6 / 13
パーティー
しおりを挟む
カヤは毎日シイクとパーティーを組んで狩りをしていた。
ログインすると大抵いつもシイクは先にログインしていて、すぐにササが飛んできた。逆にシイクが後からログインしてきた場合はカヤからすぐにササしている。
そして二人で一緒に狩りに行くのが日課になっていた。
狩場を移動していると、お墓を見つけることもあった。そんな時は周辺のモンスターを一掃し、声をかける様にしている。
もちろん蘇生が必要かどうかを聞くために。
喜ばれることもあれば、経験値ダウンが嫌で断られる場合もある。
たまに知らない人に声をかけられることもあった。目的はパーティーへの勧誘だ。
もちろんカヤを誘うのが目的ではなく、彼らの目当てはシイクだ。シイクのヒーラーとしての回復力が目当てなのだ。
シイクもレベルが15になり、身に付けている装備が村人装備から聖職者の衣装に変わっている。胸に十字架が刺繍された白地に青の衣装は、水彩画のような村でよく目立つ。
それを着ているだけで一目で聖職者だとわかった。
村人装備だったときも、武器のロッドを見れば聖職者だと判断できたが、武器は非表示に出来る。シイクは勧誘されることを嫌がって村では武器を非表示にしていたが、今はそれも無意味だ。
その日はカヤがログインすると、目の前にシイクがいた。
ここは村にある小さな酒場。その片隅にある四人掛けのテーブル席だ。
「おかえりなさい」
「ただいま、びっくりしたよ。どうしたの?」
「私もさっきログインしたところだから、ここで待ってました」
「そうなんだ。一人でいるとやっぱり勧誘多い?」
「はい、この衣装に変わってから特に……」
「ヒーラーは相変わらず需要が多いのかぁ、やっぱりパーティーは苦手?」
「はい、野良はどうしても好きになれません」
「だよな。俺も野良は嫌いだ」
野良とは野良パーティーの略で、面識のない人と組むパーティーの事だ。
これはカヤの体感だけど野良は良識人が少ない。他人同士だからと割り切っているのかも知れないが、挨拶もほとんどしない者が多い。たまに喋ってもため口だったり呼び捨てだったり、苦言だけを遠慮もなく言ってくる輩が多い気もする。
「じゃあ、誘われてもいつも断ってるの?」
「はい、悪いなぁとは思うんですけど、やっぱり怖くて」
「そっか……」
怖いと言うのはおそらくあの時の事だろう。
あれは数日前、三人組のパーティーに声をかけられた。
最初は断ったのだがその三人は諦めが悪いと言うか強引だった。それで仕方なかく五人でパーティーを組むことになった。
向かった場所は一哉も知らない狩場だった。彼がベータ時代にも行ったことが無い場所だ。三人中二人もその狩場は未経験だと言った。
ただその狩場では強力なレア装備がドロップするらしい。
そこは多種多様で大量のモンスターが沸く混沌とした場所だった。狩場というよりモンスターの巣窟と言った方がいいかも知れない。
作戦は魔法職を他の四人で死守し、その魔法職が強力な範囲魔法で一気に殲滅するという方法だった。ようは魔法職の殲滅力とヒーラーの回復力頼み。
一哉は無茶だと思った。モンスターの数が多すぎる。おそらく、盾役になる四人は何もできずにただ無数のモンスターから集中砲火を浴びるだろう。それを守るのはシイク一人だ。彼女のMPが持つかどうか、それより回復が間に合うかも心配だ。
しかしパーティーのリーダになった男が大丈夫だと言い切った。彼は五人の中でレベルも一番高かった。しかも野良でその狩場を経験したことがあると言った。その時も同じやり方で小一時間狩りをしたそうだ。
結局、多数決で決めようという事になり、三対二で狩りに行くことが決定した。ただし、一哉は一つだけ他の三人に約束させた。回復をヒーラー一人に押し付けずHPポーションを必ず飲むこと。三人がそれを承諾したので、もはや仕方が無かった。
…………
狩りはまさにカオスだった。
四人がモンスターにタコ殴りにされる中、魔法職が範囲魔法を唱えるが、ダメージ不足で殲滅には程遠く休憩する間が全くない。そんなだからシイクの回復魔法のエフェクトが途切れることがなかった。
カヤは何度かHPポーションを飲んでいた。シイクもMP回復が追い付かないのかMPポーションを飲みまくっている。それなのに……他の三人がHPポーションを飲んでるエフェクトが一度も見られなかった。
そんなカオスは十分弱で終わった。
