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三章
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「僕の親友アスカ・トヅキが初めて僕に見せてくれた空中映像は、この蛍だった」
薄暗いステージ上で、その瞳よりも深い色合いのセレストブルーのスーツを着こなしたヘンリー・ソールスベリーがすっと伸ばした掌の上に、小さな光が飛び交っている。
「その当時は、わずか十二インチの空間でしか飛ぶことが出来なかったこの蛍は、一年を経てここまで成長した」
指をパチンッと鳴らし蛍を消すと、反対の手にあるタブレットを自分の胸元まで持ち上げ、タップする。
「もう前のバージョンよりも何ミリ薄くなったとか、何グラム軽くなったとか、そんな話は無しにしようじゃないか。僕たちは、タブレットの新しい使い方を提案すべき時期にきたのだから」
ヘンリーは左手にタブレットを持ち、右手を大きく広げてみせる。
「これが、僕たちの提案する革命だ」
しーんと静まり返る会場に、「失礼。この角度ではきみ達からは見えないね」とお道化た仕草で肩をすくめ、にこやかに人差し指を立て、しなやかに腕を伸ばし、半円を描くようにくるりと背後を指し示す。
それまで何もなかった空間に、いきなり五十インチはある半透明のモニター画面が現れた。
会場から、どよめきと歓声が沸き起こる。その画面の中でも、ヘンリーの映像がタブレットを操作している。実際のヘンリーは、一、二歩後退って、腕を組んでモニターを眺めているのだ。
モニター内のヘンリーが正面を向き、「今、僕がどうやってこれを操作したか判ったかい?」と会場に問いかけた。
「夢を見ることは誰にでもできる。だが、アスカ・トヅキはこの夢に形を与えてくれた。どこかの夢想家の描いた白昼夢とは違う、実際に、自分の指で触れて操作できる夢の視覚だ」
モニターはすっと消え、再びヘンリーが口を開いた。
「どうやって操作するか説明しよう。初めに、自分の頬を抓ってこれが夢ではないことを確かめる。二番目に、タブレット画面の中央マークを見つめる。これで、瞳孔認証OKだ。いつでも、きみの視点に合わせた距離と高さでモニター画面が現れる」
その言葉に合わせて、再び半透明のモニターが現れ、画面が切り替わる。
「見えづらいだろう? 色をつけるよ」
ヘンリーの手許のタブレットから、白い等倍のモニターが立ち上がる。タブレットを演台に置くと、ヘンリーは両の指で空中に浮かんだモニターを囲うようにして広げて引っ張った。
「拡大。操作は、ジェスチャー・センサーで指先の動きを読み取るから、タブレット上でも、こうして空中のモニターに向かってでも、どちらからでもできる」
自分の眼前に浮いているモニター画面を上品な指先で四分割し、元の大きさにまで拡大すると、一つずつ指で誘って背後に、高さを変えて配置していく。
「タッチパネルが扱い辛いなら、従来のキーボードや、マウスも設置可能だ」
言葉と同時に、胸許にキーボードとマウスが現れる。
「後は、普段通り。パソコンやタブレットを扱うのと変わらない。変わるのはただ一つ。もうこれで、パソコンを設置するデスクが必要ないってことだ。僕たちはポケットにパソコンを入れ、どこにでも出かけてプレゼンテーションできる。この中に全てが収まっている」
ヘンリーは、ゆっくりと演台に置いたタブレットを持ち上げた。
そしてステージを横切り、設置されてあるソファーに腰かけ、優雅に足を組んで深くもたれかかる。
「こうやって寝そべっていても仕事ができる。ずぼらな僕にぴったりだろ?」
ヘンリーが指を鳴らす度に、まるで手品のようにモニター画面が現れては消えた。
再びステージ中央に戻り、大きく腕を振り上げて背後を指し示した。
「モニター画面は九十インチまで拡大可能だ。八画面まで分割も可能。分割した画面を繋ぎ合わせるとこんなことも可能になる」
ヘンリーの背後に、分割され、更に最大にまで拡大されたモニター画面が幾つも配置され、そのすべての画面にランダムに蛍が飛び交い鈴虫の声が鳴り渡った。
「これが、『杜月』と『コズモス』の夢の結晶」
すっと画面が切り替わる。新たに現れた、一本の枝に二匹の蛇の絡み合うアーカシャ―HDのロゴが映し出される一枚の巨大モニター画面中央に涼やかに進み出て、ヘンリーはくいっと顎を上げた。
「さぁ、机を捨てろ。そして、このトランス・スパークスを、きみの傍らに。もう、俯いてキーボードを叩く必要はないんだ。背筋を伸ばせ。頭を高く上げろ。誇り高く生きるんだ。僕たち、アーカシャ―HDは、このトランス・スパークスと共に、きみ達に新しい生き方を提案する」
