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第六章.醜い■■の■
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「急げ! 早くしろ!」
「もっと情報を掻き集めて来い!」
そんな怒号が聞こえる廊下を静かに歩く……特段なにかをする訳でもないのに俺が通ると自然と道が開いていくのは何度経験しても慣れんし、少しだけ寂しい気もする……俺の強面を初見でも怯えずに普通に接するという事は案外難しいらしい。……まだ歳若いアリシアは出来たと言うのにな。
「……」
そうだ、そのアリシアだ……俺の直属の部下であり、相棒である彼女は今ここには居ない。
確か休暇を利用して友人と旅行の最中に事件に遭遇し、領主の謀に首を突っ込む形になり、さらには魔法使い達の企みに巻き込まれたらしい……あの少女はつくづく混沌に魅入られているらしい。
アリシアの上司である事と、丁度手が空いた為に狩人は俺しか派遣されて来てないが……ヴェロニカやシーラにも声を掛ければ直ぐに来てくれるだろうか?
「こちらになります。……ガイウス・マンファン特務中尉殿が来られました!」
『……入れてくれ』
その言葉を合図に部屋に入ると同時に案内の者に手を振って退出を促す……それを見て部屋の主も悟ってくれたのか、既に部屋の中に居た者達にも目配せをして退出をさせる。
関係者以外が全員退出し、扉が閉められると同時に上着を脱いで黒の軍服を露わにする。
「……さて、ホラド警察支局長殿? お話をお聞かせ願いますかな」
「……」
「おっと、これは失礼。私はガイウス・マンファン特務中尉──特別対魔機関バルバトス所属の特務狩人です」
上着を脱いだ時点で目を見開き、私が所属を名乗れば生唾を飲み込む相手を見て、『ちゃんと今の立場を理解しているようだ』という感想を抱く。
……大方、中央からただの警察武官が情報収集に来ただけだと思ったのだろう……まだ本格的な捜査は始まらないとでも思ったのだろう……時間が稼げるとでも思ったのだろう……ふざけるな。
「……ほ、ホラド警察支局長の……ゆ、ユリウス・ディレスです」
「以後よろしく頼む」
「え、えぇ」
表面上はにこやかに握手を交わし、出された紅茶を一口含んで『美味しいですな』等と心にもないお世辞を言う……既に汗が止まらないのか、額をひたすらハンカチで拭う目の前の男が滑稽過ぎて肴にもなりはしない。
「実は巻き込まれた狩人の少女は私の部下でして」
「っ?! …………そ、それはそれは」
「長いこと魔法使い達を狩って来たが、今までペアを組んだ部下を……少なくとも俺と組んでる間は死なせた事が無いのが密かな自慢だ」
「……」
不味いな、少し口調が崩れて素が出始めている……が、まぁいいか。
それだけコチラが本気で怒っているという事が図らずともポーズとして相手に伝わるだろう……なんなら隠すのではかく、いっそのこと開き直って素を出しまくってみるか? その方が相手にも『私達は怒ってますよ』という事を伝わるための演技だと思ってくれそうだしな。
「任務中なら……俺と行動している時に今回の様な事が起こってしまったなら、素直に自分の力不足で部下を……と、反省や後悔するところだ」
「……」
「だがまさか身内の裏切りによって、俺が居ない時に、一人の優秀な若者を嵌め、生死不明の状態に追い込むなど──」
アリシアは優秀な奴だった、歴代最高の適合率の成せる技か……あの歳で既に『覚醒』を扱い、息をする様に猟犬の素となった生前の魔法使いの得意な職能を引き出していた……あのボーゼス中佐の弟子でもある。……死なせて良い人材ではない。
……いや? 敵であり、狩人の中には恨む者も多い魔法使いに対しても普通に……特別扱いでもなく、普通に心を砕く心根の美しい少女が受けて良い仕打ちではない。
「──恥を知れッ!!」
「ひ、ヒィイ!」
