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パーティー

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 カヤは毎日シイクとパーティーを組んで狩りをしていた。
 ログインすると大抵いつもシイクは先にログインしていて、すぐにササが飛んできた。逆にシイクが後からログインしてきた場合はカヤからすぐにササしている。
 そして二人で一緒に狩りに行くのが日課になっていた。

 狩場を移動していると、お墓を見つけることもあった。そんな時は周辺のモンスターを一掃し、声をかける様にしている。
 もちろん蘇生が必要かどうかを聞くために。
 喜ばれることもあれば、経験値ダウンが嫌で断られる場合もある。

 たまに知らない人に声をかけられることもあった。目的はパーティーへの勧誘だ。
 もちろんカヤを誘うのが目的ではなく、彼らの目当てはシイクだ。シイクのヒーラーとしての回復力が目当てなのだ。

 シイクもレベルが15になり、身に付けている装備が村人装備から聖職者の衣装に変わっている。胸に十字架が刺繍された白地に青の衣装は、水彩画のような村でよく目立つ。
 それを着ているだけで一目で聖職者だとわかった。
 村人装備だったときも、武器のロッドを見れば聖職者だと判断できたが、武器は非表示に出来る。シイクは勧誘されることを嫌がって村では武器を非表示にしていたが、今はそれも無意味だ。

 その日はカヤがログインすると、目の前にシイクがいた。
 ここは村にある小さな酒場バー。その片隅にある四人掛けのテーブル席だ。

「おかえりなさい」
「ただいま、びっくりしたよ。どうしたの?」
「私もさっきログインしたところだから、ここで待ってました」
「そうなんだ。一人でいるとやっぱり勧誘多い?」
「はい、この衣装に変わってから特に……」
「ヒーラーは相変わらず需要が多いのかぁ、やっぱりパーティーは苦手?」
「はい、野良はどうしても好きになれません」
「だよな。俺も野良は嫌いだ」

 野良とは野良パーティーの略で、面識のない人と組むパーティーの事だ。
 これはカヤの体感だけど野良は良識人が少ない。他人同士だからと割り切っているのかも知れないが、挨拶もほとんどしない者が多い。たまに喋ってもため口だったり呼び捨てだったり、苦言だけを遠慮もなく言ってくる輩が多い気もする。

「じゃあ、誘われてもいつも断ってるの?」
「はい、悪いなぁとは思うんですけど、やっぱり怖くて」
「そっか……」

 怖いと言うのはおそらくあの時の事だろう。
 あれは数日前、三人組のパーティーに声をかけられた。
 最初は断ったのだがその三人は諦めが悪いと言うか強引だった。それで仕方なかく五人でパーティーを組むことになった。
 向かった場所は一哉も知らない狩場だった。彼がベータ時代にも行ったことが無い場所だ。三人中二人もその狩場は未経験だと言った。
 ただその狩場では強力なレア装備がドロップするらしい。

 そこは多種多様で大量のモンスターが沸く混沌とした場所だった。狩場というよりモンスターの巣窟と言った方がいいかも知れない。
 作戦は魔法職を他の四人で死守し、その魔法職が強力な範囲魔法で一気に殲滅するという方法だった。ようは魔法職の殲滅力とヒーラーの回復力頼み。

 一哉は無茶だと思った。モンスターの数が多すぎる。おそらく、盾役になる四人は何もできずにただ無数のモンスターから集中砲火を浴びるだろう。それを守るのはシイク一人だ。彼女のMPが持つかどうか、それより回復が間に合うかも心配だ。

 しかしパーティーのリーダになった男が大丈夫だと言い切った。彼は五人の中でレベルも一番高かった。しかも野良でその狩場を経験したことがあると言った。その時も同じやり方で小一時間狩りをしたそうだ。

 結局、多数決で決めようという事になり、三対二で狩りに行くことが決定した。ただし、一哉は一つだけ他の三人に約束させた。回復をヒーラー一人に押し付けずHPポーションを必ず飲むこと。三人がそれを承諾したので、もはや仕方が無かった。

 …………

 狩りはまさにカオスだった。
 四人がモンスターにタコ殴りにされる中、魔法職が範囲魔法を唱えるが、ダメージ不足で殲滅には程遠く休憩する間が全くない。そんなだからシイクの回復魔法のエフェクトが途切れることがなかった。
 カヤは何度かHPポーションを飲んでいた。シイクもMP回復が追い付かないのかMPポーションを飲みまくっている。それなのに……他の三人がHPポーションを飲んでるエフェクトが一度も見られなかった。

 そんなカオスは十分弱で終わった。
 一人が死に二人目が死に三人目が死んだ。残ったのはシイクとカヤだ。
 カヤはシイクに逃げる様に言った。しかし彼女は一人だけ逃げられないと渋る。だが全滅したらそこで終わる。シイクさえ生きていれば蘇生が可能なんだと強要に近い説得をした。

 カヤは彼らに、どうしてHPポーションを飲まなかったのと詰め寄った。彼らは躊躇いすら見せず全部飲んだと言った。カヤはそれを嘘だと見抜いた。彼らは平気で嘘をつける人間なんだと思うと怒りも沸いて来なかった。

 しかしそんな彼らは狩りの失敗をシイクのせいにした。「ヒーラーさえもっとしっかりしてればな」「回復しょぼすぎ」「回復遅いし」ハッキリそう言った。
 シイクは黙っていたがカヤはその言い分に我慢できなかった。シイクを除く三対一の罵り合いがはじまった。しかしそれを止めたのはシイクのササだ。

 ただ一言『お願い、やめて』

 それはたった七文字の単語に過ぎない。顔文字も無ければエモーションもない。ただの簡素な文字の羅列だ。
 しかしカヤには、その時のシイクの顔が見えた気がした。キャラクターの顔ではなくリアルの顔だ。もちろん顔の造りや目鼻立ちはわからない。ただ彼女が泣いていると明確にわかってしまった。

 カヤは「もういい」と口を塞いだ。カヤが黙ると他の三人もそれ以上は何も言ってこなかった。そしてリーダーがドロップ品に話題を振った。
 みんながゴミしか出てないと言う中、シイクにレア装備がドロップしていた。

 最初の決め事でドロップは出たもの勝ちということになっていた。それにもかかわらずリーダーの男は、「一人だけ逃げてペナルティーなしでレアドロップまで持ち逃げとかズルくないか」と言い出した。「少しでも反省してるならレアドロップは辞退するよな」「俺だったら絶対に貰えないわ」他の二人も同調する発言をした。

 リーダーとシイクの頭上に取引中の吹き出しが現れた。二人の間にササでのやり取りがあったのかもしれないし、レアドロップ品がどうなったのか、カヤは知らない。

 ただそんなことがあって以降、シイクはパーティーの誘いを全部断っている。
 しかしパーティーへの誘いが減る訳じゃない。

 シイクはその時のことにあまり触れたがらない。
 だからカヤもそのことに触れない様にしている。

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