薄暗いステージ上で、その瞳よりも深い色合いのセレストブルーのスーツを着こなしたヘンリー・ソールスベリーがすっと伸ばした掌の上に、小さな光が飛び交っている。
「その当時は、わずか十二インチの空間でしか飛ぶことが出来なかったこの蛍は、一年を経てここまで成長した」
指をパチンッと鳴らし蛍を消すと、反対の手にあるタブレットを自分の胸元まで持ち上げ、タップする。
「もう前のバージョンよりも何ミリ薄くなったとか、何グラム軽くなったとか、そんな話は無しにしようじゃないか。僕たちは、タブレットの新しい使い方を提案すべき時期にきたのだから」
ヘンリーは左手にタブレットを持ち、右手を大きく広げてみせる。
「これが、僕たちの提案する革命だ」
しーんと静まり返る会場に、「失礼。この角度ではきみ達からは見えないね」とお道化た仕草で肩をすくめ、にこやかに人差し指を立て、しなやかに腕を伸ばし、半円を描くようにくるりと背後を指し示す。
それまで何もなかった空間に、いきなり五十インチはある半透明のモニター画面が現れた。
会場から、どよめきと歓声が沸き起こる。その画面の中でも、ヘンリーの映像がタブレットを操作している。実際のヘンリーは、一、二歩後退って、腕を組んでモニターを眺めているのだ。
モニター内のヘンリーが正面を向き、「今、僕がどうやってこれを操作したか判ったかい?」と会場に問いかけた。
「夢を見ることは誰にでもできる。だが、アスカ・トヅキはこの夢に形を与えてくれた。どこかの夢想家の描いた白昼夢とは違う、実際に、自分の指で触れて操作できる夢の視覚だ」
モニターはすっと消え、再びヘンリーが口を開いた。
「どうやって操作するか説明しよう。初めに、自分の頬を抓ってこれが夢ではないことを確かめる。二番目に、タブレット画面の中央マークを見つめる。これで、瞳孔認証OKだ。いつでも、きみの視点に合わせた距離と高さでモニター画面が現れる」
その言葉に合わせて、再び半透明のモニターが現れ、画面が切り替わる。
「見えづらいだろう? 色をつけるよ」
ヘンリーの手許のタブレットから、白い等倍のモニターが立ち上がる。タブレットを演台に置くと、ヘンリーは両の指で空中に浮かんだモニターを囲うようにして広げて引っ張った。
「拡大。操作は、ジェスチャー・センサーで指先の動きを読み取るから、タブレット上でも、こうして空中のモニターに向かってでも、どちらからでもできる」
自分の眼前に浮いているモニター画面を上品な指先で四分割し、元の大きさにまで拡大すると、一つずつ指で誘って背後に、高さを変えて配置していく。
「タッチパネルが扱い辛いなら、従来のキーボードや、マウスも設置可能だ」
言葉と同時に、胸許にキーボードとマウスが現れる。
「後は、普段通り。パソコンやタブレットを扱うのと変わらない。変わるのはただ一つ。もうこれで、パソコンを設置するデスクが必要ないってことだ。僕たちはポケットにパソコンを入れ、どこにでも出かけてプレゼンテーションできる。この中に全てが収まっている」
ヘンリーは、ゆっくりと演台に置いたタブレットを持ち上げた。
そしてステージを横切り、設置されてあるソファーに腰かけ、優雅に足を組んで深くもたれかかる。
「こうやって寝そべっていても仕事ができる。ずぼらな僕にぴったりだろ?」
ヘンリーが指を鳴らす度に、まるで手品のようにモニター画面が現れては消えた。
再びステージ中央に戻り、大きく腕を振り上げて背後を指し示した。
「モニター画面は九十インチまで拡大可能だ。八画面まで分割も可能。分割した画面を繋ぎ合わせるとこんなことも可能になる」
ヘンリーの背後に、分割され、更に最大にまで拡大されたモニター画面が幾つも配置され、そのすべての画面にランダムに蛍が飛び交い鈴虫の声が鳴り渡った。
「これが、『杜月』と『コズモス』の夢の結晶」
すっと画面が切り替わる。新たに現れた、一本の枝に二匹の蛇の絡み合うアーカシャ―HDのロゴが映し出される一枚の巨大モニター画面中央に涼やかに進み出て、ヘンリーはくいっと顎を上げた。
「さぁ、机を捨てろ。そして、このトランス・スパークスを、きみの傍らに。もう、俯いてキーボードを叩く必要はないんだ。背筋を伸ばせ。頭を高く上げろ。誇り高く生きるんだ。僕たち、アーカシャ―HDは、このトランス・スパークスと共に、きみ達に新しい生き方を提案する」
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