私の怒りの感情に〝共感〟したアレクサンダーが発した極小さな稲光が部屋を舐め、調度品の壺や観葉植物を一瞬にして破裂させる。
……失敗した。これでは演技ではなく本気で怒っていると思われるではないか。
「わ、私は何も知りません……!!」
「……そうか」
頭を抱えて震えながら自身の罪を否定する奴に向けて布包みを三本ほど放り投げる……確かな重量を持ったそれが執務机の上に乗ったのに気付き、恐る恐る顔を上げる相手を白けた目で見る
「こ、これは……?」
「開けてみろ」
「? ……………………ひっ!」
白い三本の布包み……それから出てきたのは全て──人の右腕だ。
「その裏切り者達は既に捕らえてある」
「……」
「大金を積まれて逃がしたようだが……残念だったな、証言も取ってある」
肥沃する褐色の大地から『呪具』等を貸与して貰っていたようだが所詮は魔法使いでも狩人でもない、ただの警察武官……軍人だ。猟犬すら使わずに制圧できた。
情報についても口は固かったが、先ほどこの部屋に来る前に拷問で吐かせた……青い顔をする目の前の男に顔を近付ける。
「……元領主は何処だ?」
「し、知りません! ──ヒィッ!」
腕を振り下ろして執務机を真っ二つに割る事で恫喝する。
「ほ、本当なんです! 私はただお金を渡されただけで……か、彼らを逃がす手助けを少ししただけで何も知らないんです!」
「本当だな?」
「ほ、本当です!」
「……拘束しろ」
私の一言で外からバルバトス所属の人員が元ホラド警察支局長を拘束するべく入って来る……腰を抜かせた男を無理やり立たせ、念の為に魔力を封じるガナン諸言語の刻まれた聖骸布で縛り上げられられる。
有用な情報は何も持っていない小物だったが……後で陛下の裁可が下るだろう。恐らく一族郎党連座で死刑だ。……一時の大金に目が眩んだにしては重い罰だとは思うが、それによる影響の方が大き過ぎるから仕方ない。
「……ガイウス中尉殿」
「どうした?」
「……その、下で『アリシアからの伝言があるから、ガイウス・マンファンという警察武官に会わせて欲しい』と騒ぐ少女が二人ほど居るようでして……」
「……そうか、直ぐに行こう」
今回の事件を解決する為に陛下より預けられた部下の一人の言葉を聞き、直ぐに部屋を出る……部屋の前で待機していたであろう、怯えた表情をしていた元警察支局長の側近達を一瞥し、『あれらも拘束しておけ』と指示を出してから数人の部下を引き連れて下に降りる。
「だから! アリシアからの伝言が──」
「──なんの騒ぎだ?」
「っ! ……誰?」
偶然を装って騒ぎの中止へと声を掛ける。
露骨にホッとした様な表情を浮かべる警備員に労いの言葉を掛けてから持ち場に戻る様に伝え、目の前の少女達を見る……アリシアと同年代に見えるが、一緒に旅行していたという友人か?
しかし報告ではアリシアと合わせて二人だけだとの話だが……もう一人の子どもはなんだ?
「失礼。ガイウス・マンファン特務中尉だ、警察武官をしている」
「っ! 貴方が……?」
「嘘じゃないよ」
「そう」
……? ……あぁ、思ったよりも強面だったから疑ったのか、もう慣れた方が良いのかも知れんな……まぁ子どもの方が信じてくれたようだが。
「それで? 伝言とは?」
「……その前に信用できるかどうか、いくつか質問をして良い?」
「貴様っ!」
「構わん……質問とは?」
部下の一人を諌め、手振りで残りの者達にも数歩程度下がるように要求する……言外に『邪魔するな』というのが正しく伝わったようで、綺麗に整列し、息を合わせた動きで同時に数歩下がる……さすがに訓練されているな。
「貴方はこの件に関わってない?」
「質問の仕方が悪い。俺は今現在進行形で今回の事件に関わっている……お前が聞きたいのは領主達と結託しているか否かだろう? 答えは否だ」
「……嘘じゃないよ」
「……失礼しました」
む、少し口調が強かっただろうか? 先ほど拷問からの尋問と……少し荒事をしたばっかりだったせいだろうか?
……そのせいでアリシアの友人達を怖がらせてしまったようだ……『ねぇ、このオジサン怖くない? アンジュちびりそう』『しっ! 口に出しちゃダメだよ!』なんて小声で聞こえてきてしまう。
「ごほん! ……貴方はアリシアを助ける気はありますか?」
「無論だ」
「貴方にはその力がありますか?」
「一人では無理だ」
「既に何か行動を起こしましたか?」
「裏切り者の警察武官三名を拘束し、拷問して来たところだ」
……なんだ? 何を探られている? こんな質問をした所で俺が信用に足る人間だと分かるのか? こんなもの、誰でも同じように答えると思うが……先ほどから俺の事をジッと見つめる子どもが原因か? まさか人が嘘を吐いているかどうか分かるのか?
「全部嘘じゃないよ」
「満足したか?」
「……えぇ、失礼しました」
「いや構わん……それで伝言とは?」
アリシアは一人でも何かを掴んだ……そしてそれを友人に託して私に伝えようとしているのだろう。……まだコチラには元領主が魔法使い達と結託して何かを企み、それに気付き阻止しようとしたアリシアと交戦……そのままアリシアは生死も行方も不明となったままだ。
アリシアがまだ健在だった時に連絡を貰った時は別件の任務中で動けなかったのが悔やまれる……なぜあの時に限って誰一人として狩人の手が空いていなかったのか? 疑問が残るが仕方ない。
俺が『ホラド伯爵領』に辿り着いた時には一晩が経ち、アリシアも元領主も行方不明と来た……もう少し遅ければ警察武官三名も逃がしたかも知れん。
「はい、アリシアからの伝言です……『豊かな影 堕落するロザリオ 走る船』……との事です」
「……そうか」
なるほど、この友人は狩人でないため意味が分からないみたいだが……良く分かった。
『豊かな影』は肥沃する褐色の大地を指し、また奈落の底は『深い影』となる。『堕落するロザリオ』とは最近できたばっかりの符号で……人を魔物に堕天させる道具の事だろう。もしくはそれに近しい物が関わっているのか……だとしたら人手不足も良いところだ。
そして最後の『走る船』とは──
「──ガイウス中尉殿! 海岸にて軍属と見られる少女が『魔境・哀哭の船』に海岸線ごと喰われたとの目撃情報が! それによって市民が怯え切っております!」
顔を青ざめさせ、腰を抜かしてしまうアリシアの友人を支えながら──どうやって大事な部下を救い出すかに頭を悩ませる。
▼▼▼▼▼▼▼
「もっと情報を掻き集めて来い!」
そんな怒号が聞こえる廊下を静かに歩く……特段なにかをする訳でもないのに俺が通ると自然と道が開いていくのは何度経験しても慣れんし、少しだけ寂しい気もする……俺の強面を初見でも怯えずに普通に接するという事は案外難しいらしい。……まだ歳若いアリシアは出来たと言うのにな。
「……」
そうだ、そのアリシアだ……俺の直属の部下であり、相棒である彼女は今ここには居ない。
確か休暇を利用して友人と旅行の最中に事件に遭遇し、領主の謀に首を突っ込む形になり、さらには魔法使い達の企みに巻き込まれたらしい……あの少女はつくづく混沌に魅入られているらしい。
アリシアの上司である事と、丁度手が空いた為に狩人は俺しか派遣されて来てないが……ヴェロニカやシーラにも声を掛ければ直ぐに来てくれるだろうか?
「こちらになります。……ガイウス・マンファン特務中尉殿が来られました!」
『……入れてくれ』
その言葉を合図に部屋に入ると同時に案内の者に手を振って退出を促す……それを見て部屋の主も悟ってくれたのか、既に部屋の中に居た者達にも目配せをして退出をさせる。
関係者以外が全員退出し、扉が閉められると同時に上着を脱いで黒の軍服を露わにする。
「……さて、ホラド警察支局長殿? お話をお聞かせ願いますかな」
「……」
「おっと、これは失礼。私はガイウス・マンファン特務中尉──特別対魔機関バルバトス所属の特務狩人です」
上着を脱いだ時点で目を見開き、私が所属を名乗れば生唾を飲み込む相手を見て、『ちゃんと今の立場を理解しているようだ』という感想を抱く。
……大方、中央からただの警察武官が情報収集に来ただけだと思ったのだろう……まだ本格的な捜査は始まらないとでも思ったのだろう……時間が稼げるとでも思ったのだろう……ふざけるな。
「……ほ、ホラド警察支局長の……ゆ、ユリウス・ディレスです」
「以後よろしく頼む」
「え、えぇ」
表面上はにこやかに握手を交わし、出された紅茶を一口含んで『美味しいですな』等と心にもないお世辞を言う……既に汗が止まらないのか、額をひたすらハンカチで拭う目の前の男が滑稽過ぎて肴にもなりはしない。
「実は巻き込まれた狩人の少女は私の部下でして」
「っ?! …………そ、それはそれは」
「長いこと魔法使い達を狩って来たが、今までペアを組んだ部下を……少なくとも俺と組んでる間は死なせた事が無いのが密かな自慢だ」
「……」
不味いな、少し口調が崩れて素が出始めている……が、まぁいいか。
それだけコチラが本気で怒っているという事が図らずともポーズとして相手に伝わるだろう……なんなら隠すのではかく、いっそのこと開き直って素を出しまくってみるか? その方が相手にも『私達は怒ってますよ』という事を伝わるための演技だと思ってくれそうだしな。
「任務中なら……俺と行動している時に今回の様な事が起こってしまったなら、素直に自分の力不足で部下を……と、反省や後悔するところだ」
「……」
「だがまさか身内の裏切りによって、俺が居ない時に、一人の優秀な若者を嵌め、生死不明の状態に追い込むなど──」
アリシアは優秀な奴だった、歴代最高の適合率の成せる技か……あの歳で既に『覚醒』を扱い、息をする様に猟犬の素となった生前の魔法使いの得意な職能を引き出していた……あのボーゼス中佐の弟子でもある。……死なせて良い人材ではない。
……いや? 敵であり、狩人の中には恨む者も多い魔法使いに対しても普通に……特別扱いでもなく、普通に心を砕く心根の美しい少女が受けて良い仕打ちではない。
「──恥を知れッ!!」
「ひ、ヒィイ!」
私の怒りの感情に〝共感〟したアレクサンダーが発した極小さな稲光が部屋を舐め、調度品の壺や観葉植物を一瞬にして破裂させる。
……失敗した。これでは演技ではなく本気で怒っていると思われるではないか。
「わ、私は何も知りません……!!」
「……そうか」
頭を抱えて震えながら自身の罪を否定する奴に向けて布包みを三本ほど放り投げる……確かな重量を持ったそれが執務机の上に乗ったのに気付き、恐る恐る顔を上げる相手を白けた目で見る
「こ、これは……?」
「開けてみろ」
「? ……………………ひっ!」
白い三本の布包み……それから出てきたのは全て──人の右腕だ。
「その裏切り者達は既に捕らえてある」
「……」
「大金を積まれて逃がしたようだが……残念だったな、証言も取ってある」
肥沃する褐色の大地から『呪具』等を貸与して貰っていたようだが所詮は魔法使いでも狩人でもない、ただの警察武官……軍人だ。猟犬すら使わずに制圧できた。
情報についても口は固かったが、先ほどこの部屋に来る前に拷問で吐かせた……青い顔をする目の前の男に顔を近付ける。
「……元領主は何処だ?」
「し、知りません! ──ヒィッ!」
腕を振り下ろして執務机を真っ二つに割る事で恫喝する。
「ほ、本当なんです! 私はただお金を渡されただけで……か、彼らを逃がす手助けを少ししただけで何も知らないんです!」
「本当だな?」
「ほ、本当です!」
「……拘束しろ」
私の一言で外からバルバトス所属の人員が元ホラド警察支局長を拘束するべく入って来る……腰を抜かせた男を無理やり立たせ、念の為に魔力を封じるガナン諸言語の刻まれた聖骸布で縛り上げられられる。
有用な情報は何も持っていない小物だったが……後で陛下の裁可が下るだろう。恐らく一族郎党連座で死刑だ。……一時の大金に目が眩んだにしては重い罰だとは思うが、それによる影響の方が大き過ぎるから仕方ない。
「……ガイウス中尉殿」
「どうした?」
「……その、下で『アリシアからの伝言があるから、ガイウス・マンファンという警察武官に会わせて欲しい』と騒ぐ少女が二人ほど居るようでして……」
「……そうか、直ぐに行こう」
今回の事件を解決する為に陛下より預けられた部下の一人の言葉を聞き、直ぐに部屋を出る……部屋の前で待機していたであろう、怯えた表情をしていた元警察支局長の側近達を一瞥し、『あれらも拘束しておけ』と指示を出してから数人の部下を引き連れて下に降りる。
「だから! アリシアからの伝言が──」
「──なんの騒ぎだ?」
「っ! ……誰?」
偶然を装って騒ぎの中止へと声を掛ける。
露骨にホッとした様な表情を浮かべる警備員に労いの言葉を掛けてから持ち場に戻る様に伝え、目の前の少女達を見る……アリシアと同年代に見えるが、一緒に旅行していたという友人か?