一人が死に二人目が死に三人目が死んだ。残ったのはシイクとカヤだ。
カヤはシイクに逃げる様に言った。しかし彼女は一人だけ逃げられないと渋る。だが全滅したらそこで終わる。シイクさえ生きていれば蘇生が可能なんだと強要に近い説得をした。
カヤは彼らに、どうしてHPポーションを飲まなかったのと詰め寄った。彼らは躊躇いすら見せず全部飲んだと言った。カヤはそれを嘘だと見抜いた。彼らは平気で嘘をつける人間なんだと思うと怒りも沸いて来なかった。
しかしそんな彼らは狩りの失敗をシイクのせいにした。「ヒーラーさえもっとしっかりしてればな」「回復しょぼすぎ」「回復遅いし」ハッキリそう言った。
シイクは黙っていたがカヤはその言い分に我慢できなかった。シイクを除く三対一の罵り合いがはじまった。しかしそれを止めたのはシイクのササだ。
ただ一言『お願い、やめて』
それはたった七文字の単語に過ぎない。顔文字も無ければエモーションもない。ただの簡素な文字の羅列だ。
しかしカヤには、その時のシイクの顔が見えた気がした。キャラクターの顔ではなくリアルの顔だ。もちろん顔の造りや目鼻立ちはわからない。ただ彼女が泣いていると明確にわかってしまった。
カヤは「もういい」と口を塞いだ。カヤが黙ると他の三人もそれ以上は何も言ってこなかった。そしてリーダーがドロップ品に話題を振った。
みんながゴミしか出てないと言う中、シイクにレア装備がドロップしていた。
最初の決め事でドロップは出たもの勝ちということになっていた。それにもかかわらずリーダーの男は、「一人だけ逃げてペナルティーなしでレアドロップまで持ち逃げとかズルくないか」と言い出した。「少しでも反省してるならレアドロップは辞退するよな」「俺だったら絶対に貰えないわ」他の二人も同調する発言をした。
リーダーとシイクの頭上に取引中の吹き出しが現れた。二人の間にササでのやり取りがあったのかもしれないし、レアドロップ品がどうなったのか、カヤは知らない。
ただそんなことがあって以降、シイクはパーティーの誘いを全部断っている。
しかしパーティーへの誘いが減る訳じゃない。
シイクはその時のことにあまり触れたがらない。
だからカヤもそのことに触れない様にしている。
ログインすると大抵いつもシイクは先にログインしていて、すぐにササが飛んできた。逆にシイクが後からログインしてきた場合はカヤからすぐにササしている。
そして二人で一緒に狩りに行くのが日課になっていた。
狩場を移動していると、お墓を見つけることもあった。そんな時は周辺のモンスターを一掃し、声をかける様にしている。
もちろん蘇生が必要かどうかを聞くために。
喜ばれることもあれば、経験値ダウンが嫌で断られる場合もある。
たまに知らない人に声をかけられることもあった。目的はパーティーへの勧誘だ。
もちろんカヤを誘うのが目的ではなく、彼らの目当てはシイクだ。シイクのヒーラーとしての回復力が目当てなのだ。
シイクもレベルが15になり、身に付けている装備が村人装備から聖職者の衣装に変わっている。胸に十字架が刺繍された白地に青の衣装は、水彩画のような村でよく目立つ。
それを着ているだけで一目で聖職者だとわかった。
村人装備だったときも、武器のロッドを見れば聖職者だと判断できたが、武器は非表示に出来る。シイクは勧誘されることを嫌がって村では武器を非表示にしていたが、今はそれも無意味だ。
その日はカヤがログインすると、目の前にシイクがいた。
ここは村にある小さな酒場。その片隅にある四人掛けのテーブル席だ。
「おかえりなさい」
「ただいま、びっくりしたよ。どうしたの?」
「私もさっきログインしたところだから、ここで待ってました」
「そうなんだ。一人でいるとやっぱり勧誘多い?」
「はい、この衣装に変わってから特に……」
「ヒーラーは相変わらず需要が多いのかぁ、やっぱりパーティーは苦手?」
「はい、野良はどうしても好きになれません」
「だよな。俺も野良は嫌いだ」
野良とは野良パーティーの略で、面識のない人と組むパーティーの事だ。
これはカヤの体感だけど野良は良識人が少ない。他人同士だからと割り切っているのかも知れないが、挨拶もほとんどしない者が多い。たまに喋ってもため口だったり呼び捨てだったり、苦言だけを遠慮もなく言ってくる輩が多い気もする。
「じゃあ、誘われてもいつも断ってるの?」
「はい、悪いなぁとは思うんですけど、やっぱり怖くて」
「そっか……」
