと」
「はい。好き。タキさん好き。大好き」
これは完全に役得だな。俺Domでよかった。
あぁ、可愛い。本当ならもっと甘やかしてやりたいのに。こいつは俺にそんなことは求めていないんだろう。
せめてCareの時だけは優しく労わってやろうと思った。
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