しかし報告ではアリシアと合わせて二人だけだとの話だが……もう一人の子どもはなんだ?
「失礼。ガイウス・マンファン特務中尉だ、警察武官をしている」
「っ! 貴方が……?」
「嘘じゃないよ」
「そう」
……? ……あぁ、思ったよりも強面だったから疑ったのか、もう慣れた方が良いのかも知れんな……まぁ子どもの方が信じてくれたようだが。
「それで? 伝言とは?」
「……その前に信用できるかどうか、いくつか質問をして良い?」
「貴様っ!」
「構わん……質問とは?」
部下の一人を諌め、手振りで残りの者達にも数歩程度下がるように要求する……言外に『邪魔するな』というのが正しく伝わったようで、綺麗に整列し、息を合わせた動きで同時に数歩下がる……さすがに訓練されているな。
「貴方はこの件に関わってない?」
「質問の仕方が悪い。俺は今現在進行形で今回の事件に関わっている……お前が聞きたいのは領主達と結託しているか否かだろう? 答えは否だ」
「……嘘じゃないよ」
「……失礼しました」
む、少し口調が強かっただろうか? 先ほど拷問からの尋問と……少し荒事をしたばっかりだったせいだろうか?
……そのせいでアリシアの友人達を怖がらせてしまったようだ……『ねぇ、このオジサン怖くない? アンジュちびりそう』『しっ! 口に出しちゃダメだよ!』なんて小声で聞こえてきてしまう。
「ごほん! ……貴方はアリシアを助ける気はありますか?」
「無論だ」
「貴方にはその力がありますか?」
「一人では無理だ」
「既に何か行動を起こしましたか?」
「裏切り者の警察武官三名を拘束し、拷問して来たところだ」
……なんだ? 何を探られている? こんな質問をした所で俺が信用に足る人間だと分かるのか? こんなもの、誰でも同じように答えると思うが……先ほどから俺の事をジッと見つめる子どもが原因か? まさか人が嘘を吐いているかどうか分かるのか?
「全部嘘じゃないよ」
「満足したか?」
「……えぇ、失礼しました」
「いや構わん……それで伝言とは?」
アリシアは一人でも何かを掴んだ……そしてそれを友人に託して私に伝えようとしているのだろう。……まだコチラには元領主が魔法使い達と結託して何かを企み、それに気付き阻止しようとしたアリシアと交戦……そのままアリシアは生死も行方も不明となったままだ。
アリシアがまだ健在だった時に連絡を貰った時は別件の任務中で動けなかったのが悔やまれる……なぜあの時に限って誰一人として狩人の手が空いていなかったのか? 疑問が残るが仕方ない。
俺が『ホラド伯爵領』に辿り着いた時には一晩が経ち、アリシアも元領主も行方不明と来た……もう少し遅ければ警察武官三名も逃がしたかも知れん。
「はい、アリシアからの伝言です……『豊かな影 堕落するロザリオ 走る船』……との事です」
「……そうか」
なるほど、この友人は狩人でないため意味が分からないみたいだが……良く分かった。
『豊かな影』は肥沃する褐色の大地を指し、また奈落の底は『深い影』となる。『堕落するロザリオ』とは最近できたばっかりの符号で……人を魔物に堕天させる道具の事だろう。もしくはそれに近しい物が関わっているのか……だとしたら人手不足も良いところだ。
そして最後の『走る船』とは──
「──ガイウス中尉殿! 海岸にて軍属と見られる少女が『魔境・哀哭の船』に海岸線ごと喰われたとの目撃情報が! それによって市民が怯え切っております!」
顔を青ざめさせ、腰を抜かしてしまうアリシアの友人を支えながら──どうやって大事な部下を救い出すかに頭を悩ませる。
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