怖いと言うのはおそらくあの時の事だろう。
あれは数日前、三人組のパーティーに声をかけられた。
最初は断ったのだがその三人は諦めが悪いと言うか強引だった。それで仕方なかく五人でパーティーを組むことになった。
向かった場所は一哉も知らない狩場だった。彼がベータ時代にも行ったことが無い場所だ。三人中二人もその狩場は未経験だと言った。
ただその狩場では強力なレア装備がドロップするらしい。
そこは多種多様で大量のモンスターが沸く混沌とした場所だった。狩場というよりモンスターの巣窟と言った方がいいかも知れない。
作戦は魔法職を他の四人で死守し、その魔法職が強力な範囲魔法で一気に殲滅するという方法だった。ようは魔法職の殲滅力とヒーラーの回復力頼み。
一哉は無茶だと思った。モンスターの数が多すぎる。おそらく、盾役になる四人は何もできずにただ無数のモンスターから集中砲火を浴びるだろう。それを守るのはシイク一人だ。彼女のMPが持つかどうか、それより回復が間に合うかも心配だ。
しかしパーティーのリーダになった男が大丈夫だと言い切った。彼は五人の中でレベルも一番高かった。しかも野良でその狩場を経験したことがあると言った。その時も同じやり方で小一時間狩りをしたそうだ。
結局、多数決で決めようという事になり、三対二で狩りに行くことが決定した。ただし、一哉は一つだけ他の三人に約束させた。回復をヒーラー一人に押し付けずHPポーションを必ず飲むこと。三人がそれを承諾したので、もはや仕方が無かった。
…………
狩りはまさにカオスだった。
四人がモンスターにタコ殴りにされる中、魔法職が範囲魔法を唱えるが、ダメージ不足で殲滅には程遠く休憩する間が全くない。そんなだからシイクの回復魔法のエフェクトが途切れることがなかった。
カヤは何度かHPポーションを飲んでいた。シイクもMP回復が追い付かないのかMPポーションを飲みまくっている。それなのに……他の三人がHPポーションを飲んでるエフェクトが一度も見られなかった。
そんなカオスは十分弱で終わった。
一人が死に二人目が死に三人目が死んだ。残ったのはシイクとカヤだ。
カヤはシイクに逃げる様に言った。しかし彼女は一人だけ逃げられないと渋る。だが全滅したらそこで終わる。シイクさえ生きていれば蘇生が可能なんだと強要に近い説得をした。
カヤは彼らに、どうしてHPポーションを飲まなかったのと詰め寄った。彼らは躊躇いすら見せず全部飲んだと言った。カヤはそれを嘘だと見抜いた。彼らは平気で嘘をつける人間なんだと思うと怒りも沸いて来なかった。
しかしそんな彼らは狩りの失敗をシイクのせいにした。「ヒーラーさえもっとしっかりしてればな」「回復しょぼすぎ」「回復遅いし」ハッキリそう言った。
シイクは黙っていたがカヤはその言い分に我慢できなかった。シイクを除く三対一の罵り合いがはじまった。しかしそれを止めたのはシイクのササだ。
ただ一言『お願い、やめて』
それはたった七文字の単語に過ぎない。顔文字も無ければエモーションもない。ただの簡素な文字の羅列だ。
しかしカヤには、その時のシイクの顔が見えた気がした。キャラクターの顔ではなくリアルの顔だ。もちろん顔の造りや目鼻立ちはわからない。ただ彼女が泣いていると明確にわかってしまった。
カヤは「もういい」と口を塞いだ。カヤが黙ると他の三人もそれ以上は何も言ってこなかった。そしてリーダーがドロップ品に話題を振った。
みんながゴミしか出てないと言う中、シイクにレア装備がドロップしていた。
最初の決め事でドロップは出たもの勝ちということになっていた。それにもかかわらずリーダーの男は、「一人だけ逃げてペナルティーなしでレアドロップまで持ち逃げとかズルくないか」と言い出した。「少しでも反省してるならレアドロップは辞退するよな」「俺だったら絶対に貰えないわ」他の二人も同調する発言をした。
リーダーとシイクの頭上に取引中の吹き出しが現れた。二人の間にササでのやり取りがあったのかもしれないし、レアドロップ品がどうなったのか、カヤは知らない。
ただそんなことがあって以降、シイクはパーティーの誘いを全部断っている。
しかしパーティーへの誘いが減る訳じゃない。
シイクはその時のことにあまり触れたがらない。
だからカヤもそのことに触れない様にしている。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる