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第六章.醜い■■の■

5.観察

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僕の名前はアンジュ・カトリーナ十二歳、名探偵である。自分で言うのも何だけれど、僕は観察力や推理力はとても素晴らしいものを持っているという自負がある。
 何故こんなにも傍から見たら根拠のない自信を持っているのかと言われると……そんなものは〝事実そうだから〟としか言えない。

「この子、本当に大丈夫かしら?」

 そんな僕が今一番興味があって間近で観察している女性​──アリシア・スカーレット准尉。
 彼女はとても興味深い……彼女には何か重大で面白い秘密があると僕の勘が囁いている。彼女に着いて行けば絶対に自分の人生観を変えるような……そんな予感。

「お姉さん、大丈夫だってば……後は起きた時に栄養がって食べやすい物を用意しておけば良いよ」

「……そうね、いきなり多く食べさせるとあれだから……麦粥とかが良いかしら?」

 そんでもってこのお姉さんは十中八九​──狩人だ。確証も根拠もある訳ではないけれど、お姉さんは狩人でありながらガナン人をわざわざバスを停めてまで助け出し、魔法使いであるお婆さんを庇った……ね? 面白そうでしょ?
 あの身体中の傷も、ただの警察武官なら異常だけれど、魔法使いや時に魔物と単身生身でドンパチ殺り合うイカれた狩人なら納得さ。

「アリシア、そろそろ着くわよ」

「えぇ、分かったわ」

 最初はどうやって伯爵位を持つ領主に聴取をするのかなって考えてたけど、狩人なら問題ないね。もしもゼイポ騎士爵の上からホラド伯爵が来ても、そっちの身分を開示すれば黙らせられるんだもん。
 それに多分だけど、あの常に持ち歩いているアタッシュケース……あれが噂に聞く〝対魔法使い兵器・猟犬〟だろうね。
 
……ちょっと見てみたいな。頼んだら見せてくれないかな? ……まぁ無理だろうね。

「さて、と……まずその子をどうするつもりかね? まさかそのまま普通に病院に連れて行く気じゃないだろうね?」

「それ、は……」

 あー、確かにその問題があったね……いくら肌の色がレナリア人に近いと言っても、入念な検査をしたら即バレるだろうし……かといって素人が診れる訳じゃないし……ふぅむ、探偵は医療知識にも明るくあるべきかな?

「近くに適当なホテルでも取りな、後は私が診ておくよ」

「……いいのですか?」

「魔法使いの事は魔法使いが一番良く分かってるからね」

 ほへ~、やっぱりこのお婆さん好きだなぁ……偶に口調がキツイ時もあるけど、全体的に人の良さが滲み出てるんだよねぇ……稀にくれる飴玉はすこぶる不味いけど。……なんで年寄りのお菓子ってあんなに美味しくないんだろうね?

「……ありがとうございます」

「礼なんていらないさ、若い時はもっと図々しくなきゃ」

 そうさ! だから僕ももっと図々しく事件に首を突っ込んでは解決に導くのさ! 今まで僕がどれほどの難事件を解決したと思ってるんだ……迷子の犬の捜索、娘の似顔絵、夫婦喧嘩の仲裁……特に近所の悪ガキが割って隠したティーカップ探しは骨が折れたね。

「とりあえず後は私達がなんとかするから、アリシアは先に仕事を終わらせて来て大丈夫だよ」

「……そう? じゃあリーゼリット達に任せるわね」

 おや? 余計な事を考えてたらここでお姉さんと離れる予感……それはちょっと嫌だなぁ? 騎士爵の屋敷にも興味があるし、ここは強引にでもついて行こうかな。

「僕はお姉さんと行くよ」

「分かってるわよ、さっさと行くわよ」

「ありゃ?」

 てっきりまたやんわり断られるかと思ってたんだけど……なんか普通に良さそう? 良いの? ついて行っちゃうよ? もうやっぱりダメって言っても無駄だからね? ……よっしゃ、ついて行こう。

「じゃあリーゼリットとお婆さん、よろしく頼むわね」

「良いよ良いよ」

「構わないさね」

「じゃーねー!」

 お姉さんが挨拶するのに続いて金髪のお姉さんとお婆さんも返事を返す……それに合わせて僕も手を振ってその場を離れる。

「ゼイポ騎士爵の屋敷までは割と近いみたいね」

「そりゃね、ほぼ農園しかない田舎領主みたいなものだし」

「……そ、そうね」

 ちょっとした町って感じの『ゼイポ地区』の中心地にある屋敷を目指せば良いだけだもんね。
 しかもその途中途中で家が途切れて、チューリップ畑になるもんだから、少し広めの村と言っても違和感がないくらいだし。

「そこで止まってください」

「身分証と、来訪予定がありましたらそれを証明する物もご一緒にご提示ください」

 『ほわ~』って周囲のチューリップ畑を目をキラキラさせながら、幼さの残る無邪気な笑顔で見回していたお姉さんを苦笑しながら観察していたら着いたみたいだね。

「アリシア・スカーレット准尉です。今回はゼイポ騎士爵の娘さんが殺された件についてお話を伺いに参りました」

「そんな事は​──」

「​──アリシア・スカーレット女男爵が来た、と言い換えても構いません」

「……少々お待ちください」

 おおう、半ば強引に話を持って行ったね……流石に門番程度の独断じゃあ、主人よりも二つ階級が上の貴族の来訪を門前払い出来ないよね。残った門番の人も居心地悪そうにしてるなぁ……まぁ一回門前払い仕掛けたもんね。

「……ゼイポ騎士爵が犯人だと思うかい?」

「そんなの、まだ分からないわよ」

 まぁそうだよね、まだ分からないよね……というかお姉さんも大変だよね~? 旅行か仕事かは知らないけれど、本来の目的とは大分逸れる仕事を押し付けられたようなもんだしさ……。
 しかも被害者が最下級とはいえ貴族家の人間だったのが不味いよ。絶対に聴取しなければならない人間に貴族が混じるし、そうなると現場に残された支局の人間だけでは対処出来ないもんね。

「でもホラド伯爵を疑ってるんでしょ?」

「……可能性としてあるだけよ」

 まさか領主を疑うなんてビックリだよね……可能性は無くはないけど、仮に本当に犯人だったとして、ホラド伯爵が自分の家臣の娘を殺す動機ってなんだろう? 凄く気になるね。

「お待たせしました。お館様がお会いになるそうです」

「そう」

 お、割と早いなぁ~? まだ軽くしかお姉さんと話してないのに……警察武官っていうよりも、スカーレット女男爵っていう身分が効いたのかな? そこら辺も観察すれば良いか。

「お付きの方はどうされますか?」

「? 僕の事かい?」

 屋敷の廊下を歩いていると、先導してくれていた門番のおじさんが聞いてくる……どうするも何もこのままついて行くつもりだけれど?

「彼女は応接室にでも案内しててくれるかしら?」

「? お姉さん?」

「ゼイポ騎士爵との話が終わるまでの間、しっかりと頼むわね・・・・・・・・・

「かしこまりました」

 …………ははぁ、なるほどそういう事かい? まさかそういう手に出るとはね……いいよ、やってらろうじゃないか! 名探偵の名にかけて期待以上の成果を上げてやろうじゃないか!

「じゃあね、アンジュ。良い子にしてるのよ・・・・・・・・・?」

「もちろんさ、お姉さん」

 そう言って手を振るお姉さんに満面の笑みで元気良く返事を返す……その途端お姉さんの顔が少し引き攣ったけれど、知らないや!

「では応接室はこちらです」

「了解さ」

 さーて、どうしてやろうかね?

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